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17.結び(完)

 ヴァレット辺境伯夫妻が王都にいる間に、ユベールとアマンディーヌの婚約が正式なものとなった。必要な書類を作り貴族院へ申請することで婚約は成立する。同時に婚姻までの大雑把な予定も書き添える事になっていて、式はアマンディーヌが卒業し、ユベールの騎士研修期間が終わった後、辺境へ戻るタイミングで行うことが決まった。


 その婚約が成立してから数日後、ヴァレット夫妻が帰る日が来た。

「アマンディーヌさん、また会いに来るわね。身体に気をつけて。それからユベールの事、よろしく頼みます」

「はい。お義母様も、道中お気をつけください。あのこれ、途中でお召し上がりください、私がお作りしたおにぎりにございます」

 早起きして弁当を作り、ヴァレット家の屋敷を訪れたアマンディーヌは、彼らが馬車に乗り込む直前、弁当を手渡した。


「まあ! 道中楽しみができました。うれしいわ、ありがとう。いただきます。ユベール、アマンディーヌさんを泣かせる事はなりませんよ、騎士としてしっかり守りなさい」

 ユベールは隣に立つアマンディーヌの肩を抱いて頷いた。


*  *  *


 ユベールは学園を卒業後に受けた騎士試験にトップで合格した。幼い頃から現役の騎士達に鍛えられてきた剣術はもちろん、座学の方も優秀だった。合格後はおよそ二年、研修騎士として寮で過ごして務めを果たし、第二段階の試験も無事にクリアできた。


 騎士団は三つに分かれていて、第一騎士団は王族の警護を担う。騎士試験で成績上位者や貴族令息の嫡男等が入る事が多く、王やその家族の身辺を常に守る。一番華やかで、騎士団の花形とも称される部署だ。

 第二騎士団は王都とその近辺の保安に務める。管轄が広いため所属人数も多ければ出動回数も多く一番忙しい。身体的にはここが一番大変だが、ある程度自由が利くため安定して働ける部署でもある。

 第三騎士団は主に辺境などに駐留して警護等を行う。王都から離れる事、一度赴任したら任期が長く休暇があってもおいそれと実家へ帰って来られない距離が敬遠され希望者が少ない。だがユベールは実家が辺境であること、次期辺境伯でもあるし希望を出していたことから、第三騎士団に配属された。


 ユベールの異動が決まった頃と時を同じくして、アマンディーヌは学園を卒業し、二人は正式に結婚した。挙式は王都のはずれにある小ぢんまりした教会で行われ、そのままアマンディーヌはヴァレット領の辺境の地へ、ユベールと共に向かった。


*  *  *


 それから十数年が経って、ユベールは第三騎士団団長まで昇り詰めた。騎士団長になると、望めば第一騎士団に編入もできるが、領主である事と彼の妻アマンディーヌが辺境の地で事業を起こしているため、第三騎士団団長として定年まで勤め上げた。


 妻アマンディーヌは、実家のコメを使って作った弁当屋を営んでいた。かつてルロワ伯爵家で食べたカレーが忘れられない義父ジェラールの口添えで、騎士団寮にカレーを出したことがきっかけで、遠征の際の弁当を作る事になった。コメを使った一風変わった弁当は騎士団で瞬く間に人気となり、第三騎士団を希望する者が増えたと聞いたのはだいぶ後のことだ。


 有事の際は後方支援として野営への提供もして、長いこと騎士団御用達だったが、美味しいと噂を聞きつけた一般の人々も食べてみたいという声があがり、街に小さな路面店を構えた。オープンは不定期で、有事でない時と、アマンディーヌに余裕がある時だけ、と断りを掲げたところ、それが却って希少価値をあげた。おにぎりと、それに合うおかずを数品店頭に並べれば、その日の昼が来る前には売り切れてしまうほどで、それでも騎士団への提供がメインなため、いくら売れても開店日を増やしたり店を広くしたりする事はなかった。


 たまにしか開かない店の、広くはない庭には木が一本と、丸太を輪切りにしたテーブルとベンチが置かれている。開店時に訪れた客は、ここでおにぎりを頬張る仲睦まじい辺境伯夫妻の姿を何度も目にした。


 彼らを結んだ学生時代、いつもそうしていたように。



 ―完―

本編はこちらで完結となります。


お読みくださりありがとうございました。

書き足りない部分がいくつかありまして、

それは番外編として投稿していこうと思っています。


引き続きよろしくお願いいたします。

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