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10.罠

 朝、アマンディーヌが教室に入ると、絡んだことのない令嬢が近づいてきた。

「先ほど廊下で、あなたにこっそり渡すよう頼まれましたの。口外なさらないで」

 小声で話しかけてきて、小さく折り畳まれた紙片を押し付けた。令嬢はどこか怯えた目をしていて、アマンディーヌと視線を合わせようとしない。もともと他生徒と話していないから、余計にこの令嬢が誰だかわからない。


「えっ、誰、待って、ちょっと」

 令嬢はアマンディーヌの掌に紙片があるのを確認してすぐ足早に教室を出て行った。何なのと思いつつ押し付けられた紙を開いてみれば、短い文が書かれていた。


 ――――アマンディーヌ・ルロワ嬢へ 今日の昼は東の端の厩にしよう、待ってる。ユベール・ヴァレット


「東の端の厩は確か使われていないところよ? どうしてそんなところ」

 古い石造りの厩が、学園の敷地東の端にある。今すぐ崩壊するような傷みがあるわけではないが、校舎から遠いためいつしか使われなくなり、校舎に近い場所に新しく建て直した。いずれ取り壊すことが決まっていて、跡地をどう活用するかを話し合っているところだと聞いたことがある。

 奉仕作業中に一度見た記憶があるが、そこへ行くには鬱蒼としている木立の間を抜けて行かなければならず、日の暮れに一人で向かうなら恐怖を覚える。その道中だけでなく、建物事態も古びていてい、蔦が屋根にまで到達しそうなほどに茂っており、窓はあるものの小さく中を明るくするほどの機能は無い。アマンディーヌは、とてもじゃないが食事を楽しめる場所ではないそんな場所を指定してきた事に違和感を覚えた。更には、"アマンディーヌ嬢"と書いてあったのも気になった。ユベールからは"ディー"と呼ばれていて、一度たりともアマンディーヌ"嬢"などと呼ばれたことはない。手紙ならそう言うふうに記すものなんだろうか。訝しんだものの、本当にユベール様からならお待たせするわけにもいかない。そう思って紙片はポケットに押し込み、午前の授業を受けた。そうして昼になってすぐ弁当を抱え校舎を抜ける廊下を走った。


*  *  *


 いつもの四阿でアマンディーヌを待っていたユベールは、昨日の会話を思い出していた。

『明日はユベール様も召し上がった覚えがあるかもしれないものを入れてきますよ』

 なんだろう、食べた覚えがあるもの……8歳までに食べたもの……そう思ってふと遠くを眺めれば、いつも絡んでくる奴らが小走りにどこかへ向かう姿を見つけた。


 ――あいつら……あっちは古い厩があるだけだろ……何しに行くんだ、授業サボる気か? 本当にどうしようも無いな。


 木々の間に消えていく彼らに呆れながら目で追っていて、すぐそばに誰かが来ていた事に気がつかなかった。パキッと小枝を踏む音がして、初めて気づき、全身に緊張を走らせる。アマンディーヌならば、小枝を踏むより早くユベールの名を呼んで駆けてくるからわかる。何なら足音だけでディーが来た、と顔がニヤけてしまうのだが、小枝を踏んだ者はすぐ近くに来るまで気がつかなかった。

 振り向けば見たことのない女生徒が居た。ニヤけた顔で近づいてくる気味悪さにベンチを立って後ずされば、粘りのある、まとわりつくような不快な声がした。


「アマンディーヌ様から、自分はもうユベール様とのお昼を辞めたいと言伝を頼まれましたの。餌付けは飽きたとおっしゃってましたわ」

「は? お前は誰だ」

「ユベール様の同級の、エルフリーデ・ダナです。何度かお話しさせていただいた事がございますのよ」

 そう言いながらエルフリーデは少しずつユベールに近づいていく。


 ――複数の男と遊んだアマンディーヌに愛想を尽かして傷心しているところを、わたくしが優しく包んであげればユベールはわたくしのもの……!!


「それで何だ」

 ユベールの頭の中に警報が響く。アマンディーヌが昼を止めたいだと? 言うわけがない。万が一そう思っていたのだとしても、そんな大事なことを他人に頼むような女じゃない。

「で、ですから、アマンディーヌ様から言伝が……」


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