Ⅸ
「俺は、本当に辻中を愛せるかどうか、その自信はない。俺だって、つい、最近、このようなことに巻き込まれたわけだし、それに辻中だけじゃない。他の奴だって、天使化によって、もしかすると、苦しめられているのかもしれないんだ。でも、辻中を助けたい気持ちは変わらないし、それに辻中は笑顔でいてほしいからな」
『ほぉ、笑顔でいてほしいと……。でも、それだけの覚悟では、まず、天使化は抑えられないのかもしれないわね』
「それくらい、分かって言っている。辻中がそれでもいいならそばにいてほしいし、俺は……辻中の事を嫌いにならないと思う。分からないけど、そう思うんだと思う。辻中を見ると、ほっとけないんだよな。だから、天使化は何としても抑えて見せる。絶対に辻中を不幸になんてさせない」
『それは嘘偽りない?』
「ああ、嘘偽りない。本気だ! 絶対に辻中を不幸になんてさせない!」
俺は視線を逸らさずに、ただ、辻中の目だけを見る。
『ふっ……。いいわよ。その覚悟が本当なら信じてみることにするわ。ただし、葵を裏切るようなことをしたら分かっているわよね』
「ああ、分かっている。それくらいの事、承知の上だ。煮るなり焼くなり好きにしろ!」
『そう……。後、もう一つ、天使化の暴走は、もう、すぐそこまで来ているわ。油断しないこと。いいわね』
「ああ、分かった」
『じゃあ、私はこの辺で消えるとするわ。また、いつか、会いましょう』
そう言いのこして、辻中は再び気を失って倒れた。
「お、おい! これって、元に……戻ったんだよな? おーい、辻中? 大丈夫か?」
俺は辻中に近づいて、彼女の体を抱きかかえる。
気を失っている辻中の反応は鈍く、俺の声を呼び掛けにゆっくりと目蓋を開いた。
「ようやく目が覚めたか。大丈夫か? 体に何か、違和感とかないか?」
心配している俺は、辻中の表情を確認する。どこもおかしいところはない。雰囲気は、辻中本人に感じられる。
「は、はい……。だ、大丈夫です……。あ、ありがとうございます……」
辻中は、急に顔が赤くなり、あたふたしている様子で、今にも爆発寸前に見えた。
「そ、そうか……。それならいいんだが……。何か、覚えているとかないか?」
俺は、彼女に確認を取る。さっきまでの話をしていたのが、辻中ではなかったのかの確認だ。
「そうですね。なんとなく、坂田君と私……、あっ、私と言いますか、もう一人の私が、話をしていたと言いますか……。その内容を覚えている感じでして……」
まじかよ……。あの話、辻中には聞かれていたのか……。




