噴水事件
「アーサーぁ、パトリックぅ」
新学期を迎えた教室で皆さんと楽しくお話をしていると、切ない声と共に萎れた様子の激烈桃色さんが入って来た。
その姿は、控えめに言ってずぶ濡れ。
リリーさまのおっしゃった通りだわ。
夏季休暇の残り半分は、王都での社交で時を過ごした私にリリーさまがおっしゃったのは、新学期になってすぐ、噴水に激烈桃色さんが落とされる、という場面がある、ということ。
それを受けて、アーサーさまは、パトリックさまに『間に合うか?』とお尋ねになり、パトリックさまは『もちろん』とにこやかに答えていらした。
その時には、どういうことなのか少しも理解できなかった私だけれど、その後説明していただいて、改装後の噴水は”濡れることが無い”のだと納得でき、それは昨日の除幕式で実際に体験もした、のだけれど。
激烈桃色さん。
どちらで濡れていらしたのかしら?
あの噴水で濡れることは絶対に不可能なのに、と思う私の周りでは、皆さん同じように怪訝な顔で激烈桃色さんを見つめている。
「マークル嬢。今度は一体、何事だ?」
「ウィリアム!あのね、あたし、リリーとローズマリーに噴水に突き落とされたのっ!」
眉を寄せ、不機嫌さを隠そうともせずに言うウィリアムに対し、激烈桃色さんが嬉しそうに答えた。
あの噴水に落ちて、濡れる筈が無い。
そう判っているクラスの皆さんは、奇異な目で、というよりも、またか、という呆れた目で激烈桃色さんを見るも、本人は気づかない様子で瞳を輝かせる。
「マークル嬢。君は、その姿で廊下をずっと歩いて来たのか?そうであれば、周りじゅう、濡れているのではないか?」
そして、抱き付いて来ようとした激烈桃色さんを難なく回避したウィリアムと同じく、眉を顰めたまま言うアーサーさまに、激烈桃色さんは可愛らしく首を竦め、目を潤ませる。
「アーサー酷い!あたし、リリーとローズマリーに貶されて噴水に落とされても、頑張って歩いて来たのに」
そういえば。
物語では、私とリリーさまに噴水に落とされた激烈桃色さんを皆さん擁護して、私とリリーさまは、上位貴族としての権威を笠に着ている、と、糾弾されるのでしたか。
思う私の前で、クラスの皆さんは、けれど不可解な様子で激烈桃色さんの言葉を聞いていらっしゃる。
『大丈夫だよ、ローズマリー。ここは、物語とは違うのだから』
私は昨日、パトリックさまが微笑み言ってくれた言葉を思い出し、隣のリリーさまを見た。
「ローズマリー。そこは、僕を見るところだよ」
途端、反対側の隣に立つパトリックさまが不満そうに言って私の肩を優しく押し、方向転換させる。
「あの噴水に落とされてずぶ濡れ、か。そういえば、君は昨日の除幕式にいなかったな」
呆れたように言うウィリアムに、激烈桃色さんは不思議そうな顔をした。
「序幕式?」
「昨日ありましたでしょう?噴水の除幕式。それのことです」
そんな激烈桃色さんに、アイビィさんが疲れたように説明する。
「そんなの知らな」
「ああっ、見つけましたわ!桃色頭!」
激烈桃色さんが不思議そうに首を傾げた時、ひとりの女生徒が物凄い勢いで教室へ飛び込んで来た。
その手に持っているのは、バケツ。
どうしてバケツ?
その場の誰もが思ったその時。
「いましたの!?・・・きゃっ」
「ほら、滑りますから気をつけて」
その後ろからまたふたりの女生徒が現れ、濡れている床に滑ったひとりをもうひとりが支えて事なきを得た後、三人揃って私達へ頭を下げ、次いで激烈桃色さんに厳しい目を向けた。
「突然申し訳ありません」
「ですが、わたくし達、この桃色頭の被害者なのですわ」
「信じられないことにこの方、突然廊下でバケツに汲んだ水を被ったうえ、そのバケツをわたくし達に投げつけて逃走しましたの」
「なっ。あんた達に投げつけてなんてないわよ。避けられないのが悪いんでしょ」
三人の訴えに、激烈桃色さんは難癖をつけるなと言い返す。
その姿は、とても堂々としていて、本当に自分は悪くないと思っているのが感じられた。
そうでしたか。
バケツ、で。
それで、バケツ。
「あー。用務員室から無断でバケツを持ち出し、廊下でそのバケツに汲んだ水を自ら被ったうえ、バケツを投げて逃走した桃色の髪の生徒がいる、と多数訴えがあがって来たんだが。マークル、やっぱりお前か」
激烈桃色さんが、どうやってずぶ濡れになったのか、そして何故突如現れた彼女がバケツを持っているのか、その理由が判った、と、皆さんと頷き合っていると、担任の先生が、やっぱりか、とため息を吐きながら現れた。
「先生!そうです。それ、この桃色頭の奇行です!」
バケツを持って訴える彼女に、先生は判ったと頷き、激烈桃色さんと向き合う。
「で、マークル。お前、なんでそんなことしたんだ」
穏便に尋ねる先生に、けれど激烈桃色さんは苛立ちを押さえることなく舌打ちをした。
「もう。違うんだ、って!あたしは、リリーとローズマリーに噴水に落とされたの。だから早くふたりを罰してよ」
「「「はあ?」」」
激烈桃色さんの言葉に、バケツを持った彼女を筆頭に、三人が信じられないものを見るように激烈桃色さんを見た。
「なにその顔。本当なんだからね。これまでだって、あたしはリリーとローズマリーにいじめられてて。今日は、気持ちいいな、って噴水に居たら、突然突き飛ばされて落ちちゃったの。あたし、本当にびっくりして怖かったけど、頑張って歩いて来て」
「バケツの水を被ったのではなく、噴水に落とされてずぶ濡れになった、と」
「うん、そう・・あたし、ほんと、怖かった」
瞳を潤ませて訴える激烈桃色さんに確認するように言った先生に、激烈桃色さんが両腕で自分を包むようにして言い募る。
そうすると、長くきれいな桃色の髪が雫を含んだまま肩から流れ落ち、何ともいえずきれいな情景を生んだ。
そんな激烈桃色さんの可愛さに、私は思わず見惚れそうだったけれど、周りはそんな風ではない様子で。
「そんな話、誰が信じるというんだ」
「だって本当なの。信じてウィリアム」
「無理だ」
何ともいえず、しらじらと呆れたような空気のなか、代表のように声をあげたウィリアムに、激烈桃色さんは潤んだ瞳を向けて縋ろうとするも、その腕を完璧に避けたウィリアムが激烈桃色さんに向ける瞳はとても冷たい。
こ、ここにも絶対零度が!
思っていると、激烈桃色さんがその標的をアーサーさまとパトリックさまに変更した。
「いいもん、ウィリアムなんてもう知らない。ねえ、パトリック、アーサー。ふたりは、あたしを信じてくれるよね?ね、護ってくれる、って言ったもんね」
「信じるわけが無い」
「君を護ろうなど、思ったこともない」
身を寄せ・・・ようとして、それには失敗したものの、めげることなく甘く囁くように言った激烈桃色さんに、けれどふたりの態度は素っ気ない。
「なんでよ!?おかしいでしょう三人とも!ここは『大丈夫だったかい?もう大丈夫だよ。よく頑張ったね』ってアーサーが言って、パトリックは優しくあたしの頭を撫でてくれて、ウィリアムは労わるように上着を掛けてくれるところでしょう!?」
すると、先ほどまでの殊勝さをどこかに置き去った激しさで激烈桃色さんが地団駄を踏んだ。
いつものように高く膝をあげているけれど、びしょ濡れなのが功を奏して、スカートがひらひら巻き上がることは無い。
そんな場合ではないのに、私は何だかそのことに安心した。
そして。
パトリックさまに加えてウィリアムまでもが見せた、あの絶対零度にも屈しない、どころか立ち向かっていける激烈桃色さんは、やっぱり凄いのではないかしら。
思っていると、先生が重い溜息を吐いた。
「はあ。マークル。お前は、あくまでも噴水に落とされて濡れた、と主張するんだな?」
「だってそうだから!」
「判った。悪いが皆、付き合ってくれ。あの噴水で実験をしよう」
このままでは激烈桃色さんが納得しない、と判断したらしい先生が、そう言って教室を出ようとする。
「あの、先生。このまま歩いては、益々周りを濡らしてしまうのではないでしょうか。それに、早く乾かさないと風邪をひいてしまうかも」
その濡れた理由はともかく、現実にずぶ濡れの激烈桃色さんを見て私が言えば、先生も頷いてくれた。
「そうだな。だが、濡れているこの状態がひとつの証拠だからな。乾かすわけにはいかないんだ」
そう言って先生は、激烈桃色さんに何かの魔法をかけた。
すると、その身体が透明の膜のようなものに包まれたのが判る。
「風魔法のひとつだ。これで周りは濡れないし、簡単に風邪をひくこともない」
「すごいです。先生」
初めて見る魔法に、私は思わず、うっとりした声を出してしまった。
「ローズマリー。このくらい、僕も出来るよ。まあ、あの女相手に使うつもりなんか無いけれど」
すると、すぐ近くで不機嫌な声がしてパトリックさまが私の肩を抱き寄せる。
「ウェスト、お前なあ。俺に張り合ってどうすんだよ。ったく・・・しっかし、こんなお前を見て、ポーレットじゃなく自分に夢中なんだ、なんて。マークルはどうして思えるんだろうな」
心底、本当に、つくづく不思議だ、と呟いて、先生は激烈桃色さんを促して歩き出した。
「さて、マークル。お前が落とされたという噴水は、ここで間違いないか?」
「馬鹿なの? 間違う訳ないでしょ。学園内の噴水ってここしかないんだから」
先生に対して、だというのに激烈桃色さんは相変わらずの物言いで、聞いている私の方がどきどきしてしまう。
「じゃあ、マークル。お前がずぶ濡れになった、その状況を説明しろ」
先生の言葉に、私は物語の内容を思い出して思わず息を呑んだ。
「ローズマリー。大丈夫。僕がいる」
そうすると、そんな私に気づいたパトリックさまが、言葉だけでなくぬくもりもくれる。
「はい。パトリックさま」
その頼り甲斐のある腕のなか、私は落ち着いた気持ちで激烈桃色さんの言葉を聞くことが出来た。
「今日の朝。噴水、新しく完成したんだ、って思って嬉しくて。縁に座って水を手に掬って遊んでたら、リリーとローズマリーが来て。『平民だった貴女には、ここで水浴びするのがお似合いよ』って、突き飛ばして来て。あたしも頑張ったんだけど、ふたりがかりじゃ敵わなくて落ちちゃったのよ」
しょんぼりと言う激烈桃色さんは可愛い。
例え、その言葉にひと欠片の真実が無いとしても。
こういうのを、庇護欲をそそる、というのではないかしら?
私には到底真似できないわ。
しょんぼりと思っていると、隣のパトリックさまが私の耳に少し口元を寄せるようにして近づいて来た。
「そうか。物語、ではそういうことになるんだな」
「そのよ・・みたいですね」
パトリックさまがひそひそと言うのに、そのようですね、と答えそうになった私は、慌てて言い換えた。
「ふふ。ローズマリー、可愛い」
「パトリックさま。皆さんいらっしゃいますから」
「ちょっとローズマリー、聞いてんの!?あんたちゃんと反省しなさいよ!」
悪戯に頬をつついてくるパトリックさまの指を、手で包むようにして止めていると、激烈桃色さんの不機嫌な声が飛んで来た。
すみません。
またも、恋愛脳していました。
いえ、今回は脳だけでなく、行動もおこしていました。
「ですが今日、わたくしは噴水へ来ておりませんので」
脱線していた思考は申し訳ないと思うものの、激烈桃色さんの言葉に事実は無い、と私は私の今日の動きを口にする。
「なによ!言い逃れしようとしてんでしょ!」
激昂して私に掴みかかろうとした激烈桃色さんを、先生が、がしっ、と押さえた。
先生。
なかなかのお力です。
けれど、激烈桃色さんの暴れぶりをみれば、それくらい必要なのだとすぐに知れた。
「いいえ、マークルさん。それが事実ですの。わたくしもリリーさまも、今日は登校してからずっと教室にいました。クラスの皆さんが証人ですわ」
「ローズマリー!往生際が悪いわよ!」
髪を振り乱し、くわっ、と目を見開き叫ぶ姿は夢見が悪くなりそうなほどで。
す、すごい迫力です激烈桃色さん。
こんな風に怒鳴られるのは激烈桃色さんくらいな私は、それだけでどきどきしてしまうけれど、この噴水で濡れることは無い、と知っている私に焼却炉の時のような不安は無い。
これもすべてパトリックさまのお蔭、と私はパトリックさまの制服の裾を、ぎゅ、と握った。
「マークル。もう、妄言はやめるんだ。本当のことを言え」
「なんであたしを責めるのよ!あたしは被害者だって言ってるでしょ!リリーとローズマリーにやられたんだ、って!」
激烈桃色さんを押さえたまま、厳しい顔で言う先生に尚も暴れながら訴え続ける激烈桃色さん。
私に向けられるその瞳には憎しみが籠っていて、私は何だか哀しくなった。
「この噴水に落とされたからと言って、濡れることは無い。お前、それを知っていたから、バケツで水を被って自演したんじゃないのか?それなのにどうして、噴水に落とされたなんて言うんだ。お前の行動、矛盾し過ぎだろう」
不思議で仕方ない様子で言う先生に、激烈桃色さんは暴れるのも忘れたかのように、きょとんとした目になる。
そんな表情は、本当に可愛い。
「へ?濡れない、ってなんで?だって噴水で、水があるじゃない。なに馬鹿なこと言ってんの?」
「お前こそ、何を言っているんだ・・・って。ああ、そうか。お前、昨日の除幕式さぼっただろう。だから、知らないんだ」
「知らない、って何を?それにさっきも言ってた除幕式ってなに?」
本当に知らないのだろう、激烈桃色さんが不思議そうに聞いた。
「噴水の除幕式だよ。昨日あった」
「そんなの知らない!あ、わかった!わざとあたしに教えないで、それで」
「そんな訳ないだろう。俺が、夏季休暇に入る前日に教室で伝えたんだ。お前もちゃんと席に居た」
「そんな・・・」
「ともかくそこで、新しい噴水の珍しい機能についても説明があったんだ」
先生が呆れつつもきちんと説明していると、パトリックさまが片手を挙げて一歩前に出た。
「先生。実際に見てもらった方が早くないですか?ウィルトシャー級長、助力願えるか?」
言いつつ、パトリックさまは私の肩を軽く叩くと、噴水のすぐ近くまで歩み寄る。
「助力?ウェスト公子息。この場での助力など、嫌な予感しかしないのだが」
噴水の機能を実際に見てもらう、で、助力である。
ウィリアムの嫌な予感は、高確率で当たる気がします。
というより、それしかない、と思われます。
何なら私が、と思わなくも無いけれど、程度によってはスカートがめくれてしまうかも知れないと思えば、足が動かない。
「なに、ウィルトシャー級長の運動神経なら問題無い・・・よっ、と」
掛け声と共にパトリックさまはウィリアムの肩を押し、抵抗をすることのなかったウィリアムの身体は、呆気なく噴水の中へと落ち込んだ。
けれど、あがる筈の水飛沫は無い。
噴水の水に見えるそれは、ウィリアムの身体を優しくつつみ、名残のようにきらきらとした光を放った。
「な、なに、これ」
「魔道具仕込みの噴水」
呆然とした激烈桃色さんに、パトリックさまが、にやり、というに相応しい笑みを向ける。
「見ている分にはただの水だが、触れればこうして光のような粒子を発し、より強い衝撃、今のように落とされたような状況の際には、保護剤化して身体を優しく包み込んでくれるため、怪我をしない・・・まったく、凄い魔道具を創ったものだ・・・ああ、ローズマリーありがとう」
噴水から出て来ながら説明を加えるウィリアムに、せめて、と手を貸せば優しい笑みを浮かべてウィリアムが手を取ってくれた。
その、記憶にある手との余りの差に、私は思わずウィリアムの手をまじまじと見てしまう。
「まあ、ウィリアム。とても手が大きくなったのね。でもそうよね。背だって凄く高くなったんですもの」
「ローズマリーは、何だか小さくなった気がするよ」
「と、いう訳だから、この噴水に落とされたとしても絶対に濡れない。そしてそもそも、ローズマリーもリリー嬢も、マークルを噴水に落としたりしていない」
私とウィリアムが話ししていると、パトリックさまが割り込んできて、話を元に戻した。
その動きに、私は自分が本線から脱線していたことを知り、慌てて姿勢を正す。
え?
ウィリアム。
どうして、苦笑しているのです?
「パトリック・・・あのね・・お、落とされたのは本当なの。ただ、それじゃあ濡れなかったから、証拠、って言われたら、って思って・・それで」
「落とされたのは本当?だというなら証人は?目撃者がさぞかし大勢いるだろう。何と言っても、整理券制になったくらいの人気の場所なのだから」
パトリックさまの言葉に、激烈桃色さん以外の皆さんが大きく頷いた。
昨日の除幕式で行われたデモンストレーション。
そこで、先ほどウィリアムが体現してみせたような事象を目の当たりにした学園生は、こぞって噴水へ行こうとし。
それこそ、怪我人も出そうな様相に、先生方は昨日の分と今日の分の整理券を作った。
なので今日は朝早くから、この噴水には多くの学園生がいた筈で。
「ああ。それであんなにいっぱい、ひとがいたのね。ほんと、計画の邪魔だと思ったら」
「なんだ。多数の学園生がいたことは確認しているのか。それで?計画とは?」
忌々し気に言った激烈桃色さんに、パトリックさまが詰め寄った。
「マークル。本当のことを言え。どうしてこんなことをしたんだ」
先生にも詰問され、激烈桃色さんは不機嫌に唇を尖らせる。
「どうして、って。このイベントもすっごく大事なのに、リリーもローズマリーも何もしてこないから、仕方なく自分で噴水に飛び込もうと思ったのよ。それなのにひとがたくさんいて、飛び込む場所もなかったの。で、しょうがないから、バケツを使った、ってわけ」
「イベント?」
激烈桃色さんの説明に、先生が首を傾げた。
確かに、物語を知らなければ、激烈桃色さんの言葉は意味不明だろうと私も遠い目になってしまう。
物語を伝え聞いた私でさえ、理解できない言葉がままあるのだから。
「そうよ、イベント。このイベントで、ウィリアムは完全にローズマリーを敵認識して、あたしを護ってくれるようになるの。それで、アーサーやパトリックと一緒に、恋敵だけど一緒にあたしを護る、って誓ってくれるの。それが、騎士みたいですっごく素敵で」
うっとりと言う激烈桃色さんを、ウィリアムもアーサーさまも苦々しく見ているし、パトリックさまの瞳なんて、絶対零度を通り越した氷点下を絶賛発動している。
そして周りの皆さんは、意味不明からの諦観状態になった。
そのなかで激烈桃色さんひとりが、嬉しそうに頬を染めている。
「つまりマークルは、その三人の気を引きたかったわけか。なるほど、それでサウスとポーレットに嫉妬して貶めようとした、と」
「違うわよ!嫉妬してんのはリリーとローズマリーの方!理由は、三人があたしに夢中だから!もう、間違えないでよ」
何となく動機は判った、という先生の言葉を激烈桃色さんが猛烈に訂正する。
「お前、あた・・・大丈夫か?」
先生!
今、頭大丈夫か、って言おうとしましたね!
思わず零れそうになったのだろう本音を何とか隠した先生が、本気で心配そうに激烈桃色さんを見た。
「大丈夫じゃないのは、周りの方でしょ。三人ともあたしが大好きなのに、誰も判ってくれないんだから」
「そりゃお前、当事者三人だって判っていない、というか、思ってもないと思うぞ?」
今現在の、三人の激烈桃色さんへの態度を見、先生が諭すように言う。
「なに言ってんの。三人ともほんとはあたしが大好きで、あたしだけを護りたい、って思ってんのよ」
「じゃあ、今のこのお前への対応はなんだ?」
「三人とも照れがひどいの。それか、リリーとローズマリーが居るから」
「居ない時は、お前に優しいのか?」
「だと思う。ローズマリーとリリーがいないときに会ったことないけど」
私がいないとき?
それは知りようがないかしら、と思っていると、パトリックさまに、がっしりと肩を掴まれ顔を覗き込まれた。
ひいいいいぃっ!
こ、怖い、怖いですパトリックさま!
「ローズマリー?あの馬鹿の言うこと、信じたりしない、よね?」
物凄い圧で言われ、こくこくと頷いていると、そこにウィリアムも参戦して来た。
何故か私の肩に肘をついて、パトリックさまと同じように、私に視線を完全固定している。
こちらも、それはもう笑わない瞳の怖い顔で。
「でも少し動揺しただろう?傷つく」
そして言われた言葉に私は、動揺なんてしていない、と、今度はぶんぶん首を横にふった。
振りながらパトリックさまを見、ウィリアムを見る。
けれどふたりとも、表情が全然緩和しなくて、私はもう、頷いていいのか否定していいのかも判らなくなる。
「そ、そそそんなつ、つつつもりは、な、なくて、ですね」
両側から、それはもう凄い迫力で迫られて、私はたじたじになってしまう。
「マークル、見えるか?あれが現実だ」
先生が何かを言っているし、周りの皆さんも大きく頷いているけれど、私はそれどころではない。
誰か助けて!
リリーさま!!
誰より頼りになる婚約者と昔馴染みに挟まれて、私は冷や汗を流し続けた。
ブクマ、評価、いいね。
ありがとうございます(^^♪




