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ドーバー海峡の橋の上で  作者: 根津白山
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二重奏

「おじいは昔、総務省の事務次官だったんだ」


「え!?そうなの。自衛隊かと思ってた」


幸信には、初耳の情報であった。


「まあ、自衛隊に出向してた時もあるから、そう勘違いしても仕方ない。総務省にいた時、有名な噂があったんだ。本郷の姓を持つ者には特別な仕事が与えられていると。その仕事とは、上界と下界を結ぶ使者となり、生贄を上界に献上する役割を担っていると」


この世界には古くから世界共通の伝承があった。世界は、上界と下界に分かれており、上界には人ならざる者、人智を超越した力を持つものが存在し、この下界を支配している。上界人は、汚れ仕事など一般の上界人がしたがらない仕事をさせるために、下界人を奴隷にしている。下界人は、自治が認められており、上界に毎年一定数の生贄を献上するならば、上界人は下界人に不干渉であり、上界人は下界に現れないと言い伝えられてきた。

実際、幸信や周りの大人で、上界人を見たことがある人はいなかった。


現在では、上界そのものが存在しないのではないかと議論されており、実際、上界調査が何度も行われたが、一回も上界らしきものを見つけることができなかった。


「てことは、本郷さんのお父さんは、上界人と繋がっていて、生贄を送っていると?!でも、それってただの伝承じゃないの。今は上界なんてものはないって言われてるじゃん」


「いや、そうなんじゃが、まあ、おじいはな、あながち上界が存在するってのは嘘じゃないとおもうんじゃよ」


「何か根拠でもあるの?」


「根拠は……、ないが、昔は神や妖怪などの伝承だってあるだろ、多分その時代って実際に身近に私達とは違ったことわりのなかを生きる何かがいて、それを私たちは神や妖怪って言ってるだけで、実際には全部上界人だったかも知らんぞ。」


「また、おじいの妄想が始まったよ」


幸信は、おじいの話を、いつもの妄言だと一蹴して耳から流した。


「まあ、そうじゃったら面白いなってだけの話だが、それと、昔、おじいの曾祖父はな、『五ノ神家は、代々下界を守る門番で、天皇陛下から拝受しているのだ』って仕切りに言ってたんよ。周りは曾祖父さんの言ってることは戯言だって見向きもしなかったけど、幸信ももし全部本当なら面白いと思うだろ」


「ほんとだったら、うちはもっと名家で、今頃大豪邸に住んでたんじゃないか?」


幸信は、そう受け流し、この時、おじいの話をあまり気に止めることなく、すぐに忘れ去った。

————————————

月曜日


「朝のホームルームを始める」


担任の中牟田が教室に入ってきて、いつものテンションでホームルームを始めた。


「あと1ヶ月で、6月だが、文化祭がある。高校2年は、出店や出し物をしてもらうことになっている。今日から一週間後までに、内容を決め先生に企画書を提出しなさい」


ホームルームが終わると生徒達は、仲がいいもの同士集まって、文化祭の企画を楽しそうに話していた。


当然、美人でおしとやかな本郷は、ひっきりなしに一緒に企画をやらないかと勧誘を受けていた。


しかし、本郷は、レッスンがあるからと上手く誘いをかわし続けていた。


昼休みになり、いつものように幸信は音楽室に向かった。


ガラガラと音楽室のドアを開けると、グランドピアノの椅子に誰かが座っているのが見えた。


「ほ、本郷さん?」


「あ、幸信くん、待ったよ〜」


「待ち合わせとかしてたっけ?誰かを待ってたの?」


「いやいや、幸信くんを待ってたんだよ。待ち合わせの約束はしてないけど、待ちくたびれたよ〜」


「それで本郷さんどうしたの?今日も二重奏やる?」


「それはいい提案だね。だけど今日は、私から提案があるの。今度の文化祭、この学校にはコンテスト部門があるみたいじゃない。一緒に出ない?私と二重奏しようよ!」


「え!?二重奏?コンテストで!?」


「そう、幸信くんとなら優勝だって狙えると思うんだよね。後、みんなに幸信くんの魅力を伝えたい!」


「すごい魅力的な話だけど、自分はみんなの前で演奏することができないんだ。」


「え?どうして?何か、制約でもあるの?」


「うん、制約って言えば制約とも言ったり言わなかったり‥‥‥」


「そうなんだ、なんかごめんね無理強いしちゃって。」


本郷は、笑っていたが、少し目線を横にずらしながら悲しそうな顔をしていた。


「別にいいよ、そんじゃ今日は一曲聴いてく?」


幸信は気まずくなった雰囲気を和らげようと、何かいい曲はないかと思考を必死に巡らした。


そして、「美しく青きドナウ」を弾いた。


本郷は、目を閉じ、幸信の音に身を委ね、どっぷりと浸った。


演奏が終わると、


「なんだか、幸信くんのピアノを聴いてると、君の演奏を独り占めしたくなってきちゃうね。」


本郷の心は確かに高揚していた。そして、頰を赤らめ、目線を泳がせながら、幸信に感じたことを伝えた。


「え、え、え、まあ、弾いて欲しい曲があるなら、本郷さんのためなら弾いて、あげても、いいかな、と」


「嬉しい、ありがとう」


「そんじゃまた授業が始まるから戻ろう」


相変わらず、幸信はこの手のシチュエーションが苦手で、早々と切り上げたくなるのであった。


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