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王子様の羊

「おはようございます」

「おう!レイア。早速だが水やりを頼む」

「はい」


王宮の庭。そこに育つ草花。庭師のレイア、ウキウキで水やりをしていた。

先日判明した王妃の事件。これは秘密裏に処理された。孤独だった王妃の悲しい事件。シリウス王子とアン姫の話し合いで決まった出来事。この事件の謎を解いたレイア。自分としては祈り草の汚名が返上できれば良かった。


「さて!今日は肥料を撒こうかな」


天候に恵まれていた昨今。レイアは本来の仕事に燃えていた。そこに血相を変えたリラがやってきた。


「大変なのよ!」

「またですか」

「あなたね。そんな目で私を見ないでちょうだい?!」


庭師のリラ、興奮しながら話した。


「王子様の羊が行方不明なのよ」

「王子様の羊?」


ここゴットランドは羊が名産。しかし、王子のペットという言葉、レイア、固まった。


「それは。ペットとかですか」


レイアの質問。リラ、腰に手を当てた。


「王子がそんなのをペットにするわけないでしょう!っていうか。羊をペットにする人なんかいるの?」

「世の中は計り知れませんからね」

「あなたと話をしていると、頭が変になるわ!」


立腹のリラ。ここでニッセ庭長、まあまあと宥めた。


「レイアよ。ここは羊が宝じゃ。そこで占いにて、王子用の羊を選び、特別に飼っておるのだ。その羊の毛は王家の人が使用するのだ」

「なるほど。では食用にはしないんですね」

「あなたね!王子の羊なんか食べたら牢屋行き、あ?そうか、あなたは一度牢屋に入ってたものね。怖くない、か」


ここで嫌味を言ったリラ。この上もないほどの笑顔を讃えた。レイア、うなづいた。


「確かに。一度入ったので。入るのはそんなに怖くないです」

「まあ?」


懲りてないレイア。真顔を向けた。


「何事も経験ですからね。リラ先輩も一度入ればわかりますよ」

「失礼ね!どうして私が入らないといけないの」

「え?興味がありそうだったから」

「その辺でよしなさい!リラよ。レイアには何を言っても無駄なんじゃ!もう、覚えておくれ」


娘達の話。ここでニッセ、内容をは尋ねた。


「あ?そうだった。その羊が行方不明なんです。みんなで探しているんですって」

「そうか。では、発見次第、報告せんとな」


こうして報告が済んだ庭。レイアは肥料を撒いていた。


「レイア!」

「ブーセン。ご機嫌いかがか?」

「ねえ。王宮で騒いでいるのはなあに」

「王子の羊がどうこう言っていたわね」


自分には関係ないと思っているレイア。仕事に向かっていた。


「僕、知ってるよ」

「別に。私に言わなくても良いわよ」

「え。知りたくないの?」


うんとレイアはうなづいた。


「それは羊係の人に仕事だし。それに、その話を聞いたら。私が探しにいくような流れになるもの」

「そうかもね」

「ただでさえ。庭師の仕事ができていないのに。羊のことまで首を突っ込んでしまったら。私、大臣に追い出されるわ」

「ダメ?レイア。どこにも行かないで……」


可愛いブーセン。レイアの胸に抱きついた。


「やだよ。僕とここにいて」

「まあ?ブーセン、どうしたの」


子供のような妖精。レイア、抱きしめた。


「僕、僕、絶対羊のことは誰にも言わない……それならレイアも平気だよね」

「……そうね。私は知らない方がいいわ」

「わかった!じゃ、僕も仕事を手伝うよ」


こうしてブーセンはレイアの仕事を手伝ってくれた。二人は夕暮れまで畑にて仕事をした。そして夜。レイアは食堂で残りものを食べていた。


「ねえ?聞いた?王子の羊のこと」

「ええ。例の『アーモンドアイ』でしょう?」


……アーモンドアイ……それは羊の名前なのね。


他の人も関心のある話のようす。しかしレイアは無視して自室に入った。そして気分良く眠った。



◇◇◇


夜。地下牢屋。


「うわああああ。だせーだせぇ」

「おい。鎮まれ。それにな。大臣の許可がないと、そこからは出られないのはわかっているだろうが」


牢番の諭す声。魔女は牢屋の中で首を横に振った。


「わしが言っているのはお前の服装じゃ。ダサいと思っての」

「ぼろぼろ魔女に言われたくないな。そうだ、明日、鏡を持ってきてやろう。自分の姿を見ると良い」

「ブハハ!美しさで目が潰れるわ!」


「何事じゃ騒がしい」

「あ。大臣様」


牢番は頭を下げると、大臣は密かに尋ねた。


「あの魔女に聞きたいことがあるが、どうしたもんかな」

「あの魔女は大変な自惚れ屋です。美人だ、賢いと褒め上げて煽てれば木でも登りますし、空も飛ぶでしょう」

「よし、それで行こう」


大臣。牢屋の前に立った。


「町一番の叡智みなぎる、大魔女アプリコットよ」

「そこは美魔女と呼ばれたい」

「わかった。美魔女よ」


大臣、魔女の口臭がきついのを我慢した。


「頼みがある。王子の羊がいなくなったのだ。お前の力で探してくれまいか」

「王子の羊……今のは確か。アーモンドアイ、珍しくアーモンド色の羊だね」

「そうだ」

「さすが!よ!美魔女」


牢番の煽て。魔女、微笑んだ。


「お前はすごい。美しい。知恵があって。心優しい」


日頃、魔女の世話をしている牢番の声。魔女、うっとりした。


「いやいや。もっとすごいから。して?探せばここから出してくれるんだろうね」

「ああ。もちろんだが、王子の手前、発見できぬと出せないな」

「まあそうかもな」


魔女、顎に手を当てた。


「レイアに聞くが良い。ブーセンを使って探し出すであろう」

「ブーセン?あれは人形だぞ」


レイアがブーセンが見えることを知らない大臣。びっくりした顔をした。


「知らなかったのかい。レイアは妖精の力を使えるんだよ」

「くそ。あの村娘め。早速、捕らえて審議致す」


大臣はそういうとマントを翻し牢屋を出て行った。地下牢はしんとなった。


「おーい。誰か」

「大臣は帰ったぞ。魔女よ。今の話は本当なのか?」


牢番の声。魔女、いひひと笑った。


「ああ」

「お前、羊の居場所を知っているのではないか」

「さあな?さて、寝るか。今夜は涼しいの」


意味深な魔女。暗い牢屋で眠った。



◇◇◇


翌朝、レイア、大臣に呼ばれた。


「貴様。ブーセンを用いて。魔法が使えるらしいな」

「いいえ。私は魔法は使えません」


……この人、何を言ってるのだろう。


勘違いしている様子の大臣。話を続けた。


「王子の羊が行方不明なのだ。お前、探し出せ」

「え、私の仕事は庭師」

「うるさい!つべこべいうな!」


大臣の横に立っていたガルマはすまなそうな顔。その顔を冷たく見ながらレイア、退室した。


彼女が王宮の廊下を歩いているとガルマ、追いかけてきた。


「待て!羊飼いのレイア:カサブランカ」

「それ。違いますから」


たちどまらないレイア、ガルマ、前に立ち塞がった。


「待てと申すのに」

「私は庭師ですけど」

「すまない!お前には王妃の件で世話になってくれているのに」


ガルマは感謝しているが。大臣は部外者であるレイアの活躍を面白くない。しかも大臣はまだ、王妃の所業をどこか信じていないとガルマは話した。


「王子が説得しておるがな」

「それはもういいです。私が言っているのは今のガルマ隊長の態度です」

「え」

「大臣の横にいるだけで、私を庇ってくれないなんて。心底見損ないました」

「見損なった?」

「失礼」


レイア。長い髪を揺らし、彼を置き去りにして廊下をさって行った。


そして。庭師の部屋で、ニッセとリラがいる中でブーセンを呼んだ。


「わーい?おやつかな」

「これをどうぞ。あのね。ブーセン。この前の王子の羊なんだけど」

「うん。僕、誰にも話してないよ」


おやつのクッキーを頬張る姿。ぐちゃぐちゃに食べる妖精。リラは引いていた。


「あのね。今度は私が探す番になったの。探さないと私は牢屋行きなのよ」

「牢屋は楽しかったじゃん?僕も一緒に行くよ?」


優しい目のブーセン。レイアも優しく見つめた。


「ええ、そうね。一緒なら何処でも楽しいけどね。羊さんもきっと一人で寂しいはずなのよ」

「一人は寂しい」

「そう」


クッキーを食べ散らかしたブーセン。スッとテーブルに立った。ニッセとリラ祈るように妖精を見つめた。


「そうか。あいつも寂しいよな。わかった。居場所はね、城の外だよ」

「城の外?」

「意外じゃな」

「ねえ。妖精さん。それって何処なの」


ブーセン。じっと目を瞑った。


「……男が連れ出したんだ。あの、金庫の男だよ」

「会計係か。これは逆恨みか」

「私。兵に言って首にした会計係が何処にいるか聞いてきます」

「リラ先輩、それはガルマ隊長に。ところでブーセン。その羊の場所まで私を魔法で飛ばせないかしら?」

「……近くまでならね。でも、遠すぎなんだ」

「じゃ、できるだけでお願いよ」


こうしてレイア。ブーセンの魔法で羊のそばまで飛ばしてもらうことになった。



◇◇◇


「ここだよ」

「確かに、城から遠いわね」


城を抜けて町を抜けて、静かな田舎道を進むとその先には砂漠がある。その砂漠の向こうがレイアの出身地。彼女はかつて知ったる道だった。


「これ、渡す」

「石?」

「うん。魔法の石だよ。王子の羊は砂漠にいるんだ。そしてもうすぐ日没。でも、王子の羊はレイアには光って見えるはずだよ」

「この石のおかげね」


熱帯の砂漠。しかし夜には涼しい。慣れた旅人は星を読んで夜移動しているこの砂漠。レイアも夜になりロバに乗った。


このロバはいつも薬草の移動で借りたりするロバ。ブーセンは城に戻り、彼女は一人、月の砂漠を進んでいた。


……どうして砂漠なんかいるんだろう。


やがて。オアシスに着いた。夜であったが旅人が馬に水を飲ませていた。彼女は彼らに尋ねた。


「この辺りで羊を見ませんでしたか?」

「羊?そういえば、動物の足跡を見たな」

「向こうに続いていたぞ」

「ありがとうございます」


やがて。足跡を発見したレイア。月明かりを進んだ。すると、旅人のテントを発見した。そのテント、やけに光っていた。


……足跡もここだわ。きっとこの中にいるのかも。


レイア。ロバを置き、そっとテントを探った。




「あーあ。疲れた」

「でも王子の羊だそ?借金の代わりだ。これなら儲けが大きいな」


柄の悪そうな男たちの話。レイアはまだ聞いていた。これによると、城にいた会計係は金に困り、王子の羊を盗み出し、売ったと判明した。


……でも、どうやって取り返そうかな。光っているし。


もうすぐ夜明け。彼らは少し寝る様子。レイア、いびきを聞いてからテントに侵入した。


……あ?いた。こっちに、こっちにおいで。


餌をちらつかせたレイア。羊、トコトコやってきた。大きかった。

朝日が差し込む中、羊の光は薄れた。ここで羊を抱えたレイア、持参した粉をかけて羊の色を真っ白にして仮装した。そして素早く城へと引き返していた。


しかし、すぐに彼らは戻ってきた。


「おい、娘。それは俺たちの羊じゃないか。返せ」

「いいえ。これは羊じゃありません。私の犬です」

「犬?」


……無理だったか。


この誤魔化し。やはり無理だったか。レイアは怒っている男たちにどうしようかと頭をかいた。


「犬か?可愛いな」

「おう。珍しいぞ」


……やった!いけるかも?


もうすぐ進めばブーセンが迎えに来れる場所。レイアはそこまで進みたかった。


「娘、俺たちにそれをよこせ」

「死にたくなければいう通りにしろ」


三人の男たち。馬に乗っていた。レイア、ここでポケットから薬草を出した。


「おい、早く……なんだ?」

「おい。馬が勝手に?」


レイアが出したのは馬の嫌いな匂い。これをかいだ馬は、主人を乗せてレイアから逃げてしまった。


「やった!よかったわね。アーモンドアイ」

「めえええええ」


レイアのロバも逃げてしまったが、これは仕方ない。しかももうすぐ砂漠は終わる。この砂丘をなれているレイア、羊をつれて城に向かっていた。


すると。城の方から砂埃が見えてきた。


……うわ?盗賊かな。これは隠れないと!


大集団。武装した騎馬軍団。レイア、砂漠の窪みに隠れていた。

彼らは砂漠の道を進んでいたが、レイア、ハッとした。


「あれは。もしかして。ルカさんじゃ」


白馬の王子。砂漠のため白いマント。しかし、馬上の逞しさ。キビキビした統率力。レイアにはルカに思えた。そしてその脇のガルマも見えた。確かに彼らだった。


……よかった。助けてもらおう。


羊を抱いたレイア。手を振った。しかし、予想だにしないことが起こった。


……まずい?そっちは流砂だわ!


危険な砂漠の落とし穴、それは底なし。落ちたら死ぬしかない。彼らは知らないのか。そこに進もうとしていたレイア、必死に彼らに叫んだ。


「だめよ!そっちは」


……だめだ。間に合わない。


レイアが走ってやってきた時、すでにルカが馬ごと砂に埋もれそうになっていた。


「ルカさん!」

「レイアか?お前は無事だったのか」

「話をしないで!誰か。ロープを、早く、ルカさんを!」


他の部下も少しづつ埋もれている状況。レイア、ガルマにロープを持ってこさせた。


「でも、短いです」

「使えないわね!そうだ。私の、この腰のリボンで」


スカートを押さえていた腰のリボン。これをロープに結び長さを出したレイア。これをルカに捕まらせた。


「みんなで引いて!それ」

「皆のもの。落ちるでないぞ」


こうしてルカ達一行、流砂から脱出できた。


「はあはあ」

「ルカ殿下。馬が三頭、沈みましたが、部下は大丈夫です」

「みなさん。ここはまだ危険です。あちらのオアシスまで移動してください」


砂漠に詳しいレイア。ガルマに指示をした。ルカの周りには部下がいる。レイアは相変わらず羊を抱えて移動した。


そして。オアシスにテントを設営したルカ。ここにレイアを呼んだ。


「おい。お前、どういうことかわかっているか」

「……怒ってますか」

「ああ?怒っているよ。なぜ一人で砂漠に行ったんだ!」


テントの中、ウロウロ歩くルカ。レイア、優しく羊を撫でた。


「だって。大臣に探しに行けって」

「だったらそれを俺に相談してから行け!なんでも一人でやろうとするな!」


これを横目で見ていたガルマ。恐縮しながら口を開いた。


「砂漠の女王レイア:カサブランカよ。ルカ殿下はご心配で兵を出されたのだ「ふん!どうせ俺は頼りにならない王子だよ」

「まあ」


すると。羊がそそそとルカのそばに向かった。


「なんだよ」

「……会えたので、嬉しい見たいです。どうぞ、餌をあげてください」


レイアのいう通り。ルカは草を与えた。羊はこれを食べた。


「よかったですね」

「何がよかっただ。全く。心配をかけさせて」


……本当に心配してくれたみたいだわ。


幼い頃から。レイアを心配してくれる人などマイルしかいなかった。それが当たり前で寂しいと思ったことはないはずの彼女。この怒っているルカを見つめた。


「ん。なぜ泣いている」

「あれ?どうしてだろう」


胸がジンとして。熱い涙が溢れていた。レイア、これを拭った。


「とにかく。勝手な真似をしてごめんなさい」

「レイア」


彼はそっと抱きしめた。


「僕は怒ってないよ?ただ、心配しただけ」

「シリウス王子ですか?すいませんでした」

「ルカはもっと心配してたんだ」


王子はスッと体から離れた。


「でも。君に助けられて、今は恥ずかしいってさ」

「そんなことありません。でも羊が見つかったよかったですね」

「ああ」


笑顔のレイア。服はぼろぼろで髪は砂だらけ。でも心から良かったと言っていた。


……いいのかい、ルカ。僕のままで。

……ふん。

……僕のものにしちゃうけど。

……代われ!今すぐ!


そして彼はまたレイアを抱きしめた。その力、強かった。


「ルカさん?」

「……頼むからさ。勝手に遠くに行くなよ」


甘えるような声。レイア、これに抗えない。


「はい」

「今度黙って城を出たら。お前を幽閉する。一生、俺のベッドに縛り付けて置くからな!」

「それは?困ります」

「約束だ。良いな?」


頬に優しくキスをしたルカ。そして踵を返した。


「おい!ガルマ。ガルマは何処に」

「は、はい。ここに」

「撤収だ!羊はお前が持て!レイアは俺の馬で帰るぞ」


男らしい統率。レイア、凛々しい姿に見惚れていた。


「なんだ?惚れたか?」

「ご冗談を」

「そうだったな。もう惚れているんだもんな?今更だったな」

「まああ」


呆れるほどの自信。しかし、彼の馬に乗った。彼の胸の中、ちょこんと乗ったレイア。彼は抱きしめるように手綱を掴んだ。


「出発だ!城に帰還せよ!」


雄々しいルカ。彼の胸の中のレイア。この胸の鼓動の意味を、まだ知らずにいた。砂漠の夕暮れ。日が沈む砂丘。レイアの心が騒がしかった。



「王子様の羊』完

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