〜時を超えて〜
王道のお話しのはじまりです。
「ねえ、ご覧になって、アマンディーヌ様、また……」
「使用人みたいなことなさって…みっともないったら」
こんな声を浴びているのは、弁当の包みを抱え、窮屈な教室や食堂ではなく東屋を目指すアマンディーヌ・ド・ルロワ。
祖父が若い頃にあげた武勲の褒章として叙爵された伯爵家の一人娘だ。爵位持ちとしては当代当主が二代目であるから、家としての歴史は浅い。そのためやることなす事が目立ってしまい、こうして古くからの貴族には疎まれていた。
だがそんな声を全く聞いていないアマンディーヌは今日もご機嫌で弁当の包みを抱え、東屋へ向かっていた。
(今日の玉子焼きはとっても美味しく焼けたから楽しみ!)
すれ違う同級生達から何を言われているかなど全く意に介しないアマンディーヌは、すいすいと間を縫って東屋を目指した。
到着した東屋は、庭にいくつもあるうちの一つ。小さな池があったり薔薇の小道が見えたりする人気の東屋と違って、あまり手入れの届いていない小道の先にあり、教室からは少し遠いため利用する者があまり居ない。アマンディーヌは隠れ家的な佇まいが気に入って、多少遠くても天気が良ければここを利用している。
屋内の食堂は、およそ食事時には聞きたくない噂話が飛び交うし、また貴族の令息令嬢等の不躾な視線だって不快だ。彼らに噂話のネタを提供してやる必要は無く、気がついたらここが定位置になっていた。
着いた東屋に敷布を広げ、その上に腰を下ろす。膝の上で弁当の包みを解いて蓋をあけ今日の弁当を眺める。
(んー! 玉子焼き、芋の串揚げ、きのこの佃煮と青菜のお浸し、それからおにぎり! さいっこう! 私、天才!)
無言でその美味しそうな弁当を讃え、手を伸ばした時だった。
いつもは耳にしない無骨な声が聞こえてきた。東屋の裏の茂みの向こうで複数の人が話している。
「お前、来週の模擬戦ではわかってるだろうな」
「ふっ」
「何がおかしい、辺境のくせに!」
「大人数でこうでもしなきゃ勝つ自信無いんだろう? 気の毒なことだ」
ガサガサッと複数の人が動く音が聞こえる。
「お前らユベールを押さえろ!」
アマンディーヌは口を押さえて驚いた。そんなセリフは、昼休みに庭でかけっこをする仲間がいうセリフじゃない。ならば彼らはユベール様とやらをいじめて……?! アマンディーヌは咄嗟に声を出した。
「にゃあーーーお! にゃああー!」