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悪魔の予感

「はあ。ただいまです」

「お。無事に帰ったか、すまない。仕事中で」


庭師の部屋。レイアを待っていたはずのニッセ。食べていたアップルパイを慌てて隠した。そこにブーセンが現れた。


「レイア!どうして僕を呼んでくれなかったの……」


悲しげに抱きついてきたブーセン。レイア、申し訳なさそうに頭を撫でた。


「ごめんね。ルカさんが呼ぶなっていうもので」

「レイアは僕とあいつのどっちが好きなの?」

「まあ、ブーセンに決まっているでしょう?」

「これこれ!それよりも羊はどうしたんじゃ」


羊を盗んだのは城を追い出された会計係。そして羊は無事に王子の元に戻ったとレイアは報告した。


「羊は無事でしたし。会計係さんには兵を向かわせると言っていました」

「それは心強いの。さあ。レイアは休みなさい。疲れただろう」

「はい」


砂漠を行き来したレイア。疲れていた。そしてベッドに倒れ込んだ。


……でもよかった。頼まれた仕事は達成できたし。


まどろむ中。思い出すのはルカの顔。それは怒った顔だった。


……どうしていつも、怒っているのかな。皺だらけになっちゃうよ?ふふふ……


彼の顔を思い出しながら。レイアはベッドで休んだ。



◇◇◇


王子の間。


「ルカ殿下。お召し替えを」

「爺。それはあとだ。それよりも羊は今度、しっかり管理するように伝えろ」

「はい」

「それに。王妃とアンはいかがした」

「はい。王妃様はですね」


王子と娘に毒を盛っていた王妃。自分のしたことにショックを受けて寝込んでいた。


「王宮医師の見立てで。祈り草のお茶を飲み精神的に安定しております」

「祈り草とは、皮肉なものだな」


王妃が否定していた薬草。これで彼女は回復している事実、ルカは悲しく笑った。


「……今はお部屋にて。刺繍をしておいでです。それに王妃様はこの国に来るまで絵が好きだったようで。医師の勧めで最近は絵を描いておいでです」

「気分転換で良いのではないか。そして、アンは?」


爺はお茶を出した。このカップはルカ専用だった。


「アン様は。お花が好きだとおっしゃいまして。今はお部屋に飾る花を、ご自分で庭で取ってくるようになりました」

「庭か。あんなに庭師の仕事をけなしておったのに」


ここで爺。ため息をついた。


「……ところでルカ殿下。シリウス様はお元気ですか」

「ああ?元気だぞ」

「私がいる時は、ほとんど貴方様ですので。爺は心配しております」


……お、やっと気がついたか。


爺を避けているシリウス。ルカは理由は言わなかった。


「本来はシリウス様に申し上げたいのですが、会えませんので。ルカ殿下に言伝をお願いしたく」

「なんだ、それは」

「隣国の姫と、婚約のことです」

「その件か」


シリウスから聞いていたルカ。わかったと爺やを納得させ部屋から追い出した。彼はベッドに横になり目を伏せた。


……婚約だとさ、シリウス。

……わかっているよ。

……こればかりは、お前がやれよ。俺は知らないからな。

……でも。レイアはどうするの?ルカはレイアが好きなんでしょう。


ルカ、深呼吸をした。


……この体はお前のものだ。俺のことは気にするな。

……でも。

……とにかく。俺、しばらく休むわ?


一つの体、二つの心。これらの葛藤。この日以来、ルカは心の奥に引っ込み出てこなくなった。


◇◇◇


そして後日。レイアは庭仕事をしていると兵士たちの噂を聞いた。


「俺も見た」

「ああ。女の幽霊だったな」


……え。怖い。


この王宮は古い。村で育ったレイアにはちょっと怖かった。この噂、リラなら詳しいと思ったレイア、昼食の時に尋ねた。


「リラ先輩。夜に幽霊が出るそうですね」

「あら?よく知っているわね」


彼女はドヤ顔で答えた。


「真っ白い顔でね。夜の廊下を歩いているそうよ、そして、歌を歌っているそうよ」

「怖いですね」

「あら?貴方も怖いものがあるのね」


嬉しそうなリラ。ここでレイア、真顔を向いた。


「リラ先輩にはないんですか」

「失礼ね!あるに決まってるでしょう」

「これこれ!そんなに大きな声を出さないように。二人とも仕事だよ」


ニッセに促された二人。仕事に戻った。その夜。大人しく眠ったレイアであったが、翌朝、リラを見てびっくりした。


「どうしたんですか」

「何がよ」

「目の下のクマで、顔が悪いですよ」

「それをいうなら顔色が悪いでしょ!」


それにしてもあまりにも病的すぎのリラ。見かねたニッセ。リラを昼寝させた。


「ふう、どういうことなんじゃろうな」

「……ミスコンの時のように。ダイエットとかしてるんですかね」


この話の最中、ドアが開いた。リラがいた。


「おや。もう起きたのかね」

「……その腕は血に塗れ、その足は地獄の炎で燃える……」

「リラ先輩?」


様子がおかしいリラ。レイアが見るとその目は座っていた。


「愚かな人間どもよ……地が揺れ、天からは灰が降る……花は枯れ、水は汚れ………ははは、死ぬのだ。皆、死ぬのだ!」

「リラ君、しっかりしたまえ」

「はははは!死ぬのだ?、みんな、焼かれて、ギャハハハハ」


まるで発狂したかのようなリラ。レイア、じっと見つめていた。


「ニッセ庭長。何かに乗り移られています」

「なんじゃ?化け物か」

「とにかく。眠らせます。ごめん!」


レイア。リラの腹部をパンチした。リラ、痛みで気絶した。そして。枕元に薬草を焚き、彼女を寝かせた。


「どういうことだ」

「……まるで悪魔の予言でしたね」


リラの言葉とは思えない。レイアはブーセンを呼んだ。


「ブーセン?どこにいるの」

「出てこぬな。これは何かあるのやも知れぬ」


ニッセ庭長。ガルマに伝えると部屋を出て行った。レイアはリラの世話をしていた。


……おかしい……何か、引っかかるわ。


それが何か説明できない。しかし、レイアには悪い予感がしていた。この時、レイア、王子に呼ばれた。



◇◇◇


「レイア。よくきてくれたね」

「王子。ご機嫌いかがですか」


王宮の間。シリウスは不思議な出来事を説明した。


「アン姫も同じ様子なんだ。おなしなことを口走っている」

「リラ先輩もおかしいし、それにブーセンが出てこないんですよ」


話を聞いていたガルマ。古い文献を取り出した。


「実はですね。この城の記録に、同じような話がございます」

「読め!早く」

「は!それは長雨の夏の頃。アリストテレス王の統治の出来事で」

「待て」


必死に早口で読み上げるガルマ。シリウス、止めた。


「僕が言っているのは早口という意味ではない。良いから。普通に読め」

「はい。そして、ある夜、第一王女が悪夢を見るようになり」


ガルマの読み上げた文献。そこには同じような出来事が記されていた。


「その後。火山が噴火したとのことです」

「まさか?」

「……そうかも知れません。現にブーセンが出てこないのは、逃げたのか可能性がありますね」


シーンとなった王座。ここでガルマが話を続けた。


「あ、ここに記述があります。この時、王子が祈祷をし、火山の溶岩を我が国から遠ざけたとあります」

「え。僕がやるの」


またもやシーンとなった王座。レイア、立ち上がった。


「あの。私は帰っていいですか」

「庭師のレイア。もしかして、貴様だけ、逃げるつもりではないか」

「……いや、その」


……バレた?だって。私は王宮の人ではないし?


この時。王子、すっとレイアを見下ろした。


「わかった。これから僕はその祈祷を行う!でもレイア、君にも付き合ってもらうよ」

「え。大臣さん、それっておかしいですよね?私、部外者ですし」


何故か沈黙の大臣。レイア、焦っていると王子がむくれた。


「だってさ?僕にできっこないでしょう?それに、ルカも出てくれないし」

「でも私は庭師ですよ?」


シリウス。じっとガルマを見た。


「清き娘レイア:カサブランカ。溶岩がくれば皆死ぬ。諦めて命令に従え」

「でも、でも私は庭師ですよ」

「僕だってただの王子だよ!僕とルカを見殺しにする気なの?」


……う。流石にそこまで言われたら。


うるうる涙目の王子。レイア、こうして何故か祈祷に付き合う羽目になった。


つづく


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