Ⅲ
「最後の望み……だと?」
『ああ、そうよ。これが葵の望みよ。誰も苦しまず、全て、自分が責任を負う。彼女は、彼女なりの答えを出し、今、天使化の暴走を止めようとしている。それが命を犠牲にしてもね』
アリエスはそう言っているが、どこか、少し悲しげな表情をしている。
「分からねぇーな。葵が死んだら、お前も消滅するんじゃないのか?」
『………』
「それになぜ、お前は他の方法を葵に提案しない。俺だったらそうする。葵も、お前も、元々は同じ境遇じゃないのか? 教えてくれ、ここから葵を救い出し、天使化の暴走を完ぺきに抑える方法を」
しばらくして、腕を組み、俺の前に立っているアリエスが、はぁ、と息を吐いた。
『人間という生き物は、分からないわね。なぜ、そこまで自分の意志を貫き通そうとするのか。それにあなた達、二人を見ていると……、いえ、何でもないわ。本当は葵の意志を尊重したいけど、助からないなら、ここであなたを消すのもいいけど、方法がないわけではない』
「本当か?」
『だが、これにはあなたにも痛みを追ってもらわないといけない。その覚悟はある?』
「そんなの、葵の痛みに比べれば、どうってことない!」
『言ったわね。分かったわ。それだったら、教えてあげる。おそらく、誰も知らない天使だけが知っている暴走化の止め方を……ね』
アリエスは俺に対して、不気味な笑みを浮かべる。
なぜか、嫌な予感がするような気がした。一体、俺は何をされるのだろうか。
『とりあえず、あなたの骨の一部をもらうわよ』
「は? はぁあああああ⁉」
何を言い出すのかと思えば、『骨』だと? 俺の骨が何に利用されるんだよ。
『今、あなた達が知りうる天使化の暴走を止めるには、あれだけではダメよ。天使が宿る少女を完璧に、封印するには、あなたの倍体が必要なの。だから、『骨』なのよ』
「じゃあ、それがそうだったとして、俺の血とかでも駄目なのか?」
『ダメよ。形あるものしか、抑えることができない。今まで言っていなかったけど、あなたの体には魔力が流れているわ。でも、それは一人では使えないもの。でも、あなたの倍体を葵に渡すことで、その天使化を完璧に制御できるのよ』
アリエスは言った。
「じゃあ、なんで、それを早く言わなかったんだ⁉ もっと早く言っておけば、対処できただろう⁉ 違うのか⁉」
『そう言ってもね。それしか頼らなくなるし、痛みを追うのは、あなた自身、その痛みは、想像以上の痛みよ。もし、仮に十二回分、耐えられる?』