Ⅸ
「そうね。私達は、過去を知っているからこそ、この時代に来たんじゃないの?」
「果たして、そう言い切れるでしょうか? 僕達が、過去に介入したことによって、その分岐点が変わったのではないのかと思うんです。それに僕はなぜ、この時代に僕と富山さんを送ったのかも気になりますからね」
「ふーん。犬伏って、そんなことを考えていたのね。意外ね……」
私は犬伏がそこまで考えていたとは思ってもいなかった。
いつもはただ、穏やかな男の子としか思ってもいなかったのに、何を考えているのやら。
「それに機関は天使の情報を黙っていましたし、何か裏があると思うんですよね」
ま、そういう事は犬伏に任せておけば、大丈夫でしょう。
私は、二人の帰りを待つだけ、でも、二人はまだ、帰ってくる気配はない。
「あれ?」
「どうかしましたか、富山さん?」
「ちょっと、これ、見てよ!」
二人の様子がおかしい。魔法が解けていく。
「これは……。瘴気の方も治まっているようですし、成功したのではないのでしょうか?」
坂田君も、葵も大丈夫なのかしら。無事に戻って来てほしい。
そう願っていた私は、二人がこの後、どうなるのか様子を窺う。
「ん、ん……」
最初に気が付き始めたのは、坂田君の方だった。
ゆっくりと目を覚まして、辺りをキョロキョロとすると、体を起こす。
「ここは……? そうか、戻ってこれたんだな……」
そう言って、葵の方を見る。
「どうやら、この賭けは成功したらしいな。いやー、でも、疲れたわ。腹がいてぇ……」
「そうですか。なんとか、辻中さんを連れ戻したようですね」
犬伏が、坂田君に話しかける。
「ああ。でも、こっちもこっちで意外と疲れたんだぞ。腹は貫かれるし、血は大量に出るはで、大変だったからなぁ……」
「それは何のことですか? 詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「いいけど、とりあえず、葵が起きてからでいいか? まだ、怪我の後遺症というか、無理に体が動かせないんだよ」
そう言うと、私はされ下なく手を坂田君に貸す。
「ん……」
それを見た坂田君は、何か察したのか、私の手を取り、ゆっくりと立ち上がった。
「ありがとうな、富山。少し、肩を貸してくれるか?」




