Ⅰ
夢を見た。真っ暗な暗闇の中に光が射した。あれは誰かの記憶。いや、私の記憶。
でも、なんで私がそこに立っているの。もしかして、もう一人の私?
ああ、そうだ。これは私が自分自身の作り出した夢物語。
あなたは誰? 一体、誰なの?
もう一人の私が、私に覆いかぶさってくる。それはまるで悪夢のように。
いや、やめて! 何するの!
黒い影が私の体を包み込み、そして、私は暗い、暗い、闇の中へと引きずり込まれたのだ。
「はぁっ…はぁっ…はぁ……」
飛び起きたらいつものベットの上だった。周りを見渡すと、自分の部屋だ。何も変わらない。
汗びっしょりの体は、自分の身に何が起きたのか、全くわからなかった。
部屋に置いてある時計を見ると、もう七時を回っていた。
「あ、もう、こんな時間なんですね。急がないと、学校に遅刻してしまいます。急がないと!」
私はベットを飛び起きて、部屋を出た。急いで学校に行く準備をする。
あの夢は一体何だったのだろうか。未だに分からない。でも、もう一人の私って、なんだか不思議な感じがする。本当にあれは……。
× × ×
学校に着いた頃、丁度、歩いて登校してきた犬伏と出くわした。
「よぉ、歩いてくるってことは、家は学校の近くなのか?」
靴箱でシューズと靴を履き替える。
「おはようございます。そうですね。家はこの近くのアパートを借りておりまして、学校から近いのは、私にとっては都合がいいですからね。色々と……」
「そうかい。でもなぁ、今日はどうやって……えーっと……」
「辻中葵さんですよ。クラスメイトの名前くらいは覚えておいてください。これから付き合う彼女ですよ?」
犬伏は、少し笑っているように見えた。
「お前、絶対に楽しんでいるだろ? そのうさん臭さで分かるわ。そうだったな。辻中葵。そいつに会わないといけないんだろ?」
「あの……私がどうかしましたか?」
と、後ろから誰かが声を掛けてきた。




