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裏庭には王子がいる

ゴミ事件があった翌朝。レイアの作った落とし穴には誰かが落ちていた。また多少木の枝などゴミが増えていた穴のそば。不法投棄の犯人が落ちた様子。レイアは嬉しそうに手を叩いていた。


「レイア。そんなにゴミが嬉しいの?」

「ブーセン。私の嬉しいのはそっちじゃないわ。それよりちょっと教えて欲しいの」


可愛い小悪魔妖精のブーセン。レイアは優しく尋ねた。


「この前。お前にゴミを片付けてもらったわよね?あの時、どこに運んだの?」

「レイアの言う通りにしたよ。『燃やしていいもの』があって、って場所」


……おかしいな。


実際にあったのは王室の会計室。ブーセンはへそ曲がりであるが嘘は言わない。不思議に思うレイアにブーセンは肩に乗った。


「それよりもさ。アンノーンが穴に落ちたんだね」

「あ?そうだった」

「足跡が続いているよ、ほら!」


ブーセンは嬉しそうにこっちこっち!とレイアのスカートの裾を引いた。レイアも犯人を探すために白い粉の跡を辿り始めた。

広い庭。雨が降らないうちにレイアはブーセンと広い庭を進んだ。


「こっちこっち」

「ここね。奴の居場所は」


落ちた時は夜の道。犯人は自分についた砂に気がつかなかったのだろう。庭に残った痕跡をたどったレイア。とうとう敵が入ったであろう建物を見上げた。


「ここは……やけに豪華な作りだわ」


白亜の建物。素敵なバルコニー。思わずレイアは見惚れていた。


「ねえ、ブーセン。ここは誰の建物なの」

「知らないの?ここはね」


その時、背後から男の声がした。


「おい!そこの娘。何をしている」

「え」


やってきた近衛兵。レイアは連行されそうになった。


「離して!私は庭番です」

「庭番?ここは王子のお屋敷だ。何をしている!」

「ここって。王子の屋敷なんですか」


驚くレイア。ブーセンはスカートに隠れた。近衛兵はそうだと怒りながら話した。


「すいません。私、新人で、迷子です」

「なんだと?全く」


レイアは必死に謝り解放してもらった。そして元の庭に戻っていった。




「大丈夫?レイア」

「ブーセン。今度は知っていることは先に教えてね」


……おかしいな。確かに足跡はここなんだけど。


謎の男アンノーン。彼を捉えられなかったレイアはすごすごと庭に戻ってきた。そんなレイアは管理人室で日誌を書こうとした。


「ちょっと。また事件よ」

「リラ先輩がですか」

「あんた。いい加減にしなさいよ」


イライラのリラ。レイアをじっと睨んだ。


「王子が。ユリウス王子が怪我をしたのよ」

「王子?このお城のですか」


広い王宮。レイアはまだ王族を見かけたこともなかった。リラは王子様が怪我をしたと興奮していた。


「他の国の王子なわけがないでしょ?これはね。誰かに襲われのよ」


ユリウス王子は剣や体術で鍛えた強い戦士だという。そんな王子が襲われたとお城中が大騒ぎになっていた。


……ふーん。大変ね。


「ねえ。その犯人を探しているのよ。あんたはウロウロしてると捕まるわよ?」


すでにウロウロして近衛兵に捕まっているレイア。満面の笑みを浮かべた。


「心得ました」

「と言うわけで。レイア。裏庭の草取りをお願い」

「私ですか?」


リラはそう言ってどこかに行ってしまった。


……多分、これ。先輩のお仕事ですよね。


しかし新参者のレイア。午後は言われた通り、裏庭の掃除に出向いた。


……そうよ。リラ先輩はお疲れなのよ。


年上の彼女の身体能力を心配したレイア。彼女のために若さを武器に草取りの農具と樽。そして首にタオルを撒いた。そしてレイアは午後の裏庭に詩をそらじながら顔を出した。


「『裏庭には二羽、ニワトリがいる……裏庭には二羽、ニワトリが』うわ?綺麗」


噴水のある庭。背の低い花で構成された箱庭にはベンチがあった。美しさで思わずうっとりしていた。

まるで天使の庭。花とオブジェのハーモニー。芸術に満たされた庭にレイアは感激していた。

その時、男性の声がした。



「誰?」

「え。庭番ですけど」


レイアの目の前には。ベンチに座ったやけに豪華な服の男性が座っていた。金髪に光る姿、張った肩、優しい顔付き。長い足。品の良い佇まい。レイアは硬直した。




◇◇◇


「ど、どうもです」

「見ない顔だね。新しい庭師さんかな?」


……やばい、まずい。きっとこの人って。


見たことがないようなキラキラした眩しい微笑み。穏やかな雰囲気、品のある声。彼はレイアに笑みを見せた。レイアは震える声で挨拶をした。


「は、初めまして。私は、新人のレイアです」

「ふふふ。自分で新人ていうの面白いね」


彼はベンチに座ったまま首を傾げた。


「この城の王子。ユリウスです。君はお庭のお手入れですか」

「はい!」


うわずってしまった声。王子はくすくすと笑った。


「面白いなあ……あ?痛たた」


痛みで顔を歪めた王子。レイアは咄嗟に樽を置いた。


「そうでした?お怪我をしているでしたよね?あの、誰かーーお助けー!!」

「それ止めて。頼むから」


レイアの呼び声。王子は止めた。しかしレイアは不安でいっぱいだった。


「でも。助けを呼ばないとお命が」

「そこまでじゃないから!とにかく、静かに」

「ご命令とあれば」


青白い顔で彼は手で制した。レイアはひとまず人を呼ぶのを止めた。しかしこんな高貴な人がいたら草木の手入れはできない。レイアは樽を再び持った。


「そうですか。ではこれで失礼を」

「……みんなそうなるんだ。僕がいたら出て行ってしまう」


……ど、どうする?悲しそうだけど。


憂に満ちた悲しい顔。落ち込む彼の姿。レイアは退席するのは簡単。しかし今はちょっと不味そうな雰囲気。レイアは少しだけ手入れをすることにした。


「では失礼して、芝生の手入れをさせていただきます」

「どうぞ」


レイアは芝生の間から生えてきた雑草を手で抜いていた。王子はおもむろに話しかけてきた。


「ねえ。君ってさ。夢を見ることがある?」

「それは寝ている時に視る方ですか。それとも起きてる時のですか」

「……君は起きている時に夢を見るの?」


驚き顔の王子。レイアは手を休めて向かった。


「私が言っているのは将来や希望のことですね」

「じゃ。僕の言っているのは寝ている時のものだな」


レイアは汗を拭きながら彼に答えた。


「その夢なら視ているかもしれないですけど。起きたら忘れてますね」

「僕もだよ。やっぱりそうか」


王子は遠い空を見上げた。


「どうしたら夢を覚えているのかな」

「……寝床に紙を置いて、起きたらすぐ書くとか」

「もうやったよ」

「夜中に誰かに起こしてもらうとかは、どうですか」

「それはどういう意味なの?」


綺麗な澄んだ瞳。レイアはまぶしくて倒れそうになった。


「あの、それはですね」


説明しようとした時。足音が響いてきた。


「あ。ここにいた!王子」


いつの間にか。レイアの背後には王子の側近らしき人たちが取り囲んでいた。レイアは咄嗟に庭の隅に避けた。


「待って。まだ、彼女と話の最中」

「下人ですぞ。なりません。足の怪我があるのに」

「あ?君。後で夢の話を」


話の途中。しかし王子は側近の人達に抱えられながら王宮の奥へと去っていった。


……大変そう。


どこか寂しい王子の横顔。これを思いながらレイアは草取りを終えた。




◇◇◇

この夜。レイアは念のため落とし穴の付近で見張りをしていた。


……落下したから。もしかして来ないかもしれないけど。


月明かり。この夜は寒かった。部屋に戻ろうと思ったが、それも面倒だったレイアは庭の薪で火を起こしていた。


「さぶ……それにお腹減ったな。きのこでも焼こうかな……」

「おい、お前!お前だな?穴を掘ったのは」

「へ」


火の向こう。そこには見覚えのある端正な顔の男がいた。




「え?あの。王子様ですか」

「うるせえ!お前、俺の足、どうしてくれるんだよ!」


怒った彼はレイアの背後に立ち、いきなりヘッドロックをした。男の力。レイアは叶うはずなくジタバタしていた。


「く。苦しい?ギブアップ」

「うるせえ!俺はもっと苦しかったぜ……」


背後から締められたレイア。ここで得意の護身術を敢行した。


……えい!


無防備な脇腹。ここにレイアの肘打ちが炸裂。


「ぐえ?」


男の力が緩んだ。


「とりゃ!」


そして渾身の力の踵落とし。足の甲を容赦せず踏んだ。


「ぎゃあ?……足が。足が」


火がついたような騒ぎで、彼は土の上で七転八倒した。レイアをそれを肩で息をしながら見ていた。


「はあ、はあ」

「ひどすぎる……お前?俺は足が痛いって言ってんのに。そこを踏むか普通?」


足を押さえる男。涙目でレイアを見ていた。


「はあ、はあ。すいません、余裕なくて、つい。本気でやってしまいました」

「くそ。痛ぇ。ううう」



暗闇の中の焚き火が照らす顔。レイアは王子に似た王族の誰かだと思った。


「みろ。俺の足を足を?お前のせいだぞ」


投げ出した左足首。ちょっと診れば彼も納得すると思ったレイア。彼のサンダルを脱がそうとした。


「どれどれ」

「痛い痛い痛い!?」


暴れる男。レイアは彼を冷たく見た。


「診せる気ないですよね」

「あるよ!満々だよ、くそ」


やがて大人しくなったサンダルの足。その隙間から。レイアはそっと足首を診た。


……大きな足。あらら?本当に腫れてるわ。


この腫れ。骨折ではなさそうだった。思わず彼女の顔が歪んだ。


「痛むでしょう?これ」

「だから。俺はさっきからそう言ってるの!お前、聞いてた?」


怒り散らす男。レイアは関せず思考を凝らした。


……腫れが引く薬草。そして痛み止め。あとは、興奮を抑える薬草を。


レイアは夜の庭をランプを持ち、ヌッと立ち上がった。


「どこに行くんだよ!おい?」

「薬草を摘んでくるだけです」


そして薬草を摘みに夜の庭に溶けていったレイア。すぐに手に草を抱えて帰ってきた。男はほっとした顔を見せた。


「戻ってきたか。てっきり俺を見捨てたと思ったぜ」


レイアはけろりとした顔で、焚き火に近づいた。


「捨てる以前に、私はあなたを拾ってませんから」

「拾え!今すぐ。俺が可哀想だろ!」

「元気そうですね」


……それにここまで歩いて来たようだし。大袈裟なのかもね。


レイアは鍋にお湯を茹で出した。焚き火の前。炎が照らす顔はやはり王子。寝そべっている彼。しかしかなり雰囲気が違っていた。彼女は薬草をナイフでカットしていた。彼はその様子をじって見えていた。


「お前さ。見てわかると思うが、俺はヤギじゃないぞ」

「話ができますものね」


真顔で話すレイア。とうとう男は笑顔を見せた。


「お前面白いな?して、何だその草は」

「痛み止めの薬草です。今からこれを茹でるんです」


本当は興奮を抑える薬草もあるが、レイアは黙っていた。グツグツ茹でる様子。液体はドロドロになっていった。


「……効くんだろうな」

「さあ」

「さあってお前。いい加減なことを言うな」


……うるさいな。この人。


金髪の顔。静かにしていれば王子のように品がいい彼。しかし、言葉は乱暴だった。


「いい加減といえば。貴方様は誰なんですか」

「俺か?俺はルカだ」

「ルカ様」

「様は要らない」


……他に何をつければいいんだろう。


高貴な人を知らないレイア。どうすればいいか困っていた。王族の家族関係も把握してないレイア。戸惑う彼女の元にブーセンが顔を出した。


「レイア。遊ぼう」

「まあ?ブーセン。今はあちらの方のお薬を作っているのよ」

「あちらの方?」


ブーセンはむすとした彼を指した。


「ほっとけよ。あんな男」


すると彼はにっこり微笑んだ。


「なあ、小人妖精君?ちょっとこっち来い?良い子だ、さあ、お兄さんが遊んでやるよ。こっちだ……うん。おいでおいで」


怪しいルカの招き。ブーセンは小首を傾げて近づいた。


「本当?何かくれるの……うわ?」

「捕まえた!お前な?良いか。俺を馬鹿にすると」


腕に捕まったブーセン。ルカの顔を引っ掻いた。


「痛ぇ!このやろ」


そのすきに逃げ出したブーセン。レイアに甘えるように胸に抱きついてきた。


「レイア!あいつが僕をいじめた」

「まあ?ブーセン。顔を狙うのはいけないわ」

「ごめんなさい。今度は違う場所にするよ」

「お前ら……絶対許さん」


怒りに震え頬に傷を撫でるルカ。ここでレイアが出来た!と顔をあげた。ルカは鍋の中を覗いた。ドロドロした煮汁がそこにあった。


「これで痛みが薄れます」

「……まずそうな煮汁だな」

「飲んでないのによくわかりましたね」


ここでブーセンは嬉しそうに踊り出した。


「お前はすごい!お前は天才!」


飛び跳ねるブーセン。ルカは二人に怒鳴った。


「……お前ら。良いかげんにしろ。それに俺はそれなんか飲まん!誰が飲むか」


腕を組んで怒ったルカ。レイアは残念そうな顔をした。


「やっぱりですか」

「普通飲むか?そんな臭そうなもの」

「そう、ですか」


寂しそうなレイア。この鍋を火から下ろした。思わずルカは眉間にしわ寄せた。


「もういい。それよりも。お前はなぜ落とし穴を作ったのだ」

「この庭にゴミを置く人がいるので。犯人を探していました」

「それが俺か。全く」


少し落ち着いた焚き火前。ブーセンはルカの肩にぴょんと乗った。


「アンノーンはお前だな」

「まあ、そうなるな」


ここでレイアも尋ねた。


「あの、どうしてそんなことをしたんですか」

「ああ。それな」


彼は髪をかき上げた。そして満天の星を見上げた。


「簡単なことだ。祈草を植えさせないためだ」

「ど、どうしてそんなことを?王子のために必要なんですよね」

「……祈草は、王子に使用されていないんだ」

「え」



ルカの真顔。レイアはただ見ていた。



第五話「穴男」へ

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