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きみとぼくを結ぶもの  作者: 星影くもみ
番外編 導かれて君と出会う
20/20

3

 その日、ケイタは泣き疲れ、ローラの腕の中で眠ってしまった。翌日早くに、ジェラール・バレットが王都へ向かったのも知らずに懇々と眠り続け、目が覚めたら朝というには遅すぎるくらいに日は高かった。

 姿の見えないジェラールの行き先を聞いたケイタは顔を曇らせた。


「ケイタ? 何か心配?」

 ジェラールが王都へ向かったのはケイタに関する諸々の手続きのためだ。転移者が現れ保護した事を国に報告すること、その上で、ケイタの今後の事を相談する目的があった。成人なら教会で一時的に預かり、街で暮らしていけるだけの知識やスキルを身につけさせる。数十年前にやってきた転移者は既に大人だった。教会でこちらの世界の事を学び、市井へ降りて暮らし始めたという。ケイタは子供だから、子を欲しがる貴族に養子縁組として迎えられるのが一番いいとジェラールは考えた。子供のうちからこちらの家の子供になれば生きやすい。その打診を、子を欲しがる貴族へ出す手続きも必要だった。


 王都に滞在中の三日間で、養子を欲しいと孤児院に申請のあった貴族へ打診した。三日のうちに返事がもらえたらそれでいいし、それ以降はダックブルーまで連絡をくれれば本人と顔合わせをさせるつもりでいたが、滞在の三日では何の連絡も来なかった。かといって連絡が来るまで悠長に待つつもりも無く、十日の期限を設けた。既に打診から三日経っているから、実質残り七日。その間に誰からも連絡が何もなければ、ローラと話し合う。そう決めて帰ってきたが、その七日が過ぎても何の連絡も来なかった。


「ローラ、ケイタを養子にしたいと言ったら君はどう思う?」

 ヴァレット夫妻にも子が居なかった。だから、養子縁組をするのならヴァレット家でも何ら問題はなかった。


 驚いた顔で夫を見つめるローラ。


「賛成です、私も考えていましたの。あなたが留守の間、貴族の家に養子に入るのだと説明したのよ。そうしたら大泣きされてしまったの……」

 幼いケイタは貴族なら良い教育を受けさせてもらえるし、都会なら賑やかだし友達も出来よう。それに子が欲しい家なら無碍に扱ったりはしないだろう。だがケイタはこれを聞いて泣き出してしまった。


『ぼ、ぼくはここにいたらだめですか、また知らないところに行くのは怖い』


 産みの母親から突き放され、意図せずここへ来てしまっただけでも不安なのに、せっかく慣れてきたここを離れる事も不安に思ってしまった。


 屋敷の使用人や騎士団の連中とも打ち解けてきた頃だった。日中は騎士団の寮の手伝いをしに行っているが、そこで多くの騎士達から弟のようにかわいがられ、時間が開けば色々な話をしてくれた。転移者であるケイタに遠慮せず故郷の話、恋人の話、辺境伯の話、魔獣狩りの話、ケイタは彼らの話に夢中になった。楽しい。ここへきて初めて楽しいという感覚が湧いてきたところだったのに、よその家へ養子に出されると聞いて、たちまち寂しさが蘇ってしまった。


「だから、どこからも声が掛からなかったら私たちが養い親になったらどうかしらって言おうと思ってたの」


*  *  *


 夫妻でケイタの部屋を訪れたとき、ケイタは窓辺にいて外を眺めていた。曇天はケイタの心を著しているかのように今にも泣き出しそうだった。


「ケイタ、こっちへおいで、話がある」

 強張った顔つきで、夫妻の正面のソファに座った。


「私たちは、ケイタにより良い暮らしを思って、王都の貴族に養子縁組の打診をした」

 養子縁組、と聞いて、ビクッとするケイタ。二人の顔が怖くて見られない。自分のつま先をじっと見つめ、ジェラールの話を聞いていた。


「だが、名乗りを上げる家が無いまま十日が経った。もうこれ以上は待てない。お前をこのヴァレット家の養子にしようと思うがどうだろうか?」

 ぱぁっと顔を明るくして顔を上げた。正面に座る夫妻は笑顔でケイタを見ていた。


「ほんとうに? ぼく、ぼくここにいたいです、ジェラールさんやローラさんや騎士のお兄さんたちともっと一緒に居たい」

 言いながら泣き出したケイタ。隣に席を移したローラが抱きしめる。


「よし、それならケイタ。涙を拭いて聞きなさい」

 こくりと頷いて涙を拭いた。


「ヴァレット家の養子になるに当たって、私たちが新しい名前をつけた」

「新しい、名前?」

「ユベール。ユベール・ヴァレット。どうだ、良い名だろう? "ケイタ"というのは元の世界での名だ。大切にしまっておきなさい。この先、大切な人ができたらその人にだけ教えるといい」

「はい」

「私たちのことは、父、母と思って。もうあなたをどこへもやらないわ、安心なさい」


 そうしてヴァレット家の養子ユベールとしての日がはじまった。執事ら使用人は"ユベール様"と態度を改めた。これまでは屋敷内の客間を使っていたが、私室を与えられた。客間よりも広く、重厚な作りの机と椅子、本棚などがある居間に続く寝室のある立派な部屋だった。

 騎士団連中は、養子といっても弟的なユベールを変わらず可愛がってくれた。覚えていて損はないと、この国の成り立ちや周辺国のこと、剣術、体術、馬術など様々な体験と訓練にユベールを参加させた。覚えがよく、また新しい事を知ることが楽しいユベールは成長著しく、成長するにつれて筋肉もついて身体がしっかりしてきた。それに伴って精神面でも強くなり、やってきた頃のように泣く事は減った。


*  *  *


「だから、大きくなったら騎士になってここへ帰って来るって決めてた。養父上や騎士のみんな、俺を受け入れてくれたみんなに恩返しがしたくて決めてた」

「騎士になるために学園に来て、そうして私と出会ったのね」

 腕の中のアマンディーヌがケイタの胸に顔をすり寄せる。


「あちらへ帰りたいと思ったことはある?」

「はじめは思ってた。でも今は思わないな、ディーと離れたくない。だからこちらへ来られて良かったと思ってるよ」

 ふふ、と微笑んだアマンディーヌに口付ける。


「あ、そうだ! 私ね、ここへ来る前にお祖母様にご報告したの。あの応接間に飾ってある肖像画、覚えてる?」

 ウィンクしたように見えたあの絵だ、すぐに判った。


「ユベール・ヴァレット様に嫁ぎますって。そしたら、お祖母様のお顔が、あのね……信じてもらえないかもしれないけど、ウィンクしたの!」

 ガバッと起き上がり、興奮してユベールに言えば、彼も起き上がり言った。


「やっぱり?!」

「え、やっぱりって」

「初めてディーの家に行った時、あの絵を見てたら中の女性がウィンクしたように見えたんだ」

 気のせいかと思っていた。こちらの世界の、何らかの力が作用してそう見えているだけかもしれないが……。


「ディーと出会うためにこっちに導かれたんだ、そう思う」

 正面に座るアマンディーヌを抱き寄せ、フワッと笑みを浮かべたアマンディーヌに口づけを落とす。啄むように何度も離れては近づいて、二人の夜は甘く更けていった。



これまでお読みくださりありがとうございました。

この番外編で以て、完結といたします。

拙い作りながら、最後までお付き合いくださり

ありがとうございました。


また別の作品でお会いしましょう♪


*  *  *


アクセス・感想・お星様などなど、ありがとうございます。

励みになっています。


星影くもみ☁️



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