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3.解かれる警戒心

ユベール視点になります。

 俺はユベール。学園の三年で、来春には騎士試験を受けるつもり。そのため剣術も馬術も勉強も夢中で向き合ってきた。


 だがこのところ同級生に絡まれる事が増えた。今日も昼に同級生に絡まれた。こいつらは自分の立場を確認するために俺をこうして蔑んでくる。


『辺境など田舎者』

 これを枕詞に絡んでくる。確かに田舎だ、王都に比べたら流行り物は手に入りにくい。街並みだって王都に比べたら古いし規模も小さい。大きな屋敷だってそうそう無い。だが、国境を警備する大事な役目を担っている、大事なところでもある。王都で呑気に暮らしている坊ちゃんに馬鹿にされる謂れはない。養父母は長いこと辺境の地で様々な問題に向き合い対処して、国の平安を維持する事に日々尽力しており、尊敬している。


 俺を蔑むことで奴らの気が済んで、卒業まで静かに過ごせたらそれで良いと思ってきた。模擬戦が近づけば俺様を勝たせろと八百長をけしかけてくる。面倒臭いし、そういう奴ら相手に本気を出したところで結果は見えている。あくまでも模擬であって、本試験ではないから気分で負けてやる時もあるが、そうするとわざと負けたのだろうと難癖を付けて来る。奴らは本当に面倒臭い。俺をサンドバッグとでも思っているのだろうか、馬鹿らしい。


 いつものように今度の模擬戦でも負けろと言ってきた。あいつらは正攻法で戦おうとしない。言い返しても無駄だし、一発殴らせて気が済むならいいだろうと黙っていれば、今日はあいつが邪魔をした。


 いつもあの茂みの向こうのベンチで、一人で飯を食っている女。何を思ったか猫の鳴き真似をしただけでなく、何か大きな音を出した。


 奴らはその音に慄いて逃げ出した。そのお陰で今日は殴られずに済んだのだが、今度はうめき声が聞こえてきた。もしかしたら倒れているのでは!? 先ほどの大きな音のせいか? 気になり茂みをかき分けて彼女の所へ急げば、血の出た膝を押さえて座り込んでいた。声をかけた事で更に驚かせてしまい、後退りした彼女は頭もぶつけた。笑いそうになるのを必死でこらえた。涙目になって膝と頭を抑える様子が可笑しく、またかわいらしく、笑ってはいけないと思いつつも肩は震えて涙もあふれてくる。笑い泣きなどここに来て初めてだ。


 だが出血もしているしそのままにもできないから近づいて声をかけ、手持ちのハンカチを膝に巻いた時だ、あいつの真っ直ぐな目線に、何故か囚われた。


 これまで何度も女生徒に言い寄られては近づくなと牽制をしてきた。媚を売る女は苦手で、極力彼女達の視線と絡まないようにしてきたが、こうも視線が絡んだのは初めてだった。そして、腹の音が鳴った。おそらく彼女と同時に。


 今から食堂に行っても残っていないか閉まっているだろうから今日の昼は諦めようと考え始めたとき、彼女が手作りの『弁当』を分けてくれた。今日は作りすぎたという。

 その渡された物に驚愕した。


「特製のおにぎり」

 彼女は確かにそう言った。


 知っている。


 おにぎりなら、小さな頃から何度も食べてきた。形はまん丸で、一口かじれば程よい塩気と米の甘み。懐かしいそれそのもので、しばらく忘れていた故郷を彷彿とさせ、気がついたら涙が溢れていた。


 女の前で泣くなどみっともないと思いつつ、もらったおにぎりを平らげたタイミングで名乗り合った。



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