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作るお菓子は<はちみつレモンゼリー>なのです。








 「ローズマリー様。レモンゼリーに、はちみつを使われるのですか?」


 ウエハースさん、アップルパイさんとの約束の日。


 朝食後、すぐに厨房にお邪魔した私を快く受け入れてくれた料理長さんの問いに、私は、はちみつの瓶を持ったまま頷いた。


 「ええ、そうよ。レモン果汁とはちみつを混ぜて、お湯に溶いて飲んだりするでしょう?その応用というか」


 不思議そうな顔の料理長さんに言えば、彼はもっと不思議そうな顔になった。


 「レモンとはちみつを混ぜて飲む、のですか?」


 「そうよ。喉が痛いときなどに飲むといいのよ」


 ポーレット領では普通のことだけれど、ウェスト公領では違うらしい、と思いつつ私はレモンを絞る。


 「そう、なのですね。勉強になります」


 そう言った料理長さんは、何やらメモを取り出して書き留め、ひとり頷いた。


 「ローズマリー様、レモンはこちらでも絞りましょう。そのくらいのお手伝いは、大丈夫ですよね?」


 そして、料理長さんは何人かに声をかけ、こちらの手伝いをするよう計らってくれる。


 片付けや仕込み、在庫の管理など忙しいなか、厨房を借りるだけでも心苦しかったけれど、皆さんそのようなことは考えてもいない様子で、私はそのあたたかい空気にとても安心した。


 お母さまも心配されていたけれど、ウェスト家の使用人の皆さんに受け入れられるかどうか、というのは今回の大きな問題、というか、とても大きな不安だったけれど、それは杞憂に終わったと言っていいと思う。


 このお城に到着した瞬間から、こちらの侍従や侍女の皆さんはあたたかく迎えてくださったし、その眼差しもとても優しかった。


 そして、今回お邪魔することになった厨房でもその雰囲気は変わらず、私は今、和気あいあいとした雰囲気のなかレモンゼリー作りに励んでいる。




 なんだか、とても楽しいです。




 テオとクリアのことがあったから、今回のことも秘密裡に、と言われるのかと思っていたけれど、フレッドお義父さまは、むしろ積極的に広めていく、とおっしゃった。


 そしてその発言の通り、今の時点で既にお城中に今回の話は広まっているらしい。


 そのうえ、特に秘密にするように、という注意も無いことから、やがて城外にも広まって行くことは必須だと思われる。


 フレッドお義父さまが言うには、今回私が門を潜ったときに起こった事象は、類稀なる吉祥として街でも騒ぎとなっていて、そこに土地神さまと精霊の話が加われば、領民の皆さんも納得が出来る、とのことだった。


 つまりは、あの事象は土地神さまが降臨される前兆だった、という紐づけをするということなのだと思う。


 確かに吉祥だけあって、その後何も無いというより、その方が皆さん納得できるのかな、と私は領民の皆さんが不安にならないようにする、というフレッドお義父さまの手腕は見事だと感じた。


 「なんだか、お茶会の準備をしているようね」


 『わたくしは応援!』


 と、おっしゃって私の傍で作業を見守ってくださっているカメリアさまが、楽しそうにテーブルを見ている。


 「本当にそうですね」


 今、テーブルの上に並べられているゼリーの型は、普通のサイズのものとひと口サイズのもの、そして、とても大きな切り分けて食べるサイズのもの。


 ひと口サイズのものは、精霊さんたちに。


 そして、普通のサイズは土地神さまの分、だけだった筈なのだけれど。


 『ローズマリー。俺の分も作ってくれる?』


 とパトリックさまがおっしゃれば、フレッドお義父さまとロータスお義母さまも期待の目を私に向けられ、カメリアさまは、当然最初からわたくしの分も作ってもらうつもりだった、と胸を張られた。


 結果、土地神さまの分と公爵家の皆さまの分のゼリーを作ることになった私は、厨房の皆さんに、味見がしたいです、と言われ彼らの分も作ることとなり、更には噂を聞きつけた侍女の皆さんや侍従の皆さんにも、大きな型で作ってくだされば切り分けますので!と言われ、最終的に、たくさんのお客さまを招いてのお茶会の用意をするが如くの量のゼリー液を作ることとなった。


 「うーん、いい香り」


 「ローズマリー様は、魔力の扱いも完璧なのですね」


 すべての型にゼリー液を入れ、魔法でゼリーを冷やしていると、カメリアさまが幸せそうに大きく息を吸われ、料理長さんはそう言って冷やされていくゼリーを感慨深く見つめている。


 「ありがとうございます。ご用の際は、呼んでくださいませ」


 少し悪戯っぽく言えば、カメリアさまが、ふふふ、と楽しそうにお笑いになった。


 「そんなこと言っていると、本当に呼ばれてしまうわよ、ローズマリー。食に関しては、本当に貪欲に追及するから」


 「ええ。お約束いただきましたからね。お呼びする気満々です」


 「もう、トムったら。ローズマリーは、次期公爵夫人なのよ?」


 「それは、もちろん心得ております」


 昨日、厨房へ初めて来たときから思うことだけれど、こちらではロータスお義母さまやカメリアさまが来るのは珍しくないのか、畏まった雰囲気は皆無で、料理長さんも他の皆さんも、そこまで緊張されていないように見える。


 それは、他の侍女さんや侍従さんも同じで、私はウェスト家の皆さまが使用人の皆さんを大切にしているのを強く感じた。


 そういう雰囲気はポーレット家と似ていて、私もすぐに馴染めそうだと安堵する。


 「ね、ローズマリー。そろそろいいのではなくて?」


 「はい。いいと思います」


 そんな会話をしているうちにゼリーが固まり、私は皆さんに手伝ってもらいながら、それらを型から外していく。


 「なんだか楽しいわ!でも、クリームを絞るのは遠慮するわね」


 これならわたくしにも出来る、と嬉々として型からゼリーを外していってくださったカメリアさまは、けれどクリームを絞る段階になると、再び応援、と椅子に座ってしまう。


 「ひと口サイズのゼリーを、このようにするのは初めてです」


 小さなゼリーを小皿にひとつずつ盛りつけ、そこにひとつずつクリームを施していく。


 確かに、ひと口ゼリーをこのように個別で盛りつけるのは私も初めて、と思い、私はこのゼリーが、土地神さま、精霊さんたち、そして私たち人間の合同お茶会用のものならもっと素敵なのに、と少しだけ思った。


 「できました!」


 そうしてやがて、私はすべてのゼリーにクリームを乗せ終わり、満足の気持ちでテーブルを見つめる。


 普通サイズのゼリーや、ひと口サイズのゼリーにはもちろん、切り分ける用のゼリーにも、幾つかクリームを乗せて、切り分ける目安になるようにしてある。


 「ローズマリー。そろそろ完成だって?・・・と、おお。壮観だね」


 これなら大丈夫だろうと安堵の息を吐いていると、パトリックさまが厨房に入って来られ、目を瞠られた。


 見ればその後ろに、フレッドお義父さまとロータスお義母さまの姿も見える。


 「まあ、可愛らしい仕上がりね。お疲れ様、ローズマリー」


 「ロータスお義母さま。ありがとうございます」


 「もう。わたくしだけの時は、お義母様と呼んでちょうだい」


 そんな会話をしながら数を数え確認して、土地神さまと精霊さんの分以外は、保存庫に入れてもらえるようお願いをした。


 こうしておけば、お城の皆さんはそれぞれの休憩の時に食べられると思う。


 「本当に美味しそうだ。ローズマリー、あの羽付き小人を早く呼んで、さっさと用事を済ませてしまおう。それで、一緒にお茶にしよう」


 「羽付き小人、って。パトリックさま」


 「うん、言い得て妙だろう?」


 私は、その言い方はどうでしょうか?というつもりで言ったのに、パトリックさまはそう言って胸を張られた。




 パトリックさまに、揶揄するような気持ちは無いのかも。




 思いつつ、私はウエハースさんとアップルパイさんに呼びかけようとして止まる。


 「声に出した方がいいのでしょうか?それとも、脳内で呼びかければいいのでしょうか?」


 テオとクリアなら正解が判ったかも知れない、と、厨房ということで、今は部屋でお留守番をしてもらっている二匹の可愛い姿を思った。


 「声に出してもらえると、私達にも判って助かる」


 「判りました。そのようにいたします」


 フレッドお義父さまの言葉に頷き、私は改めて呼吸を整える。


 「何だか、緊張します・・・それでは、いきますね・・・ウエハースさん、アップルパイさん。約束のお菓子が完成しましたよ」


 『完成したか!』


 「っ!」


 「うわ、早いな!」


 私が言い終わるか終わらないかのタイミングで現れたウエハースさんとアップルパイさんに驚いていると、パトリックさまが代表するかのように声をあげられた。


 「おはようございます。ウエハースさん、アップルパイさん。こちらです」


 どきどきしながらレモンゼリーを示せば、ウエハースさんとアップルパイさんの目がきらきらと輝き出す。


 『『わああ』』


 そして、食い入るようにゼリーを見つめたふたりは、きらきらとした瞳を私へと向けた。


 『礼を言う、ローズマリー。凄く美味しそうだ』


 『ありがとう、ローズマリー。幸せの香りに満ちていて、素敵なのです』


 「気に入ってもらえたのなら、私も嬉しいわ」


 後は味ね、とまだ少しどきどきしながら言えば、ウエハースさんとアップルパイさんが楽しそうに笑いながら私の両肩に飛んで来て止まる。


 『では、転移させてもらう』


 ウエハースさんが言った次の瞬間、テーブルに用意していたゼリーが、すべて一瞬で消えた。


 けれど、ウエハースさんとアップルパイさんは、未だここに居る。


 「自分が共に行かなくとも、転移できるのか」


 そのに事実に、パトリックさまが感心したような声を出された。


 『お前は出来ないのか?』


 「着地点の安全の確認が取れないだろう?自分が居ないと」


 『いや?自分が動かずとも、着地点は見えるからな』


 「凄いな」


 『別に凄くはない。おれたちには、それが普通だ。だがしかし、そうだな。見知った場所を思い浮かべ、そこへ何かを移動させる訓練をすれば、お前にも出来るようになると思うぞ』


 「そうか。ありがとう、やってみるよ」


 ウエハースさんの助言に、パトリックさまが真摯な表情で頷かれる。


 『では、おれたちも帰る』


 『ローズマリー、本当にありがとう』


 そうして、満面の笑みを浮かべたふたりも消え、辺りには私たちとレモンゼリーの香りだけが残った。







ブクマ、評価ありがとうございます。

とても嬉しく、励みになります。

読んでくださってありがとうございます。

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