XXIX
「なぁ、坂田」
と、一度も話をしたことがないクラスメイトの男子が話しかけてきた。
「ああ? なんだよ」
弁当を食べ始めようとした俺は、なぜか、恨みを買ったこともない男子生徒に睨みつけられる。
「お前、藤峰先輩のなんだ?」
やっぱ、その質問か。まぁ、覚悟はしていたが、面倒だ。
「さぁーな。知り合いみたいなもんだな」
俺は、クラスメイトの話など、どうでもいいと思っている。
「おいっ!」
胸元を掴まれた俺は、そのまま強制的に立たされる感じになる。
「なんだよ!」
俺はクラスメイトの男子を睨みつける。ここまでやられたら、黙っているわけにはいかない。
「ムカつくんだよ! その態度が!」
「それが?」
「お前、今、クラスを見て、何とも思わなかったのか?」
「何が?」
俺は、疑問形の返事しかしない。その態度にイラついているのか、他の男子も集まってくる。
ああ、めんどくせー。お前ら、皐月さんの何だって言いたいんだよ。彼氏とか、夫でもいいたいのか? 別に手も出していないし、そもそも、彼女は男がいるなんて聞いたことがない。
「いい加減にしろよ? 分かっているんだろ? 自分がしていることが」
俺の方を睨みつけてくる男子は、いい顔をしている。
ニヤッ、と笑う俺は、面倒とは思っている半分、やれるものならやってみろよと思った。
「さぁ? 俺は、ただ、藤峰先輩に忘れ物を届けてもらっただけであって、他に何もしていないだろ?」
「なんで、藤峰先輩が、お前みたいな奴に忘れ物を届けるんだ? それこそおかしいだろ⁉」
クビより上がそろそろ痛い。
「うるせぇーなぁ……。もう、その手を放せよ」
俺は声のトーンを低くして言った。
教室内は険悪なムードに包まれている。この雰囲気を作っているのが、誰なのかは、分かっているが、一度、この場を静めさせる必要がある。
「坂田、一発、殴らせろ!」
男子生徒の右拳が俺の顔面に目掛けて、襲い掛かってくる。
バシッ!




