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優しい悪魔

「え、お前さんが祈祷に?」

「はい、なんか行くことになってしまって」

「それは、あれだな。とばっちりというものだ」


老人ニッセ。レイアを気の毒に思った。


「でも私、後ろに立っているだけのつもりです」

「そうもいかんだろう」


そして徐に本に手を伸ばした。


「あったこれだ」

「なんですか」

「薬草での祈祷じゃよ」


ニッセはそう言って短足の足を組んだ。


「お前さん、祈祷の時にただ立っているのも、格好が悪いであろう?この文献にはな。薬草を焚いて祈りを捧げるというのがある」

「ああ。私、村でそういうお祓いをしたことがありますよ」


思い出したレイア。ニッセに詳しく話した。これにより、明日の祈祷にて。レイアは薬草を焚くことになった。


そして。当日となった。兵に囲まれた王子はシリウス。こういう儀式に面倒くさがりのルカが出てくるはずがないと思っていたレイア。彼とは離れた祭壇にてそそくさと支度をし、用意をしていた。


「ん、お前、レイアか」

「はい。ガルマ隊長、今日は天気で良かったですね」

「あ、ああ。本当に、その、レイアか」

「……おかしいですか?この格好」


本日は巫女としてここにきたレイア。格好から決めないとダメだとリラに言われ、それらしい格好でやってきた。


普段、野良仕事で汚れた格好のレイア。この日はニッセが見つけた古い巫女の衣装。清さを表す白いローブ。全身白い衣装。そして普段は頭巾をかぶっていることが多いがこの日は長い艶やかな髪を伸ばしていた。


ガルマ、その美しさとギャップに絶句していた。


「あの?ガルマ隊長?」

「あ。ああ。いや、素晴らしい」

「焚き上げはこれからですよ?」

「あ?ああ、そうか!そうだ、よろしく頼むぞ」


彼はそう言って最前列に向かった。そこには不安そうなシリウスが、壇上の上からレイアを見ていた。レイアはこの儀式の最後尾に作られた祭壇にスタンバイしていた。


「それでは!祈祷を行う!王子。お願いします」


……うわ?やり辛そう……


ガルマの張り切り。いやいややっているのが伝わってきたレイア。彼女は皆の背後にて薬草を焚いていた。やがてこの場に香草の白煙が広がっていった。


王子は祭壇にて。手を合わせて何やら願っていた。レイアは必死に薬草を焚き、白煙を作っていた。


ここで。急に王子が振り向いた。


『愚かな人間どもよ。我と共に去れ』


どよめく会場。この声は王子の声ではない。見守っていた兵は驚きで王子を見つめた。


『天の恵を狂わす愚かな者……この国は滅ぶのだ、王家の手によって』


低い声は恐ろしく。その目はどこか光っていた。ここで兵隊は逃げようとざわつき出した。


「これ!待て!祈祷を続けるのだ」


ガルマの声は必死。しかし、王子の呪いの声はまだ続いた。


……一体、どうなるの。


恐ろしさで固まったレイア。薬草の香りの中、王子をただ見つめていた。すると、不思議な声が足元から聞こえてきた。


『安心をし。私がいるよ』

「え」


そこにいたのは。あの王子の羊だった。羊はレイアに囁いた。


『……愛する娘よ……王子は私が守る……』

「王子の羊さん?どうして話ができるの?」


実際。羊が喋ってるわけではない。心が伝わってきている感じだった。


『彼の体に、悪魔が入って、嘘を言っている……追い出すのだ』

「どうやって」

『悪魔はこの薬草が嫌いだ……もっと、たくさん焚くのだ。そして。もう一人の彼を呼べ』


……もう一人って、ルカさんのこと?


「それはどうやってですか」


しかし。羊は何も言わずに消えた。レイア、壇上のシリウスを見つめた。

彼はまだ悪魔の言葉を囁いていた。彼女は意を決してそばに近づいた。


「ちょっと!ルカさん!お願いしますよ」

『地は割れ、地獄の釜の炎が烈火の如く流れ来る……』


……だめだ?目が白目だ。


ガルマも大臣も必死に兵を推し届けている。レイア、壇上の王子に駆け寄った。


「ルカさん!いるんでしょう!出てきて!早く」

『薄汚い小娘……妖精のように死ね』

「妖精って。ちょっとあなた。ブーセンに何をしたのよ!


思わずレイア。王子の頬をパチンと打った。この場はシーンとした。


『娘……よくも』

「す、すいません、つい…でもその、ルカさん、出てきて!ねえ、お願い」


レイア。王子を止めるように抱きしめた。


「ルカさん。王子を助けて」

「……痛ぇ」

「あ」


顔を見ると。それはいつもの彼だった。


「くそ!あの、悪魔め……」


頭を押さえるルカ。レイア、心配そうに見つめた。


「ルカさん!王子は大丈夫?それに悪魔はどうしたの」

「……今、抑えている……離れろ。俺も抑えきれない」


まだ不安定な様子。しかし、レイア、実は頭にきていた。


「ちょっと悪魔さん。いい加減にしなさいよ。あんたの予言は嘘なんでしょう」

「やめろ……レイア」

「いいの。ねえ、憑依するなら私にしなさいよ?それとも、女の私が怖いわけ?」


すると。王子の口から黒い煙が出てきた。それは塊となり、レイアに襲いかかってきた。レイア、すかさず短剣を構えた。そしてこれに刺した。


ぎゃあああああという恐ろしい声。そして、薬草の煙が風で流れた。

そこには王子が倒れていた。彼のそばには羊がいた。


「王子!しっかり。レイアよ。これはどういうことじゃ」

「はあ、はあ。もう、悪魔は消えました」


レイアの短剣からは、黒い血がポタポタと流れていた。大臣はこの後、神殿のものにこの場を清めさせた。



◇◇◇


「ん。ここは」

「ルカ殿下ですか。ここはシリウス殿下の寝室です」

「目覚めがお前の顔か。見たくもない」


爺の顔を見たルカ。悔しそうに起き上がった。するとベッドの脇にはあの羊がいた。


「これは?」

「薬草娘の話によれば。守り羊というわけで。しばらくおそばに置いておくと良いと」

「爺よ。この羊の名は、なんと申すのだ」


シリウスが子羊の時から育ててる羊。ルカ以外は当然、詳しく知っていた。


「それはアーモンドアイです」

「……俺な。夢にこいつが出てきたんだが、自分のことをアレックスって言ってたぞ」

「アレックス?それは誠にございますか」

「嘘言ってもしょうがねえだろうが」


頭をかくルカ。おおあくびで話した。ここで部屋のドアがノックされた。

侍女が入ってきた。


「王子。庭娘がこちらの薬草茶を持ってきました」

「レイアか?入ってもらえ」

「ルカ殿下。あの娘は下人で、あ」


ここで羊が爺やの服を齧った。この隙にルカは侍女にレイアを部屋に入れさせた。


「私はお茶を届けただけで」

「うるさい。そんなに俺が嫌いか」

「そこまで言っていませんが」


困っているレイア。この時、彼女の指輪が光った。爺、これを見つけた。


「娘。その指輪は」

「これですか?私の母の形見です」

「母の形見……そなたは確か。薬草村の出身、あ」


村娘のくせに気に入らない美しい容姿。どこかで聞いたことのある声。老齢の爺。やっと思い出した。


「もしや。お前はカサブランカの娘か。ウルル村の」

「はい」

「母親は、もしかして。ロゼッタ、そうだ。ロゼッタ:カサブランカ。ちょうど、今のお前さんの年頃で」


震える老人。ルカ、呆れて見ていた。


「どうした。爺さん。亡霊でも見るような目で」

「いや……失礼しました。なんでもございません」


あまりの脂汗。流石のルカも眉間に皺を寄せた。


「少し休め。ところでレイア。お前、悪魔を倒したんだってな。すげえな」


キラキラ目のルカ。レイア、ここで耳打ちした。


「あの、それ。今回は王子がやったことになってるんで。話を合わせてくださいね」

「え?俺なの」

「まあ。正確に言えばシリウス様ですね」

「おお嫌だ?なんでもシリウス、シリウスで。俺の存在ってそんなもんなの?」


わがままを言う彼。しかし、その手はレイアの腰に回していた。


「お前も、俺よりもシリウスがいいのかよ」

「そう言う話ではありません。それに私は庭師ですし」

「うるせ」


彼はそう言ってレイアの唇を奪った。


「まあこれで許すか」

「……私は許せないですけどね」

「おっと?ではもう一度」

「やめろぉ!」


ここでやっとブーセンが出てきた。彼のキックがルカの頬に当たった。


「くそ!って言うか、お前今までどこにいた?」

「悪魔に閉じ込められていたんだ。でも、今、なんか出られて不思議」

「なんだ、それは」

「幸せな瞬間が見えたから。その隙間から出てきたんだよ。ねえ、今何をしてたの。ねえねえ」


……恥ずかしい……


思わず背を向けたレイア。ルカだけは嬉しそうだった。


「そうか。幸せか。レイア、お前な、そろそろ素直になれよ」

「私は常に素直ですけど?ね、ブーセン」

「うん、レイアは素直!ねえ、こいつなんか放っておいてさ。また天草アイスクリーム作ってよ」

「いいわよ」

「あ。俺も食いたい!レイア、俺のためだけに作れ」

「……ぷは!やっと出れた。レイア、僕のためにだよ?」

「こいつら忙しいな……ねえ、笑ってないで、レイア、レイア?」


火山は噴火せず夕焼けが綺麗だった。茜色の空、明日もきっと天気。レイアはうるさい王子と妖精に、ただ笑っていた。


「優しい悪魔」完

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