Ⅶ
「ま、色々とあったんだよ。だから、ここに来るのも少し遅くなった」
「そうですか……」
すると、いきなり、陣君は私を覆うようにぎゅっと抱きしめる。
「いいか? 今からお前をこの世界から連れ出す。だが、その前に受け取ってほしいものがあるんだ」
「受け取って欲しいものですか?」
「ああ、ここに来るまでアリエスに手伝ってもらったからな。だから、この血もその時にできた感じだな」
「服の血からして、腹部を刺されたんですか?」
「んー、間違ってはいないが、刺されたと言っても、その後の傷もないし、ただ、体全体に激痛が走っただけだな」
「もう! 無茶しないでください! あなたに何かあったら私は……」
「ははは……。でも、無茶しないといけない時だってこちらにもあるんだぞ。これでも一応、葵の彼氏だからな……」
私は、抱きしめられた体を引き離して、陣君の方を見た。
「それで、お腹を刺されてまで私に受け取って欲しいものって何ですか?」
じとー、と怪しい表情を浮かべながら、私は陣君に訊く。
「それは……これなんだが……」
陣君は、ズボンのポケットから指に入るくらいのサイズである輪っかを取り出した。
「それって……指輪ですか?」
「あ、ああ……。でも、ただの指輪ではないぞ。アリエスから聞いた話なんだが、俺の倍体、骨から採取した指輪であって、これが天使化の暴走を抑えるらしい。俺もまた、普通の人間ではないんだと……。だからこそ、これが効果的だって言っていた」
「そうですか。ん? ちょっと待ってください! 今、骨で作った指輪だと言いましたよね?」
「言ったな」
陣君は平然として、そう答えた。だとすると、この骨は一体どうやってこの形になったのか、頭が混乱してくる。
「じゃあ、お腹を刺されたのって、このためだったってことですか? でも、どうして、この形に?」
「アリエスはこれが一番だって言っていたから……。あ、でも、深い意味なんてないぞ! これは天使化の暴走を抑えるためであって、婚約とか、結婚指輪では、あ……」
口元を手で押さえる陣君。それを聞いた私は、少し恥ずかしくなった。
「あ、そうですよね。わ、分かっていますよ。そうです、そうですよね?」
自分で何を言っているんだろうと思う私。