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夏季休暇。みんな一緒に転移旅行!?なのです。








 「パトリック。ここまで送ってくれたこと、感謝する。とても助かった。そして、くれぐれもローズマリーをよろしく頼む。しかし、未だ手は出すなよ」


 ウェスト公爵家が領地へと赴く日、我がポーレット家も同じ時期に領地に行くと知って、それならば、とウェスト公領と王都の中間付近にあるポーレット領までパトリックさまが共に送ってくださることとなり、しかも王都のポーレット邸までお迎えに来てくださった。


 そうして三度ほど途中の街に寄って、お昼の休憩や観光をしつつ、パトリックさまの転移でポーレット領領都の手前の街の入り口まで辿り着いた。


 因みに、出発は今日の朝で、今はまだ夕方の早い時刻。


 つまりパトリックさまがおっしゃっていた、数度に分ける、というのは数日ではなく、本当に数度に分けるだけで。


 これほどの距離を一日も空けずに、この大人数を連れて移動できるなんて、パトリックさまの魔力量は本当にすごいのだと、改めて身をもって知った。


 「ローズマリー。この夏、お父様にエスコートさせてくれる約束、忘れないようにね」


 「はい、もちろんです、お父さま。領地のみんなに、よろしくと伝えてください」


 寂しそうに私の頬に手を当てるお父さまに言えば、必ず伝えると答えてくれる。


 そんなお父さまの肩越しに見える街は、私にも馴染みが深い。


 いつもここまで馬車で来て、漸くここまで来た、と思っていた街。


 「ローズマリーがいないと、皆寂しがるだろうな。パーティも盛り上がりに欠けるのは必至だ」


 懐かしく街を見ていると、お兄さまが私の隣に並んだ。


 「居ないことにも気づかれないのでは?」


 悪戯っぽく言うお兄さまに微笑み返せば、優しく髪を撫でられた。


 「夏の残りは、ちゃんとうちの邸で過ごすんだよ?それと、俺にもエスコートさせること」


 「はい」


 領地を持っている貴族の多くは、夏の半分を領地で過ごすことが多い。


 その時期はその年に依って違うことも多く、かくいう我が家も、昨年まで一度もウェスト公爵家が領地へ行く時期と重なったことが無かった。


 つまり、私とパトリックさまは、いつも王都に居る時期が違った、ということで。


 一番社交が行われる時期に、領都と王都に分かれているので、パトリックさまとはなかなか会えないのでは、と考え、同じ時期にできませんか、と尋ねてみたこともある私にとって今回あっさりと同じ時期になったことは衝撃だった。


 私が尋ねたときにはいつも『難しい』と言われ、却下されていたのに。


 不思議、というより作為的なものを感じて思わず不満を漏らした私に、パトリックさまは更に苦い顔をされた。


 『夏はもちろん、他の時期だって俺とローズマリーが王都に一緒に居る時期をわざとずらしていたと思うよ、俺は』


 学園に入るまで、私は確かに王都と領都を行き来するようにして育った。


 それによって、領都での自分の立場や役割、領地のことについて肌に感じて知れたし、王都にも慣れていることでそちらにも愛着があり、更には社交に困るようなこともないので、そのこと自体は感謝している。


 それは自分も同じだ、とおっしゃったパトリックさまは、しかしてその王都滞在の時期を、私たちはわざとずらされていたのだ、と深いため息を吐かれた。


 言われてみれば、そうなのだと思う。


 そうでなければ、いくらなんでもデビューのその時まで一度も会わない、などということは有り得ないと思うから。


 『でも、嬉しいな。ローズマリーも、俺に会いたいと思って、同じ時期に、なんて言ってくれていたんだ』


 嬉しそうに笑うパトリックさまと目が合って、私は不満も忘れて幸せでいっぱいな気持ちになる。


 今はもう既にパトリックさまと会えて、そして両家に祝福されているのだから、過去のことはさほど重要ではないのだろう。


 それでも、機会があれば何故そのようにしていたのか、聞いてみたくはあるけれど。


 「ローズマリー。身体には気をつけて、皆様のお言葉をよく聞いてね」


 街が見える小高い丘の上で、荷物を積んだ馬車と人が乗る用の馬車が、預かってもらっていたパトリックさまの空間倉庫から次々取り出され、乗車の準備がなされていく。


 その様子を不思議な気持ちで見つめていると、お母さまが少し心配そうに私の肩に手を置いた。


 「はい、お母さま。お言葉、胸に刻みます。それにしても、すごい光景ですね。馬車が空間から出現してくるなんて」


 「本当にそうね。『馬だけ、準備してください』と言われたときは、よく意味が判らなかったけれど、まさか馬車ごと運んでくれるなんて」


 本当に驚いたのだろう、お母さまも目を丸くしてその光景を見ている。


 「何でも、生き物は入れられないのだそうです。それにしても、馬車が収納可能だとは思いませんでした」


 クローゼットごとでもいいよ、というのは冗談だと思っていたけれど、あれは本当に移動可能な物ならクローゼットごとで大丈夫、ということだったのだと私は知った。


 「しかも、帰りも迎えに来てくれると言ってくださって。貴女もお世話になるのだし、とびきりのお礼を用意しないといけないわね」


 そうおっしゃるお母さまは、既に上質な布や茶葉など、色々な物をウェスト公爵家に贈ってくださっているけれど、それでは足りないとお考えのご様子。


 「よろしくお願いします」


 侯爵家を内側から支える手腕は見事だ、と常々お父さまに絶賛されているお母さま。


 私もやがて女主人となる身として、今はお母さまのなさることを学ばせていただこうと思う。


 「ウェスト公爵の領都のお城は、とてもご立派なことで有名なのよ。それこそ、王城を凌ぐくらい。それとね、うちの領と一番違うのは、魔獣討伐の拠点とするためのお城があることなのですって。領都のお城から魔獣討伐に向かうことも多いそうで、当然、侍女や侍従はその状況に慣れているでしょうから、貴女は少し苦労するかも知れないわ」


 侍女や侍従。


 直接主人一家に仕える彼らは、邸の情勢にも詳しい。


 そんな彼らが、魔獣討伐どころか魔獣を見たことも無い私を快く迎え入れてくれるか、お母さまは心配なのだとおっしゃった。


 「魔獣討伐は、やがて私も参戦するものです。心して学ぼうと思っています」


 「その意気や良し!なんてね。大丈夫よ、ローズマリー。最初から実戦に行かせるような真似はしないし、わたくしやパトリックが必ず傍にいるわ」


 背筋伸ばす思いで言った私の後ろからそんな声がして振り向けば、カメリアさまが笑顔で立っている。


 「カメリア様。どうかローズマリーのこと、よろしくお願い申し上げます」


 「はい。大切にお預かりします。それに、領の者達も皆、ローズマリーに会えるのを楽しみにしております。ご心配には及びませんわ」


 「ふふ。それほど心配なら、アイリスも一緒に来てしまえば?」


 お母さまの後ろから驚かすように現れ、そのままお母さまを抱き締めてしまったロータスお義母さまが、半ば本気の表情でおっしゃった。


 「ロータス。君は、幾つになってもそのように、少女のような真似を」


 すると、お父さまがすごい速さでやって来て、お母さまを自分へと引き寄せる。


 「アーネストこそ、いつまでも心の狭い」


 一方のロータスお義母さまも、そんなお父さまに負けることなく、お母さまの反対の腕を抱き込んでいらっしゃる。


 「ロータス様。ローズマリーのこと、よろしくお願いいたします。至らないところは、どうぞ躾けてやってくださいませ」


 睨み合うお父さまとロータスお義母さまに挟まれたまま、そうおっしゃるお母さまに合わせ、私もロータスお義母さまに頭を下げた。


 「お任せなさい。といっても、少しも心配していないのだけれど。行儀作法は何も問題無いのだから、教えるといっても領内のことや魔獣のことでしょう?一族にも、そう煩いひとはいないし、ローズマリーなら何も心配いらないわ。もちろん、危険な目になど絶対に遭わせないから安心して」


 心配ない、とおっしゃるロータスお義母さまの言葉を聞きながら、私は、私の荷物を用意してくれながらお母さまがおっしゃった言葉を思い出す。


 『ロータス様に伺って来たのだけれど、この度の訪問で、ローズマリーを一族皆様にご紹介くださるご予定なのだとか。そのほかにも、領の重鎮や有力人物にも。その時々で晩餐を催されるようだから、ドレスは多めに用意しましたよ』


 普段、散財するような真似を絶対になさらないお母さまが、様々な格式の晩餐に対応できるよう、幾着ものドレスと、それに合わせて装飾品も作ってくださっていた。


 そのときには、未だ婚約しただけの私が、領内のそのような晩餐に招かれるかどうかも判らないと思っていたけれど、今こうしてロータスお義母さまの言葉を聞けば、そのお話が突然現実味を帯びた。




 お母さま、ありがとうございます。




 私が恥をかかないよう、万全に整えてくれたお母さまには感謝しかない。




 私は本当に、まだまだね。




 思えば、私ひとりでよそ様の領にお世話になるなど初めてのことで、私は急に心細くなる。


 「ローズマリーは、必ず僕が護ります」


 心が萎れていくような感覚に怯えていると、不意に肩があたたかくなって、気づけばパトリックさまの腕のなかにいた。


 「よろしくお願いしますね」


 お母さまの言葉にパトリックさまが頷かれ、合流したフレッドお義父さまが楽し気に笑う。


 「何だか、このまま嫁に来てくれるような錯覚に陥るな」


 「それは幻だ。疾く現実に戻られよ」


 「楽しい夏にしましょうね、ローズマリー」


 フレッドお義父さまとお父さまがじゃれ合い、カメリアさまが私の腕に抱き付いて来る。


 笑い声が辺りに響き、そうしている間に、いよいよ馬車の用意がすべて整った。


 幾度もお礼を言い、私のことを託した両親が馬車に乗り、ふわりと笑顔で私を抱き寄せたお兄さまもその後に続く。


 やがて動き出した馬車の窓から、お父さまもお母さまも、そしてお兄さまも笑顔で手を振ってくださる。


 「お気をつけて」


 私もそう言って手を振り返し、同じように手を振ってくださるパトリックさまやカメリアさまと共に、見慣れた我が家の紋章付きの馬車が去って行くのを見送った。


 「さあ、ローズマリー。ここからは、お義母さま、と呼んでね」


 馬車がすっかり見えなくなり、少ししんみりしていると、幾度もお母さまの名を呼び、まるで少女のように手を振っていらしたロータスお義母さまが、茶目っ気たっぷりにそうおっしゃる。


 「では、私はお義父様、だな」


 そしてフレッドお義父さまも笑いながらそうおっしゃって、私はほっこりと温かい気持ちになった。


 「あとふたつ、他領の街を経由したら、その後はもうウェスト公領だよ。ローズマリー。大丈夫?疲れてはいない?」


 パトリックさまは、そう言って私を労わってくださるけれど、パトリックさまにこそ、その言葉はお贈りしたい。


 「パトリックさまこそ、お疲れなのではありませんか?」


 何といっても、ひとりで私たち全員を転移させてくださっているのだし、その距離はかなりのもの。


 「「「パトリックの魔力は、無尽蔵だから大丈夫」」」


 そう思い言葉にすれば、何故かパトリックさまが口を開かれるよりも早く、カメリアさま、ロータスお義母さま、フレッドお義父さまが声を揃えて力強くおっしゃられた。


 その余りに揃った声と呆れてさえいらっしゃるような表情に驚きはしたけれど、それをパトリックさまが苦笑しながらも肯定されていたし、顔色も悪くなかったので、本当に大丈夫なのだと安心できた。


 そうしてパトリックさまに伸べられるままに手を繋ぎ、転移するまでの間、その地の青空を見あげる。


 これから向かうウェスト公領。


 パトリックさまを育まれた、もうひとつの場所。


 そこへ行く、ということが、まるでパトリックさまの記憶と遭遇するような心持で。


 私は、高鳴る胸の鼓動を感じながら、ぎゅ、とパトリックさまの手を握り返した。


 




 



ブクマ、評価ありがとうございます。

とても嬉しく、励みになります。

読んでくださってありがとうございます。

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