ふたりきりでの旅行、なのです。
「ローズマリー。あの城が、目的地だよ」
「わあ」
パトリックさまに言われ、馬車の窓から外を見た私は、遠くに白亜の優美なお城を見た。
それは、瀟洒、というのにこれ以上相応しいお城は無いのではないかと思うほど。
「とても素敵ですね」
領都のお城から、ここまで大体一時間。
湖が見えて来た時にも、とてもときめいたけれど、それよりも更に気持ちが高揚するのを感じる。
湖のカーブに添って馬車が走れば、その湖岸に端然と佇むお城の全貌が見えて来る。
「本当に素敵」
美しい曲線を多く取り入れられたその造りは、まるで貴婦人のようで、うっとりとした声が出てしまう。
「気に入ってくれたみたいでよかった。今日から三日間、短くはあるけれど、あそこでゆっくり過ごそうね。ふたりだけで」
ローズマリーと、やっとふたりきりになれた。
今日、もう幾度も口にされた言葉をまた音にして、パトリックさまが嬉しそうに笑う。
「ああ、でも泊まる部屋はもちろん別だから、安心して」
パトリックさまの笑顔、やはりとても素敵です。
などと考えていた私は、パトリックさまが、少し意地悪そうな笑みを含んで言った言葉に即、発火してしまった。
パトリックさまと、同じお部屋に泊まる。
それは、寝巻姿を見せる、とか、そういうこと、で。
寝巻姿など、お父さまにだって久しく見せていない、と思うだけで、どんどん恥ずかしくなってしまう。
「ローズマリー?もしかして、同じ部屋が良かった?」
「い、いえ、あの!別々のお部屋で、お願いします!」
勢いよく返事をして顔をあげた私は、目の前のパトリックさまの瞳が楽しそうに輝いているのを見た。
「パトリックさま!また、からかいましたね!」
もう、何度やられても上手く返せない、これが惚れた弱みということかしら、と私は脱力してしまう。
「からかってなんていないよ。ローズマリーさえよければ、俺は同じ部屋に泊まりたい、と思っているからね」
けれど、一緒の部屋がいいなんて当たり前のことだよね、とさらりと言われ、私は絶句してしまった。
「だって、俺はローズマリーと出来るだけふたりきりで過ごしたいのだから」
それなのに色々邪魔が入って、と呟くパトリックさまが、はあ、と大きなため息を吐く。
「あの、すみません。土地神さま方のことでは、本当にお世話になりました」
西の土地神さまに『他の土地神の元も訪って欲しい』と言われた私は、フレッドお義父さまの決断で、その翌日から他の公爵領を土地神さまと訪問することとなった。
『他の公爵には、私が話をしよう』
とおっしゃったフレッドお義父さまが一緒に行ってくださるのは、とても嬉しく心強かったし、翌日からすぐ、というのは、一刻も早く、という希望を述べられていた土地神さまにも喜びをもって迎えられ、私は、フレッドお義父さま・・・だけではなく、パトリックさまも一緒に・・・だけでもなく、何故かロータスお義母さまとカメリアさまも一緒に、残り三公爵さまの元を訪ねることとなった。
それでも、突然転移で城内へ行ってしまえば、流石に不法侵入になってしまう、ということで、その土地の土地神さまを伴って西の土地神さまが先に該当の地の公爵さまを訪れ、簡単な経緯を説明してから、私たちを連れて行く、という形になって、私はとても安心した。
そして実際に行ってみると、他の土地神さまや、精霊の皆さんは本当に弱っていて、ちゃんと回復できるのかと心配になってしまったけれど、私の作った物を食べると、皆さまきらきらに復活されてとても嬉しかった。
土地神さまや精霊さんたちが、私たちを喜んで迎えてくれたのに対し、公爵さま方の反応は色々で、最後まで胡散臭そうな方もいらしたけれど、土地神さまや精霊さんたちは見えたようで、私を胡乱な目で見ながらも料理することを許してくれた。
その私が作った、その地の土地神さまの好物、は、土地神さま、精霊さんたちの他、何故かウェスト公爵家の皆さまに好評で、また作って欲しい、とまでおっしゃられた。
そんな完全予定外の、土地神さま訪問、があったこともあって、私とパトリックさまはふたりきりで過ごす、という時間を持てなかった。
だからなのか、昨日、土地神さま訪問、を完全に終えると同時にパトリックさまは、皆さまの前で宣言をされた。
曰く。
『俺がローズマリーとしたいことリスト。明日から実行します!』
私としたいことリスト?
そのようなものをお作りに、と思っていると、皆さま、『いよいよなのね!』と盛り上がっていらしたけれど、私には、何が、いよいよ、なのか判らずいると『乗馬もしようね』とパトリックさまがおっしゃって、それで私にも漸く何が、いよいよなのか判って嬉しくなった。
そうして始まった、二泊三日のパトリックさまとの旅行。
「パトリックさま。私も、パトリックさまとふたりでいられるの、すごく嬉しいです。たくさん、一緒に居てくださいね」
この旅行にも、もちろんマーガレットは付いて来ているけれど、テオとクリアと一緒に別の馬車に乗っているので、この馬車には私とパトリックさましかいない。
そんな自由さもあって、私は自分の気持ちを素直に口にした。
「っ!」
とても恥ずかしかったけれど、パトリックさまは、それを聞くと何故か絶句され、片手で目を覆ってしまわれた。
「パトリックさま?」
いやだったのかと心配になって声を掛ければ、唸るように、嫌なんかじゃない、むしろ逆だとおっしゃる。
嫌じゃなくて、むしろ逆なら、嬉しい、と思ってくださるということかしら。
それなら、とても嬉しいと思う私の前で、パトリックさまは。
「心頭滅却・・・心頭滅却・・・」
と、何か呪文のような言葉を呟き続けていらして。
私は、ここまでの会話と心頭滅却の関係について、お城に着くまで考え続けた。
今年最後の更新になります。
読んでくださる皆さまに、いつも感謝しております。
一年、ありがとうございました。
佳いお年をお迎えください。




