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呪われた女

夏祭りが過ぎた一週間後。王宮地下牢にて恐ろしい声が響いていた。





「ぎゃあああああ!!う、うわああああ」


苦しみの断末魔。この世のものとは思えぬ恐ろしい悲鳴が響いていた。これに兵士が槍を光らせた。



「おい?我々はまだ何もしておらぬぞ?」

「いやああああ……触るな?見るな……こっちに来るな!」


乱れた白髪。歯の抜けた口。縛られた体。兵は大丈夫か?と声をかけただけであるが、彼女は必死に暴れていた。


「うわああ!殺されるー?おお。神よ。私が何をしたというのじゃ?!こんな善良な私を?」


興奮している白髪を振り乱した老婆。七転八倒で転がった先の石畳の床は濡れていた。ここで兵は彼女の体に触れようとした。


「やめろ?私に触れるな?女の私を」

「そこでは邪魔んだ。人が通るのでな」」


思った事と違う理由。彼女はまた叫び出した。


「……うああああああ!やめろーー。ここから出せ!出せ!うあああああ」


そして叫び終わった魔女の元。大臣が地下牢にやってきた。



「花市場の最高嫌われ者。魔女、アプリコットよ」


すると。彼女は首を横に振った。


「人違いじゃ……私は『人々の好かれ者』……『恋泥棒』と言われた女じゃぞ?」


この答え。大臣は眉を顰めた。


「おい。兵?この老婆に酒でも飲ませたのか?」

「全くです。水しか飲んでいません」

「う、うああああ……」


何もしていないのに魔女は苦しそうに喘いでいた。大臣は無視して話をした。



「……お前に問う。祈草についてだ」


王子を心から心配している大臣。叫ぶ魔女を一切無視し、効能について問いただした。


「王宮でが今までお前が売っていた祈り草を使っておるが。なぜ王子は治らぬのだ」

「知るか。それに私は売ったまでの話。薬草は育てた者に聞け」

「減らず口を」

「お、お待ちくだされ。大臣」



この悪い舌。立ち会った近衛隊長のガルマは何かを思い出した。


「おい。魔女。お主は王宮庭師に誰かを推薦しなかったか」


あの時の推薦状。微かな記憶。これに魔女は笑った。


「ははは。したよ。したした。レイアだろう」

「レイア?そうだ。森娘だ」


ガルマの驚き顔。魔女はたっぷり微笑んだ。


「旦那。あの娘が祈草を私に売らせたんです。全ての責任はあの娘。私はあの娘に騙されたんです」

「なんと?」


この告発を受けた大臣。兵を向かわせ庭にいたレイアを、王宮の広間に連行した。






「痛いです!」

「さあ。大臣様だ。顔を上げろ」


庭仕事の最中。いきなり連行されたレイア。ただびっくりしていた。ガルマまら裏口入学をして入った経緯を聞いた大臣。レイアを冷たく見下ろした。


「……森娘。レイア。そなたが魔女に祈草を売っておったのだな」


話が全然見えないレイア。しかし魔女という言葉に反応した。


「魔女?はい、確かにそうです」

「そなたに問う。あの祈草を使っても王子の治る効果が見えぬ。その理由を申してみよ」

「ええ?」


本気の大臣の顔。自分を囲む近衛兵たち。ごめんね?とウィンクするガルマ。皆、王子のために必死の顔だった。


……そうか。側近の人は、ルカさんの話を知らないのね。


祈草は使用されていないというルカの言葉。だがルカの正体も話の根拠も言えないレイア。とにかく。レイアは今、言えることを話した


「私の育てた祈り草は本物です。他の人にも売ったことがありますが、確かな効き目で、感謝されてきました」

「ではなぜ王子には効かぬのじゃ?おかしいであろう」

「それは」


問題は材料よりも使い方。しかしこれを口にしても証拠もない挙句、責任転嫁を言われかねない。レイアは押し黙っていた。

ここで大臣が怒りの声を上げた。


「申せ!王子の一大事であるぞ?それよりも何か言えぬことがあるのか」

「そうではないです。薬草は本物。それだけです」

「それではまるでこちらに問題があるような話ではないか。貴様。我々のやり方に文句を言うか」


あまりの怒号。ガルマが止めに入った。


「大臣。それまでにしてください」

「ならぬ!娘を地下牢に引っ立て!」


解決方法は見えない苛立ち。これをレイアにぶつけるかように大臣はレイアを地下牢に入れた。

ガシャーンと鍵がかかった薄暗い牢屋。冷たい石畳の床。兵が去った音にレイアはため息をついた。




「久しぶり」

「きゃああ?なんだ?魔女さんか」


暗い牢屋の隅。傷だらけの魔女は笑みを浮かべていた。



「ひひひ。お前も道連れだよ」

「そうか。だから私、疑われたんですね」


捕縛の理由を知ったレイア。どこか呆れるレイアに対し、魔女は嬉しそうだった。


「ふん。お前さんだけ幸せにしてたまるかい」

「別に、幸せじゃないのに。もう」


暗い牢屋。魔女の白眼が光っていた。


「ところで。どう言う話なんだい。確かに祈草はこの城にずいぶん売ったんだよ」

「知りません。私はあなたに迷惑しか掛けられていませんから」

「良いのかい。濡れ衣を着せられたままではお前も私もここから出られないよ」

「……」


背に腹は変えられない。レイアはルカの話をした。


「なるほど。そいつは王子なのに、王子じゃないのだな」

「体は王子ですけど。心は別の人みたいです。これは祈り草のせいですか」


魔女は必死に何かを思い出そうとしていた。


「今までそんなことはなかったな。して?そのもう一人の王子は犯人を知っているけど、それは言えぬと申したのじゃな」

「はい。それはどう意味なんだろう」


ここで魔女はケタケタ笑った。


「そうか。なるほど」

「わかっているなら教えてください」

「ふふふ。私は長い間生きているのでな。お前の知らぬことも知っておる。昔、同じこと起こったのを思い出した。そうか、ははは」


意地の悪い魔女は教えてくれなかった。ここでレイアは牢屋の隅でふて寝した。



翌朝。レイアだけが牢屋から出された。大臣のそばにはガルマがいた。アイスを一緒に売った彼。心はすっかり仲間のガルマ。しかし大臣の前ではそうもいかなかった。一晩大臣を説得し、レイアを牢から出すのにかなり力を使ったため、ヘトヘトで立っていた。


「ふう。森娘、レイア。ニッセから嘆願があったのでお前を出す」

「ありがとうございます」


密かにうなづくガルマ。レイア、胸に手を当てた。


……よかった。誤解が解けたのかな。


ほっとしたの束の間。しかし大臣の冷たい声を聞いた。


「しかし。疑念は残っておる。そこで、お前に薬係に任命する」

「薬係?」

「ああ。お前が祈り草を使い、王子を治せ!時はもう無いのだ」

「時はもう。無い…」


大臣の冷たい顔。ガルマの弱り顔。レイアはじっと見ていた。




◇◇◇


「突然ですまなかったな」

「そうですよ?いきなり牢屋なんて」


レイアを送る体裁で一緒に廊下を歩くガルマ。こそこそ謝った。


「すまない。私の立場をわかってくれ」

「そんなの私に関係ないですよね?自分勝手で非道です。それが紳士のやり方ですか」

「え」


ガルマ。レイアの言葉に立ち止まった。


「そもそも!私は王子の病を治すためにここにやってきたのに。犯罪者扱いなんて、おかしいですよ」

「あ、ああ」

「それを知っているくせに。私のせいにして陥れるようとするなんんて。ガルマ隊長を見損ないました!」

「見損なった……」


若い娘に叱られたガルマ。ショックで呆然とした。幼い頃より、上の立場の彼。こうやって真正面から叱られるのはどこか懐かしかった。


「ねえ、聞いてますか?」

「あ。はい」

「……じゃあ。どうするべきだったか。言って見てください」

「え。我が?」


腰に手を当てて怒っているレイア。ガルマ、渋々話し出した。


「まず。その。そなたのことを、もっと早く大臣に紹介をしておけばよかったと今なら思う」


まるで子供のようにしょぼんとしているガルマ。レイアは弟を叱るように向かった。


「じゃ、試しに私を紹介してください」


ムッとしているレイア。ガルマ、必死に話し出した。


「え?……それは、『レイアは気の効く心優しい娘』であり」

「抽象的!それじゃ、褒めたことになりません」

「え」


何から何までダメ出し。近衛隊長のガルマ。ショックを受けた。


「す、すまぬ」

「もう!そんなこともわからないんですか?」


多くの兵を統率しているガルマ。金髪の長髪美しく、逞しい身体は城中の女性が振り向く美青年。しかし、今。村娘の説教を前に、子供に戻っていた。


「わ、我としては」

「言い訳は結構。私はあなたを軽蔑します」

「そんな?レイアよ。どうか我を許してくれ!未熟でダメな我を。どうか。どうか……」


そう言って膝を付いたガルマ。その目にはうっすら涙が光っていた。レイア、その涙、可愛いと思ってしまった。


「面をあげなさい」

「は、はい……」


グスグスしているガルマ。レイア、目を細めて顎をクイをあげた。


「今日はこれで許してあげます。でも二回目はありませんよ」

「は、はい?ありがたき幸せ」


レイアに許してもらったガルマ。嬉しさで頬を染めていた。レイアはこれで心がスッキリしていた。



「本当にすまなんだ。しかし、本当に祈草がなかなか効かないので。大臣もそう思ったのだ」

「……祈り草は本物です。問題は保管方法とか、使用方法じゃないのですか」


ガルマは歩きながら、静かにうなづいた。


「やはりそうか」

「そうに決まってますよ。ねえ、本当に、祈り草はどうやって使っているんですか」

「……ニッセの部屋についたら話そう」


ガルマの真剣な顔。レイアも息をゴクと飲んだ。



つづく



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