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花束を君に

「はあ」

「リラ先輩。あのですね」

「何よ」


レイア。彼女にはっきり言った。


「そのため息なんとかしてくれませんか。気が散ってどうしようもないです」

「何よ!後輩のくせに生意気ね」


本日は雨。庭の仕事ができない庭師の二人、この日は書類の整理をしていた。


「それはどうぞ見逃して欲しいのですが。それよりもどうしたんですか」

「……私ね。もうすぐ誕生日なのよ」

「めでたいかと思いますが」

「嫌味?はあ、どうしよう、結婚」


年齢を重ねると嫁にいけなくなる。リラはすっかり落ち込んでいた。どちらかというと怒り出す彼女の落ち込む姿。レイア、困っていた。


「結婚ですか。そんなにしたければお見合いとはすれば良いのでは」

「したわよ。散々、でも、気に入った人には振られるし。そうでない人には申し込まれて」

「……難しいですね」


まだ結婚など考えていないレイア。リラの話を真剣に考えてみた。


「まずですね。どういう男性が良いのですか」

「それはまず、見た目が良くて。優しくて、お金持ちで」

「……他には」

「若くて、そうね?家事も手伝ってくれる人で。浮気もせず、あ?病気もない元気な人で頭も良い方がいいわね」

「無理ですね」

「え」


レイア。立ち上がった。


「そんな考えでは無理だと言ったんです」

「ど、どう言う意味よ。私は理想を言ったまでで」

「まずですね。今度が今の理想の男性の立場で考えてみますね」


レイア。静かに説明をした。


「まず彼も若くて美人な娘を求めるでしょうね。優しくてお金持ちの女性です」

「う」

「そして。家事もこなし、浮気もせず健康な人で、頭が良く、自分の親と仲良くしてくれる、そんな女性ですよ」

「それ以上、言わないで……」


ここで心が崩れたリラ。レイアは諭した。


「わかりましたか?素敵な人は、とっくに素敵な人と結婚しているんです」

「ううう……どうすればいいのよ。このまま一生独身なんて」


珍しくシクシク泣き出したリラ。レイア、椅子に座ってお茶を飲んだ。


「下げましょう。その条件を」

「やっぱり?」

「そうです、それにですね。物は考えようです」


レイア。仕事をしながら話した。


「若くても老けている人がいますし。逆もあります。それに。お金持ちは使わないのでお金があるわけで、むしろ散財する人の方が、奥さんもお金を自由に使えますよ」

「なるほど」

「家事ですけど。完璧主義の旦那さんだと大変ですが。旦那さんもルーズなら。部屋が汚れていても気にしないです。家事を手伝う人よりも、細かいことに気にしない寛容な人を探した方は面倒がないかもです」

「それはそうかも」

「顔も体型も年齢で変わるのはお互い様ですし。モテない男性の方が、奥さんを大切にしてくれますよ」

「レイアってすごいのね」


こうしてレイアの話に納得したリラ。この日は他にも助言をもらった。そして翌日から実践を始めた。


「おはようございます」

「先輩おはようございます」

「レイア。昨日はありがとうね」


ルンルンのリラ。ニッセはびっくりしていた。


「どうしたんじゃ?おかしいぞ」

「これでいいんです」


レイアの助言。それはいい女になる前に、いい人になる話だった。崖っぷちのリラ。ともかく実践することにしたのだった。


常に感謝。優しい態度。物を丁寧に扱うこと。笑顔、清潔。彼女ができることから始めたのだった。



「ねえ。レイア。あの女どうしちゃったの」

「お嫁さんに行きたくて。頑張っているのよ」

「……そこまでして、お嫁さんに行きたいんだね」


不思議そうなブーゼン。レイアは優しく彼をあやした。この時、この場に何故か爺やが現れた。


「庭師のレイア:カサブランカ。お前に尋ねたきことがある」

「なんでしょうか」


……おお。あの娘にそっくりじゃ。あとは、あの指輪。


「その指輪。母親の形見と申したな」

「はい」

「もしや。その裏には『A for R』と刻印がなされてはいないか」

「どうしてそれをご存知で?」

「……やはりそうであったか」


爺はショックを隠すように目を瞑った。


「娘よ。お前の父親は誰だ」

「……母は亡くなったので。私は知りません」

「お前の年齢を聞かせてくれ。もしや。お前は今年で十九歳ではないか」


……この人。どうしてそんな話を。


青ざめたレイアの顔。これで爺は全てを悟った。


「いや?もう答えずとも良い」

「爺やさん、これはどういうことですか」


……この声?亡くなった先代王妃にそっくりじゃ。


信じたくないが、事実かもしれない。爺は振り払うように話した。


「私は。今の王の弟様。アレックス様の爺やであった」

「アレックス様」


レイアは動揺した。これを見た爺、彼女が父親がアレックスと知っていると確信を得た。


……されど。今はまだ伏せておこう。


「左様。お前の母親のロゼッタが、ちょうど庭を作りに来たのでな、当時を思い出しただけだ」

「爺やさんは。母を覚えているのですか」

「……その指輪は、私がアレックス様に頼まれて用意したのだ」

「これを」


これ以上はもう良い。爺やはこの場を去った。レイア、胸がドキドキしていた。


……どうしよう。爺やさんは私が娘かもしれないと、疑っているわ。


しかし。彼はレイアを嫌っていた。それに、祈り草を植える期間だけの雇用。今はまだ、ここで仕事ができるとレイアは落ち着いた。


父と母を知る人物の登場。この夜、レイアは興奮して眠れずに過ごした。


◇◇◇


翌朝。リラはまだ人間磨きに努めていた。


「レイアよ。お前さんは本気でリラくんが結婚できると思っておるのかね」

「ええ。これを続ければ」

「しかしのう。出会いがないぞ。ここは」

「確かに。そうかもしれませんね」


頑張っているリラ。ここは一つ、彼を紹介してやりたいところ。レイア、必死に適応者を思案していた。




「ガルマ隊長」

「おう!どうした」


剣を振るい大汗をかいていた独身ガルマ。レイア、微笑んだ。


「お嫁さんは欲しくないですか」

「ぶ!な、何を申すのだ」


赤面のガルマ。レイア、真顔を見せた。


「私の先輩のリラさんは、彼氏を募集中なんです」

「お主の先輩。ああ。あの娘か」


あまり記憶のないガルマ。朧げに思い出していた。


「しかし、何故に我なのだ」

「男らしいし。頼りになるし。懐の深く優しい紳士で」

「やめろ。それ以上は、は、恥ずかしい」

「……レイア、それは聞き捨てならないね」


剣の訓練をサボっていた王子。黒い顔で現れた。


「僕の方がガルマよりもずっと素敵なはずだよ」

「もちろんです!」

「はい。王子の方が魅力が数倍上です」

「じゃあさ。その、お嫁さんって。あのさ、レイアはその、ガルマが」

「ん?なんですって」


王子。深呼吸をした。


「レイアはガルマと結婚したいの?」

「ないです」

「じゃあさ。どういうこと?説明してよ!」

「王子よ。それよりも剣の稽古ですぞ」


さあさあと腕を掴まれた王子。ガルマと汗を流すハメになった。


この夜。レイア、月を見上げていた。理想の男性について考えていた。


……私はそうだな。仕事熱心な人がいいな。


顔も態度もどうでも良い。働き者が良いとレイアは思っていた。


……お金は暮らしていければいいし。束縛する人は嫌だな。


村にいた時。男性はいたがまだ結婚について考えたことはなかった。

しかしリラの様子から。すっかり影響を受けていた。


……理想って。どうしてあの人が思い浮かぶんだろう。


先ほどからレイアの頭には。意地悪ルカしか思い描かれない。優しいシリウスに憧れたいのに。不思議だった。


……私を揶揄っているだけなのに……しっかりしなさい。レイア、お前はマイルのためにここにいるのよ。


芽生えた恋心。これを打ち消すようにレイアはベッドに入った。悲しい気持ちを知るのは月だけ。その夜風は優しく吹いていた。



◇◇◇


「おはようございます」

「おう。レイア。朝から張り切っておるな」


庭にやってきたガルマ。にっこり微笑んだ。


「いや何。シリウス王子が寂しがっておるのでな。たまには裏庭に顔を出して欲しいのだ」

「はい」

「それにな。ルカ殿下の機嫌が異常に悪い。お前のお菓子を食べたいと申しておって聞かないのだ。そこでだ。作った時で良い、殿下の分もおやつを頼む」

「わかりました」

「あとだな、これを」

「ん?お花ですか」


白い百合。ガルマ、恥ずかしそうにくれた。


「私にですか」

「ああ。王子と殿下と、それに私からだ」

「ええと。私、何かしましたか」


ガルマ。おほんと咳払いをした。


「いてくれるだけで良いのだ。私は助かっておる」

「いてくれるだけで……」


自分の存在が薄いと思っていたレイア。ガルマの優しさにほろりときた。


「ど、どうした」

「いいえ。嬉しいです」


つい。涙が出たレイア。ガルマ、焦った。


「その花は嫌いか」

「大好きですよ」


そこに彼女がやってきた。


「あら。おはようございます。ガルマさん」

「おう!リラか。元気でやっとるか」

「はい。っていうか。どうしたの。レイア」

「ああ。これをいただいたんですよ」


リラ。目をパチクリさせた。


「これって。あんたが育てて、王宮に渡した百合じゃないの」

「え。この花はお前のか」


ガルマ、しまったという顔をした。しかし、レイア、嬉し涙を拭った。


「いいえ。お気持ちが嬉しいです……ガルマ隊長、お二人によろしくお伝えします」

「あ、ああ」


涙の笑顔。きらきらのレイアは花瓶に挿すと行ってしまった。リラとガルマはその背を見ていた。


「なんというかな。優しいのだな」

「悔しいけど。そうなんです」


リラ、俯いた。


「みんな。彼女のような健気な女が好きですよね」

「そうか?私には健気には見えぬが」

「そうですか」


どこか落ち込むリラ。ガルマ、励ましたくなった。


「さあ。お前も元気を出せ。誰でも笑顔は可愛いというぞ?自信を持て」

「は、はい」


そう言ってガルマは去っていった。リラはその広い背を見ていた。


……まずは、相手を思いやることか。今までの私は、自分のことばかりだったかも。


庭の花が風に揺れていた。リラも一緒に揺れた。その顔は綺麗な笑顔だった。



「花束を君に」完

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