Ⅺ
こうして、俺たちは、天使化を抑えるための協力関係、いや、お試しの恋人同士になった。
「辻中、天使化ついて、詳しく話さないといけないよな……」
「は、はい。そうですよね。私も詳しくは知りませんので、それについて詳しい人に教えていただけると助かります」
俺と辻中は、職員室によって萩村先生に事情を説明した後、放課後の教室へと向かい、下校の準備をするところだった。
「それなら、明日になるんだが、それでもいいか?」
「はい。大丈夫ですよ。時間もあまりありませんが、なぜ、私が天使に憑りつかれたのかも知りたいです。こういうのは、本人が知った上で、対処した方がいいですからね」
「そうだな……」
自分の私物をカバンの中に入れ、誰もいない放課後の教室を俺たち二人は後にする。
夕日の差す、外の風景は、なんだか、今日の出来事を穏やかにしてくれるような温かい気持ちになる。
隣で歩く辻中は、言葉の数が少なく。どう会話を進めればいいか、お互い、それなりに戸惑ってしまうのだ。
「辻中は……家はどこら辺なんだ?」
「あ、はい。東の方角です。駅の近くです」
「なら、俺の家と近いな。せっかくだし、一緒に帰るか?」
「そ、そうですね。それがいいのかもしれません。少し、辺りも暗くなってきましたし、それに同級生と一緒に帰るのは、初めてなんです」
「珍しいな。本当に今まで誰とも一緒に帰ったことがなかったのか?」
驚く俺に辻中は、小さく頷く。
「はい。幼い頃から私は、人との関わり方が苦手な方でした。その上、家に帰ってもいつも一人で、両親が悪いって訳ではないんです。二人とも共働きでして、家に一人でいることが多かったので、やることと言えば、読書ばかりでした。そうして、今まで育ってきたので、今は、何といえばいいのでしょうか? あなたとのこの関係が、ちょっと不思議に思うんです。何と言葉にすればいいのか、ちょっと恥ずかしくて言えないです」
自転車にまたがり、校門を出て、共に家に帰る。
「俺の両親も共働きだからその気持ちは、少しわかるかもしれないな。俺の家には中学生の妹がいるんだが、あいつがいなかったら、おそらく、俺は今、この世にいたのかもわからないな。本当に妹には、頭が上がらないんだが、ま、俺も、辻中も、似た者同士ってことだな」
「似た者同士ですか……。そうですね。坂田君に妹がいたなんて意外でした」
「あ、そう見える? たまに言われるんだよな。一人っ子じゃないかって……」