Ⅰ
翌日、俺と辻中、いや、葵は、昼休みになる文芸部の部室に足を運んだ。
「ここが天使について詳しい人がいるところですか……。でも、ここって、文芸部室では……」
葵は、困った顔をしながら俺の方を見た。
「表向きは武芸部の部室だ。一応、俺も所属している。って、言っても勝手に所属させられたんだけどな」
「そうなんですか。ちょっと緊張しますね。私もこの不安定な状態になってから、人に相談するのは初めてですから……」
手を胸に当てて、ぎゅっ、と握りしめる。
「それじゃあ、行くぞ。準備はいいか?」
「はい。いつでも大丈夫ですよ。覚悟は決まっていますから」
俺は、部室のドアをノックし、ドアを開いて、中に入った。
部屋にはいつ戻り、犬伏と富山が席に座って、俺たちが来るのを待っていた。
「待たせたな」
俺は犬伏に言うと、いつも変わらず微笑みのポーカーフェイスをしている犬伏が黙ったまま、小さく頷いた。
「えっと……この二人が陣君の協力者なのですか? 確か、犬伏君と富山さんでしたっけ? でも、どうして彼らが協力者なのですか?」
「それは、言いにくいんだが……、その……」
俺が困っていると、犬伏がそこに割って入って援護してくれる。
「それは我々が、天使について詳しいからですよ。僕たちが本来何者であるのかは、あなたには言いにくいのですが、この天使化の暴走を抑えるために僕たちは、この街に派遣された人間だと思ってください。もちろん、あなたの中に天使がいることについては、把握済みですし、その対処法も僕たちは知っています」
犬伏がそう説明すると、富山が急に立ち上がって、葵の前に立つ。
「ごめんなさい! 本当は、あなたに近づいたのは天使化を抑えるためだったの! 本当に悪いと思っているわ。でも、あんたと友達となりたいのは本当だからそれだけは信じてください」
富山は、葵の前で謝罪をし、しっかりと葵の方を見る。
「あ、気にしないでください。でも、私のために動いてくださるのでしたら悪い人ではないんでしょうし、それに……私、嬉しかったんです。声を掛けられたとき、一人ぼっちの私に一緒にいてくれたことが……」
葵は嬉しそうな顔をして、富山の手を軽く握った。