表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/100

夏季休暇。激烈桃色さん襲来!?なのです。








 「ねえ、ローズマリー。一緒にお庭をお散歩しない?」


 食後のコーヒーを飲みながら、カードでもしましょうか、などと話ししていると、カメリアさまがそう言って私に微笑みかけてきた。


 「はい、是非」


 元より歩くことが好きな私が躊躇い無く頷くと、パトリックさまに手を握られる。


 「それなら、僕と行こうローズマリー」


 カメリアさまに向いていた視線をパトリックさまに向ければ、パトリックさまは微笑んで、私の手を握ったまま上下に優しく振った。


 「あの、それなら三人で」


 「パトリック、遠慮なさい。わたくしは、ローズマリーと女同士の話があるのです」


 それなら三人で行きませんか、と言いかけた私の言葉は、カメリアさまの断言にかき消されてしまう。


 「姉上。ローズマリーは、僕の婚約者です」


 「同時に、わたくしの義妹であり、大切な友人でもあります。パトリック。貴方はいつもローズマリーを独占しているでしょう。今日はわたくしに譲りなさい」


 「姉上とふたりきりなんて、ローズマリーが嫌がるかもしれない」


 「そのようなことはありません!」


 パトリックさまとカメリアさま、おふたり同時に、ざっ、とこちらへ視線を向けられ、私は叫ぶようにそう言った。








 「ふふ。聞いたわよ、ローズマリー。パトリックと伝説を実行したのですって?」


 結果、カメリアさまとふたりで歩く公爵邸の庭園は見事で、しかも相当に広く、慣れない私は簡単に迷子になってしまいそうだと思う。


 「伝説、ですか?」


 何のことか、と私が首を傾げればカメリアさまは楽しそうに笑った。


 「ええ、そう。<食堂のテラスでスペシャルメニュウを食べさせ合うと、その相手と親しくなれる>という、あれよ。それに、パトリックと魔力授受もしたのでしょう?先にローズマリーがパトリックの風の魔力を受け取って、つい先日、パトリックがローズマリーの治癒の魔力を受け取ったと聞いたわ」


 ふふふ、と美しい笑みを浮かべるカメリアさまだけれど、私は恥ずかしくて目を伏せてしまう。




 いえ、すべて事実なのですけれど。


 その、こうして話されると恥ずかしい、です。




 「パトリックさまが、お話しなされたのですか?」


 仲のいいご姉弟だから、と思っていると、カメリアさまがにやりと笑った。


 「パトリックはね、昔からほんっとうにローズマリーが大好きで『風の魔力に憧れているローズマリーも可愛い。でもそれほどに憧れているのなら、俺の風の魔力をあげられないか』とか言って、書庫に籠り続けて、その忘れられた方法を見つけて、復活までさせちゃうくらいなの。それはもう、ローズマリーに引かれるレベルだと、わたくし危惧していたくらい。だから、なかなか会わせてもらえない貴女のことを知るためなら、どんな苦労も厭わないのだけれど、当然のように、その情報はなかなかわたくし達にはくれないの。自分だけで、大切に仕舞い込む感じよ。でも、わたくし達は聞きたくて。だから、いつもわたくしがパトリックの口を割らせるのよ」


 「わら・・・」


 お話の内容にも色々聞きたいことがあったけれど、何よりその言い方に驚いて私が固まっていると、カメリアさまが安心させるように私の目を覗き込む。


 「ええそう。でも、いつだって惚気大会になるのだから大丈夫。今回だって『恥ずかしがりながらも、俺に食べさせ食べさせられるローズマリーは、永久保存ものだった』だの『俺のなかにもローズマリーの魔力が宿っていると思うと、自分を大切にしようと思える』だなんて、それはもう蕩けそうに凄かったわ。そんな風に堂々と惚気られるのですもの。パトリックにも利があるのよ」


 嬉しそうに言いながら、カメリアさまが庭に咲く可憐な花に優しく手を触れた。


 「ローズマリー。パトリックを幸せにしてくれてありがとう。これからも、よろしくね」


 「わたくしこそ、パトリックさまのお傍にいられて幸せです。パトリックさまの隣に相応しい、と言われる存在になれるよう努力いたします」


 きちんと礼をした私に、明るく微笑んでカメリアさまが頷いてくださったとき、不意に辺りが騒がしくなって、後方を歩いていた護衛の方が私たちとの距離を詰めた。


 「何事かしら?」


 カメリアさまが護衛の方に声を掛けると、一礼をしたその方が、私たちの前に出る。


 「はい。表門にて不審人物を確認したようです。お嬢様方は、すぐお邸内にお戻りください」


 「不審人物?このウェスト公爵家に正面から、しかもこの明るい時間に挑む猛者がいたということ?」


 護衛の方の言葉に、カメリアさまが考え込むように指を顎に当てた。


 「猛者、は、どうでしょうか。一見普通の女性のようですが」


 護衛の方が、何か魔道具のようなものを操作しながら情報を伝達してくれる。


 「普通の女性も、中身は充分猛者だったりするじゃない。もちろん、いい方の意味では言っていないわよ。ああ、ローズマリー。あれはね、警備に使っている通信魔道具なの。パトリックの発明なのよ。さ、表門へ行ってみましょう。大丈夫、何かありそうになっても、わたくしが護ってあげるわ」


 珍しい魔道具をじっと見ていると、カメリアさまがそう説明してくれて、さっさと歩き出してしまい、私も慌てて付いて行く。


 「お嬢様」


 「ふふ。わたくしですもの。そう言い出すのは判っていたでしょう?この難攻不落のウェスト公爵家、しかも今日は家族全員揃っているなかに突入しようだなんて、余程腕に自信のある者か、余程の愚か者か、どちらかでしかないもの。確認しない手はないわ」


 「はい、そう仰るだろうことは予測できておりました。自分も、お嬢様の強さは存じ上げております。しかし、護衛は自分なのでお任せください」


 護衛の方も慣れているのか、それだけを言ってカメリアさまに従った。


 「ふふ、強さ、ねえ。それは、わたくしが戦闘に於いて強い、ということかしら?それとも好奇心が、ということ?」


 「もちろん、両方です」


 主家の令嬢に対するには少し砕けた様子で、しかも失礼ともとれる内容を、当然のようにさらりと言い切る護衛の方に、カメリアさまも笑っている。




 信頼なさっているのだわ。




 その様子から、お互いに信頼をおいているのが良く判って、私は改めてカメリアさまを見た。




 カメリアさまも、お強いと聞くものね。




 その土地柄、当然のように自分たちも魔獣討伐に赴くという、ロータスさまとカメリアさま。


 おふたりは、時には采配も振るうという。




 私も、頑張らないと。




 ロータスさま、カメリアさまも参戦なさるということは、嫁げば私も参戦するということ。


 これまで魔獣討伐に参戦したことのない私は、身の引き締まる思いがした。


 「え?」


 そうして、急ぎ歩いて見えて来た門では、確かにひとが揉めている。


 門を通り、敷地内へ入ろうとする人物を、数人がかりで止めているのを見た私は、思わず目を瞠った。


 遠目でもはっきりと判る、その髪色には見覚えがありすぎる。


 「凄く目立つ髪の色ね。あれほど強烈な桃色も珍し・・・あ、もしかしてあれが、激烈桃色迷惑女?」


 「はい、そうで・・・と、あの、本名は」


 


 どうして、激烈桃色さんがウェスト公爵家に?




 思い、呆然としていた私は、カメリアさまの問いに頷いてしまい、慌てて訂正しようとしてカメリアさまに止められる。


 「知っているわ。マークル家の娘なのでしょう?でもね、ローズマリーを困らせて、嫌がるパトリックを追い掛け回している人間なんて、激烈桃色迷惑女呼びで充分よ」


 カメリアさまは、憤ったようにそう言って、更に門へと近づいて行く。


 「あーっ、カメリア!なんであんたがここに居んのよ!」


 そのカメリアさまの姿を認めた激烈桃色さんが、指をさして叫んだ。


 「お嬢様になんてことを!」


 途端、門の警備の方々に取り押さえられながらも、激烈桃色さんは藻掻いてこちらへ走って来ようとする。


 「なんで、って。ここは、わたくしの家なのだけれど。聞きしに勝る傍若無人さね。名乗られてもいないうえ、初対面でいきなり呼び捨てにされるなんて、初めてだわ」


 カメリアさまが、眉を顰めて私を見た。


 「はい。それは、わたくしも驚きました」


 初対面の時の驚きを思い出しつつ言えば、カメリアさまが労わるように、そっと私の髪を撫でてくれる。


 「男爵家から公爵家へ堂々と声をかける、というだけでも驚きなのに。邸にまで押しかけて初対面で呼び捨てにするなんて、本当に聞きしに勝る状態なのね」


 「ちょっとローズマリー!パトリックがあたしに夢中になったからって、カメリアに泣き付くとか卑怯よ!」


 その間にも、激烈桃色さんは喚き叫び、藻掻き続けて警備の方に殴りかかってさえいた。


 激烈桃色さんが女性だからだろう、激烈桃色さんを取り押さえているのは、皆さん女性の方だけれど、それでも警備の方に叶うはずもなく、その拳が当たることは無くて私はほっとしてしまう。


 「しかも、パトリックが自分に夢中になったとか凄い妄言を口にしているし。あれって、パトリックが夢中なのはローズマリーだ、という現実さえ見えていないということでしょう?本当に心配だわ。ねえ、ローズマリー。パトリックは、あの激烈桃色迷惑女から、ちゃんと貴女を護ってくれている?」


 激烈桃色さんの余りの激しさ、異様さに驚いた様子で、カメリアさまが心配そうに私の手を握った。


 「はい。いつも、パトリックさまに助けていただいて。お世話になってしまっています」


 「本当に?」


 「本当です。わたくしの為に、凄い魔道具まで創ってくださって」


 「ああ、焼却炉に取り付けていた、というあれね。まあ、パトリックは子どもの頃からローズマリー一筋でローズマリー命だから、心配ないとは思うけれど。ちゃんと、心も護ってくれている?」


 「はい。心こそ、いつも傍にいてくださって。本当に心強く思っています」


 パトリックさまが傍にいてくれる、寄り添ってくれる幸せを噛み締めながら言えば、カメリアさまが、悪戯っぽい笑みを浮かべる。


 「ふふ。ごちそうさま」


 言われ、優しく頬をつつかれて、私は自分の表情に恋愛脳が投影されていた事実を危惧した。


 「え?あの」


 「ローズマリーの顔に、パトリックに愛されて幸せ、って書いてあったわ」


 そしてそれが現実であったと知って、撃沈する。


 「うう、すみません」


 「いいじゃない、幸せそうでわたくしも嬉しいわ。本当にパトリックの一方通行ではない、と実感できるもの」


 ね、とカメリアさまが目配せすれば、護衛の方も何故か幸せそうに微笑み頷いていて、私は益々居たたまれない気持ちになった。


 「ちょっと!いい加減放しなさいよ!あたしはパトリックの恋人なのよ!あんたたちの主人になるんだから!こんなの許されないのよ!ねえ!無視しないで聞きなさいよ!」


 激烈桃色さんは、その両手と両足を何かで拘束され、動けない様子で、転がりながらひたすらに叫んでいる。


 「大丈夫か!?ローズマリー!姉上も!」


 そのとき、私たちのすぐ近くが淡く光って、焦った様子のパトリックさまが転移していらした。






ブクマ、評価ありがとうございます。

とても嬉しく、励みになります。

読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ