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白いお城の厨房









 「ローズマリー様!こちらの焼き加減をご確認ください!」


 「ローズマリー様!食器はこちらでよろしいでしょうか!?」


 まるで戦場の如く人々の声が響く厨房。


 私は、あちらこちらを見ながら手を動かし、口を動かしてお料理を完成させていく。


 作っているのは、肉料理、魚料理、野菜と穀物を主とした料理、そしてお菓子。


 肉料理はお肉が好物の東の土地神さまと精霊さんたちのため、魚料理はお魚が好物の南の土地神さまと精霊さんたちのため。


 そして野菜と穀物を主とした料理は、お野菜と穀物が好物の北の土地神さまと精霊さんたちのため、お菓子は西の土地神さまと精霊さんたちのため。


 そう、つまりは急遽これから行われることになった土地神さまたちを招いての夕食会のため、私は白いお城の使用人さんたちと奮闘しているのである。


 ことの起こりは、あの白い塔の最上階にあるバルコニーで、精霊さんたちに祝福をしてもらったこと。


 そして、突如出現したウェスト公爵家の皆さまに私が驚いているところに、土地神さままでもがいらっしゃった。


 しかも、東西南北すべての方が。


 そのうえ、西以外の土地神さまは、その地を離れることが出来ない精霊さんたちの分、の祝福も運んでくださった。


 そうして、土地神さま方もパトリックさまと私を祝福してくださり、その心ばかりのお礼に夕食へご招待することになった。


 このお城でお食事を召し上がることが出来るのは土地神さま方だけだけれど、お返しは、それぞれお祝いくださった各地の精霊さんたちにも差し上げたい。


 私がそう言えば、土地神さま方は喜んで用意した料理をそれぞれの土地へ転移させてくれるとおっしゃった。


 そうして私は今、厨房その他、このお城の使用人さんたち総動員の様相でお料理作りに励んでいるのである。


 「うわ!いい匂い!」


 「味見してえ!」


 「同感!」


 「ちょっとそこ!抜け駆けは許しませんわよ!」


 料理人さんたちと侍女さんたちが牽制し合いながら、料理を皿に盛りつけ、容易に転移できるようにと、それぞれの土地に割り振ったテーブルに並べていく。


 「皆さんにも、後でお礼しますね」


 何の特典もなく、これほど忙しい思いをさせるのは、と思い私が言えば。


 「じゃあ、俺も頑張って働こうかな」


 いつのまにか傍に居たパトリックさまが、悪戯っぽく言って笑った。


 「では、若様、こちらを東のテーブルへ運んでくださいませ」


 そんなパトリックさまに、どんっ、と音がしそうなほどに皿を乗せた重そうな大きな角盆を渡す侍女さん。


 それを苦笑いで受け取るパトリックさま。


 和気あいあいとした雰囲気は楽しくて、私もせっせと手を動かす。


 「これで最後、かな」


 盛りつけ終わった皿を東西南北それぞれの土地のテーブルに並べ終え、数を確認したパトリックさまが、やり切った笑顔で私を見た。


 「はい。パトリックさま、皆さん、ありがとうございました。では、土地神さま方にご報告しますね」


 そうして私が土地神さま方に料理が出来上がった旨、連絡をすれば、皆さますぐに来てくださった。


 「わああ」


 「おおお」


 その皆さまの神々しい姿に、厨房に集う使用人さんたちが感動の声をあげる。


 「ローズマリー。我だけでなく、精霊たちへの心遣い感謝する」


 「美味しそうじゃの!精霊たちへのお礼、しかと受け取ったぞ」


 「ローズマリー。やっぱり、僕と一緒に北へ行こうよ」


 「ローズマリー嬢。私も、精霊たちも貴女に心から感謝します」


 そうして、それぞれの土地神さまは、精霊さんたちに用意した料理を一斉に転移させた。


 「おおおお」


 「本当に一瞬で」


 それにまたあがる、感動の声。


 「さて、吾の食事の番だの!」


 「東の。はしゃぐな。一応、女性であろうが」


 「うるさいぞ、西の。其方とてそわそわしているではないか」


 「申し訳ありません、ローズマリー。皆、貴女の料理をまた食べられるのが嬉しいのです。ご容赦を」


 「ちょっと、なに自分だけいいひとぶってんの。ね、ローズマリー、南のは、物腰柔らかい詐欺師だから気をつけてね」


 「北の。それは、貴君のことでしょう。姿は少年なのに残念な内面をしているのですから」


 「ともかく移動しましょう。どうしますか?皆様、転移されますか?」


 賑やかに言い合う土地神さま方にパトリックさまが問えば、皆さま歩いて移動する、を選択された。


 そうして、皆でダイニングへ移動する、その途中。


 「ローズマリー様、こちらに!」


 廊下で、ひょい、とマーガレットに掴まった私は、ダイニングへ行く途中にある部屋へと連れ込まれた。


 「お部屋までお戻りになるお時間はございませんので、こちらでお仕度させていただきます!」


 その挨拶を皮切りに、わらわらと侍女さんたちが私を取り囲み、それぞれの作業を始める。


 それはもう、あの挨拶は侍女さんたちにとっては号令だったのだと思わずにいられないほどの速さと手際の良さ。


 「ローズマリー様、こちらへお座りください」


 「ローズマリー様、少しお顔をおあげになって」


 「ローズマリー様、今度はお立ちになってくださいませ」


 言われるままに動いていると、待機していたと思しき侍女さんたちが、あっという間に私の乱れた髪を直し、服装を整えてくれた。


 その早業たるや、流石公爵家の侍女さんたち、と拍手を贈りたいほど。


 「本当なら、もっとお時間をかけてドレスを選び」


 「もっと丁寧に御髪をくしけずってさしあげたいのに」


 土地神さま方を招いての晩餐。


 お迎えする側としては、確かにもっと時間をかけて支度をするべきなのだろうけれど、今回、何分にも料理するのが私なので、そこはもう、圧倒的に時間がない。


 「皆さんのお蔭で助かりましたわ。ありがとう」


 料理し通しで髪が乱れていたことも、服装のことも、正直そこまで考えられていなかった私が、本当に助かった、と皆さんに言えば皆さん、いい笑顔で応えてくださった。


 曰く。


 「「「次は、思い切りやらせてくださいませ」」」


 けれど、私は次回いつこちらのお城へ来るのか判らない。


 明確に約束することは難しい、と私が困っていると、再び皆さんが笑顔で。


 「「「ご成婚式の後のお披露目は、領内の各城で行うしきたりですので」」」


 つまりその時には、目いっぱい腕によりをかけてやらせて欲しいのだ、と言われ、私は頷いた。


 それこそ、こちらからお願いしなければならないかもしれない、冷たい対応を取られる可能性もある、と思っていた案件。


 このお城でも、その不安が氷解して。


 私は、私という異分子を受け入れてくれるウェスト公領の皆さんに心から感謝した。








ブクマ、評価ありがとうございます。

とても嬉しく、励みになります。

読んでくださってありがとうございます。

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