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一撃必殺といい嫁の関係の謎、なのです。








 「よく来たね、ローズマリー!ローズマリーの方から来てくれるなんて嬉しいよ。もう少し待て、とか言われてしまって俺からは行けなかった・・・って、ローズマリー。それ、なに?」


 無事、パトリックさまの部屋に着き、マーガレットが訪問を告げれば、すぐにロバートさんが出てくれ、その背を追いこすように満面笑みのパトリックさまが来てくださった。


 そうして、抱き締めないばかりに歓迎してくださったパトリックさまは、私の腕に居るテオとクリアの頭に乗ったウエハースさんとアップルパイさんを見て固まってしまわれる。


 「こちらのおふたりは、この地の精霊さんで、ウエハースさんとアップルパイさんとおっしゃいます。ウエハースさん、アップルパイさん、こちらは公爵家ご嫡男のパトリックさまです」


 『おれたちのことは呼び捨てでいいぞ、ローズマリー』


 『はい。呼び捨ててください、ローズマリー』


 「なんだ。自分達は、既にしてローズマリーを呼び捨てにしているのか。それは少し馴れ馴れしくないか?しかも、俺が知らない間にとは許し難い。それに、精霊という割に薄汚れているようだが」


 初対面なのに、お互いに挨拶することもなく、何となく険悪な雰囲気が漂って私は戸惑ってしまう。


 それでも、ウエハースさんとアップルパイさんの声も聞こえるらしいパトリックさまは、難しい、というより面白くなさそうな顔をしながらも、私たち全員を部屋に招き入れてくれた。


 「・・・それで、ローズマリーにお前達のために菓子を作れと言うのか」


 勧められたソファに座り、ウエハースさんとアップルパイさんの事情を説明すると、パトリックさまはふたりを見て苦い顔になる。


 『お前に作ってくれ、とは言っていない。それにローズマリーは、公爵の許可が下りれば作ってくれると言っている』


 「つまりそれは、ローズマリーと俺の時間が削れる、ということだろう」


 『狭量だな』


 「ほう。父公爵の許可は要らないと?」


 『偉そうに言うが、お前が公爵な訳ではないだろう。ローズマリー、こんな奴放っておいて、直接公爵に聞けばいいではないか』


 ぽんぽんと小気味よく言葉が飛び交うのを聞いていると、いきなり私の方へ飛び火して来た。


 「それは出来ません。パトリックさまがいらっしゃるのに、公爵さまに直接お願いする訳にはいきませんし、それに何より、わたくしにとっては、パトリックさまの許可が一番大切なのです」


 私がきっぱりと言うと、隣に座るパトリックさまが嬉しそうに私の手を取り、ゆるく抱き寄せた。


 「ああ、ローズマリー。俺は幸せだよ。君が作ると言うなら、そうできるようにしよう。すぐ、父上に許可をもらいに行こう」


 『『伴侶馬鹿』』


 そして幸せそうにおっしゃるパトリックさまに、ウエハースさんとアップルパイさんの呆れたような声が重なった。












 「精霊に土地神、か。そのような存在のことなど、聞いたことも無い」


 「ですが実際、今目の前に居るではないですか、父上」


 唸るフレッドお義父さまに、パトリックさまが取り成すようにおっしゃってくださる。


 「パトリックの言う通りですわ、お父様。聖獣が実在するのですもの。精霊が居たとしても不思議ではないわ」


 空想世界のお話のようね、と言いながらカメリアさまはウエハースさんとアップルパイさんにご挨拶された。


 それに対し、ウエハースさんとアップルパイさんも丁寧に挨拶を返す。


 そんななかでも、フレッドお義父さまの疑念は消えないご様子で。


 「何か、悪事を働いて封印されていたのではないのか?」


 『違う!土地神様が復活されれば、この地はもっと豊かに栄える」


 「さほど悪い土地ではないよ、今も」


 渋い顔で厳しい言葉をおっしゃったフレッドお義父さまに、ウエハースさんが噛み付くように答え、それに対しまたフレッドお義父さまが挑発するように言い募られる。


 


 あ、検知の魔法。




 そうしてフレッドお義父さまがウエハースさんと言いあらそ・・・お話しされているのを、はらはらと見ていた私は、ロータスお義母さまがウエハースさんとアップルパイさんに検知の魔法をおかけになったことに気が付いた。




 そうか。


 それで、フレッドお義父さまが挑発するような言葉をかけていらしたのだわ。




 相手に邪な”気”があれば、その激した心に表れ易い。


 そのための挑発であり、今のはおふたりの連携だったのだと私は心底感心してしまった。


 事前に何も相談なく、こうして自然に互いの力を合わせることが出来る。


 そんな関係に、パトリックさまと私もなれたらいい、と強い憧れを持った。


 「フレッド。悪い”気”はありませんわ」


 そして、ロータスお義母さまがおっしゃった言葉に、フレッドお義父さまも頷かれる。


 「ああ、そうだな。試すようなことをして悪かった」


 フレッドお義父さまが頭をお下げになれば、ウエハースさんとアップルパイさんが同時に首を横に振った。


 『正直だな。検知されるなど、不快に思わないでもなかったが、まあ構わない。当主として、必要なことなのだろう』


 『わたしたちに邪心が無いと判断されたのなら、改めてお願いします。わたしたち、ローズマリーが必要なんです』


 アップルパイさんが、両手を組んでフレッドお義父さまに祈るように懇願すれば、何故かパトリックさまが私の肩をひしと抱き寄せた。


 「ローズマリーは渡さない」 


 その強い声に驚いて見上げれば、パトリックさまが厳しい瞳でウエハースさんとアップルパイさんを見ている。


 『菓子を作って欲しい、と言っているだけだろう!ほんと心狭いな、お前!』


 「判らないじゃないか。ローズマリーは、聖獣に選ばれるほどなんだ。油断すれば、俺が手を出せない世界へ、また連れて行かれてしまうかも知れない」


 悲壮にさえ見えるパトリックさまの表情とその声に、私はテオとクリアと出会ったときのこを思い出した。


 あのとき、私は確かに理屈では理解できない森に迷い込んだ。


 そして、パトリックさまの力で、私はこの現世に戻って来ることが出来て、とても感謝しているし、パトリックさまも安堵された。


 それでも、パトリックさまにとっては直接自分が行けない場所に居る私を案ずることしか出来なくて、随分と歯がゆい思いをされたのだろう。


 そして、その再発を恐れていらっしゃるのだろう。


 判っているようで判っていなかった、その苦悩の深さを見た気がして、私はパトリックさまの袖を、ぎゅ、と握った。


 「わたくし、何処にも行きませんわ。ずっとパトリックさまのお傍におります」


 真っ直ぐに瞳を見て言えば、そのはしばみ色の瞳が優しくやわらかに緩む。


 「ああもう、なにこのローズマリーの可愛さ!パトリックも溶けそうに幸せそうで、でも男前とか!今のふたりを記録映像に残しておきたいくらいだわ!」


 私の目を見つめる、やわらかくあたたかなパトリックさまの瞳が嬉しくて、そのまま見つめ合っていると、弾けるようなカメリアさまの声がして、私ははっと我に返った。


 今ここに居るのは、私とパトリックさまだけではない。


 ふたりだけではないどころか、初対面のウエハースさんやアップルパイさんが居るうえに、公爵家の皆さまが見ていらっしゃる前で恋愛脳全開してしまったことが恥ずかしく申し訳なく、私はそっとパトリックさまから放れよう・・・として失敗する。


 「昔の私達を見ているようだな、ロータス」


 「何を仰っているのです。貴方は、今でも変わらないではないですか」


 「それはそうだろう。私の、君への想いが色褪せることなど無いのだから」




 ん?


 あら?




 しかし、恋愛脳全開になっているのは私とパトリックさまだけではないようで、私たちを温かく見守ってくださるおふたりの仲良いご様子に、私もほっこりとなった。


 フレッドお義父さまに抱き寄せられ、頬にキスを受けて照れていらっしゃるロータスお義母さまが可愛い。




 私も、パトリックさまとずっと仲良くいられますように。




 思い、パトリックさまの袖に指を添わせれば、パトリックさまは私の手を優しく握り込んでくれた。


 「お父様とお母様も相変わらずねえ」


 呆れたようにおっしゃるカメリアさまの声も、どこか優しく、部屋に和やかな空気が流れる。


 『伴侶馬鹿は遺伝か』


 『ローズマリーの伴侶は、執着型なのですね』


 ウエハースさんとアップルパイさんの言葉に、カメリアさまの瞳が輝いた。


 「まあ、わたくしとお話が合いそうね!」


 「あ、あの。それで、わたくしがお菓子を作ってもよろしいのでしょうか?」


 何とか話を元に戻そうと私が言えば、フレッドお義父さまが優しく微笑んで頷いてくださる。


 「ローズマリーがいいなら、構わないよ。だが、かなり面倒なのではないか?どのくらいの数が必要なのだ?」


 『土地神様と、おれたち精霊が31だ』


 『土地神様は人間と同じ大きさのお菓子でいいけれど、わたしたち精霊には小さいのがいいのです』


 フレッドお義父さまの問いに答えたウエハースさんとアップルパイさんに、私は納得して頷いた。


 「さきほどのクッキーも、大きかったですものね」


 言ってから、勝手にクッキーをあげてしまった、と謝った私に、気にしなくていい、とフレッドお義父さまは笑ってくださった。


 『それでね、あの。お菓子は、すっぱくて甘いのがいいのです』


 『土地神様はともかく、他の奴らは本当にぐったりしているから、さっきみたいな菓子だと咀嚼できないと思う』


 「注文多いな、お前等」


 『うるさいぞ、伴侶馬鹿』


 うっとりと言ったアップルパイさんが、パトリックさまの言葉にぴくりとなり、すかさずウエハースさんが言い返す。


 言い合ってはいるけれど、ぎすぎすした感じはなく、アップルパイさんも恥ずかしそうにしている、という感じで、知らず微笑みが浮かんでしまった。


 「それでは、レモンゼリーなどいかがでしょうか?」


 『ローズマリーが、それがいい、と思うのなら、それがいいのです』


 『おれたちの為に、ローズマリーが考えて作ってくれる、というのが一番だ』


 提案すると、アップルパイさんもウエハースさんも、そう言って笑ってくれる。


 「それで。その作った菓子は、どうやって運べばいいんだ?」




 すごいです、パトリックさま。


 私、そこまで思い至りませんでした。




 パトリックさまの発言を、流石と思いつつウエハースさんとアップルパイさんを見れば、ふたりとも、ことん、と首を傾げた。


 『もちろん、おれたちが転移させる。運んでもらう必要はないぞ?』


 そうして当たり前のようにウエハースさんが言うには、テーブルに作った菓子を並べて置いておけば、自分たちが来て転移をさせる、ということらしい。


 「では、ローズマリーが行く必要も無いか?」


 『ああ、無い・・そうか、伴侶馬鹿はそれが心配だったのだな。安心しろ。ローズマリーを菓子と一緒におれたちの世界へ連れて行って、そのまま帰さない、などということは絶対にしない』


 ウエハースさんの言葉に、パトリックさまは心底安心したご様子で、その全身から力が抜けたのが判った。


 それほどに案じてくださっていたのだ、と私は嬉しくパトリックさまに笑いかけ、ウエハースさんとアップルパイさんに視線を動かす。


 「では、作るのは明日として、約束のお時間だけ決めますか?」


 そうすれば安心、と私が言えば、ウエハースさんがそれも否定した。


 『いや。出来た、とローズマリーがおれたちを呼んでくれればいい』


 「え?ええと、それはどういう?」




 ここで呼んだからと言って、聞こえるものなのかしら?




 そう思い聞けば、アップルパイさんが私の肩に乗り、嬉しそうな微笑みを向けてくれる。


 『さっき、わたしたちにお菓子を食べさせてくれたでしょう?だから、わたしたちは、どこにいてもローズマリーがわたしたちを呼ぶ声が聞こえるようになったのです』


 「そうなのですね。では明日、お菓子が出来上がりましたら、おふたりをお呼びするようにします」


 こくりと頷き答えれば、ウエハースさんが満足そうに私を見た。


 『楽しみにしている。頼むぞ、ローズマリー』


 『よろしくお願いします』


 そう言って、ウエハースさんとアップルパイさんの姿が消える。


 「聖獣の次は精霊か」


 「お手数をおかけすることになり申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」


 呟くように言ったフレッドお義父さまに頭を下げると、頭を優しく撫でられた。


 「手数なのはローズマリーだろう。厨房も材料も好きに使えるよう言っておくから、心おきなく励むといい」


 「そうよ、ローズマリー。大変だけれど、頑張ってね」


 「わたくしも、出来ることは手伝うわ!」


 「よろしくお願いしたします」


 フレッドお義父さまとロータスお義母さま、それにカメリアさまの言葉にもう一度礼をした私の手が、ロータスお義母さまに握られる。


 「では早速、厨房へ行きましょう。材料や器具の確認が必要でしょう?・・・って、パトリック。何をしているの?」


 私の手を引き、歩き出そうとしたロータスお義母さまが、私の反対の手を握るパトリックさまに目を向けた。


 「何、とはまた随分な。俺も一緒に行くに決まっているでしょう」


 「大丈夫よ、パトリック。わたくしも行くから。貴方は、明日の分の仕事でも前倒しでしておくといいわ」


 パトリックさまと繋いだ手を、ぐい、とカメリアさまに引き寄せられ、私は思わずたたらを踏む。


 「姉上」


 「王都に居るときは、領地経営のことより国の政務の実務研修に励まざるを得ないのだから、領地に居るときは領地のことをしっかりと学びなさい」


 カメリアさまの言葉に、私はパトリックさまの忙しさを思い頷いた。


 「パトリックさま。お忙しくていらっしゃるのに、お時間を取らせてしまい申し訳ありません」


 「そんなことは、まったく無いよローズマリー。領地のことはもちろん学ぶけれど、君と過ごす時間も俺には大切で有意義だ」


 パトリックさまは本当に優秀で、学園での成績も素晴らしいし、アーサーさまの側近としての実力も高い評価を受けていると聞く。


 そのうえ、領地のことも学ぶのだから、いくら優秀なパトリックさまとはいえ大変だろうと思う。


 それでも。


 「わたくしも、パトリックさまと過ごせる時間がとても大切で大好きです。なので、わたくしが厨房に居る間、パトリックさまがお仕事をされれば、それだけパトリックさまとのお時間が取れるのかな、パトリックさまも無理しないでわたくしとの時間を作れるのかな、と思うのです。わたくしの、わがままなのですけれど」


 パトリックさまと一緒の、ゆっくりとした時間を少しでも多く持ちたい。


 その願いのままに言えば、パトリックさまは片手で顔を押さえ、上向いて何か呻くような声を発せられた。


 「あの、パトリックさま?」


 わがまま過ぎて呆れられたのかも、と思ったけれど、そういう風ではない。


 「凄いわ、ローズマリー!一撃必殺ね!」


 そしてカメリアさまは何故かはしゃぐようにおっしゃられ、フレッドお義父さまとロータスお義母さまは、満足そうに頷かれている。


 「いい嫁をもらったな。これなら、パトリックも張り切って働いてくれるだろう」


 「ええ、本当に。ウェスト家は安泰ですわ」


 


 いえ、あの。


 カメリアさま、一撃必殺とは、どういう意味でしょう?


 そして、フレッドお義父さま、ロータスお義母さま。


 そう言っていただけて嬉しいです。


 嬉しい、のですが。


 理由が、少しも判りません。


 


 思いつつ、私は上向いたままのパトリックさまを当惑の思いで見つめた。




 

ブクマ、評価ありがとうございます。

とても嬉しく、励みになります。

読んでくださってありがとうございます。


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