夏季休暇。激烈桃色さん襲来!?なのです。
「ねえ、ローズマリー。一緒にお庭をお散歩しない?」
食後のコーヒーを飲みながら、カードでもしましょうか、などと話ししていると、カメリアさまがそう言って私に微笑みかけてきた。
「はい、是非」
元より歩くことが好きな私が躊躇い無く頷くと、パトリックさまに手を握られる。
「それなら、僕と行こうローズマリー」
カメリアさまに向いていた視線をパトリックさまに向ければ、パトリックさまは微笑んで、私の手を握ったまま上下に優しく振った。
「あの、それなら三人で」
「パトリック、遠慮なさい。わたくしは、ローズマリーと女同士の話があるのです」
それなら三人で行きませんか、と言いかけた私の言葉は、カメリアさまの断言にかき消されてしまう。
「姉上。ローズマリーは、僕の婚約者です」
「同時に、わたくしの義妹であり、大切な友人でもあります。パトリック。貴方はいつもローズマリーを独占しているでしょう。今日はわたくしに譲りなさい」
「姉上とふたりきりなんて、ローズマリーが嫌がるかもしれない」
「そのようなことはありません!」
パトリックさまとカメリアさま、おふたり同時に、ざっ、とこちらへ視線を向けられ、私は叫ぶようにそう言った。
「ふふ。聞いたわよ、ローズマリー。パトリックと伝説を実行したのですって?」
結果、カメリアさまとふたりで歩く公爵邸の庭園は見事で、しかも相当に広く、慣れない私は簡単に迷子になってしまいそうだと思う。
「伝説、ですか?」
何のことか、と私が首を傾げればカメリアさまは楽しそうに笑った。
「ええ、そう。<食堂のテラスでスペシャルメニュウを食べさせ合うと、その相手と親しくなれる>という、あれよ。それに、パトリックと魔力授受もしたのでしょう?先にローズマリーがパトリックの風の魔力を受け取って、つい先日、パトリックがローズマリーの治癒の魔力を受け取ったと聞いたわ」
ふふふ、と美しい笑みを浮かべるカメリアさまだけれど、私は恥ずかしくて目を伏せてしまう。
いえ、すべて事実なのですけれど。
その、こうして話されると恥ずかしい、です。
「パトリックさまが、お話しなされたのですか?」
仲のいいご姉弟だから、と思っていると、カメリアさまがにやりと笑った。
「パトリックはね、昔からほんっとうにローズマリーが大好きで『風の魔力に憧れているローズマリーも可愛い。でもそれほどに憧れているのなら、俺の風の魔力をあげられないか』とか言って、書庫に籠り続けて、その忘れられた方法を見つけて、復活までさせちゃうくらいなの。それはもう、ローズマリーに引かれるレベルだと、わたくし危惧していたくらい。だから、なかなか会わせてもらえない貴女のことを知るためなら、どんな苦労も厭わないのだけれど、当然のように、その情報はなかなかわたくし達にはくれないの。自分だけで、大切に仕舞い込む感じよ。でも、わたくし達は聞きたくて。だから、いつもわたくしがパトリックの口を割らせるのよ」
「わら・・・」
お話の内容にも色々聞きたいことがあったけれど、何よりその言い方に驚いて私が固まっていると、カメリアさまが安心させるように私の目を覗き込む。
「ええそう。でも、いつだって惚気大会になるのだから大丈夫。今回だって『恥ずかしがりながらも、俺に食べさせ食べさせられるローズマリーは、永久保存ものだった』だの『俺のなかにもローズマリーの魔力が宿っていると思うと、自分を大切にしようと思える』だなんて、それはもう蕩けそうに凄かったわ。そんな風に堂々と惚気られるのですもの。パトリックにも利があるのよ」
嬉しそうに言いながら、カメリアさまが庭に咲く可憐な花に優しく手を触れた。
「ローズマリー。パトリックを幸せにしてくれてありがとう。これからも、よろしくね」
「わたくしこそ、パトリックさまのお傍にいられて幸せです。パトリックさまの隣に相応しい、と言われる存在になれるよう努力いたします」
きちんと礼をした私に、明るく微笑んでカメリアさまが頷いてくださったとき、不意に辺りが騒がしくなって、後方を歩いていた護衛の方が私たちとの距離を詰めた。
「何事かしら?」
カメリアさまが護衛の方に声を掛けると、一礼をしたその方が、私たちの前に出る。
「はい。表門にて不審人物を確認したようです。お嬢様方は、すぐお邸内にお戻りください」
「不審人物?このウェスト公爵家に正面から、しかもこの明るい時間に挑む猛者がいたということ?」
護衛の方の言葉に、カメリアさまが考え込むように指を顎に当てた。
「猛者、は、どうでしょうか。一見普通の女性のようですが」
護衛の方が、何か魔道具のようなものを操作しながら情報を伝達してくれる。
「普通の女性も、中身は充分猛者だったりするじゃない。もちろん、いい方の意味では言っていないわよ。ああ、ローズマリー。あれはね、警備に使っている通信魔道具なの。パトリックの発明なのよ。さ、表門へ行ってみましょう。大丈夫、何かありそうになっても、わたくしが護ってあげるわ」
珍しい魔道具をじっと見ていると、カメリアさまがそう説明してくれて、さっさと歩き出してしまい、私も慌てて付いて行く。
「お嬢様」
「ふふ。わたくしですもの。そう言い出すのは判っていたでしょう?この難攻不落のウェスト公爵家、しかも今日は家族全員揃っているなかに突入しようだなんて、余程腕に自信のある者か、余程の愚か者か、どちらかでしかないもの。確認しない手はないわ」
「はい、そう仰るだろうことは予測できておりました。自分も、お嬢様の強さは存じ上げております。しかし、護衛は自分なのでお任せください」
護衛の方も慣れているのか、それだけを言ってカメリアさまに従った。
「ふふ、強さ、ねえ。それは、わたくしが戦闘に於いて強い、ということかしら?それとも好奇心が、ということ?」
「もちろん、両方です」
主家の令嬢に対するには少し砕けた様子で、しかも失礼ともとれる内容を、当然のようにさらりと言い切る護衛の方に、カメリアさまも笑っている。
信頼なさっているのだわ。
その様子から、お互いに信頼をおいているのが良く判って、私は改めてカメリアさまを見た。
カメリアさまも、お強いと聞くものね。
その土地柄、当然のように自分たちも魔獣討伐に赴くという、ロータスさまとカメリアさま。
おふたりは、時には采配も振るうという。
私も、頑張らないと。
ロータスさま、カメリアさまも参戦なさるということは、嫁げば私も参戦するということ。
これまで魔獣討伐に参戦したことのない私は、身の引き締まる思いがした。
「え?」
そうして、急ぎ歩いて見えて来た門では、確かにひとが揉めている。
門を通り、敷地内へ入ろうとする人物を、数人がかりで止めているのを見た私は、思わず目を瞠った。
遠目でもはっきりと判る、その髪色には見覚えがありすぎる。
「凄く目立つ髪の色ね。あれほど強烈な桃色も珍し・・・あ、もしかしてあれが、激烈桃色迷惑女?」
「はい、そうで・・・と、あの、本名は」
どうして、激烈桃色さんがウェスト公爵家に?
思い、呆然としていた私は、カメリアさまの問いに頷いてしまい、慌てて訂正しようとしてカメリアさまに止められる。
「知っているわ。マークル家の娘なのでしょう?でもね、ローズマリーを困らせて、嫌がるパトリックを追い掛け回している人間なんて、激烈桃色迷惑女呼びで充分よ」
カメリアさまは、憤ったようにそう言って、更に門へと近づいて行く。
「あーっ、カメリア!なんであんたがここに居んのよ!」
そのカメリアさまの姿を認めた激烈桃色さんが、指をさして叫んだ。
「お嬢様になんてことを!」
途端、門の警備の方々に取り押さえられながらも、激烈桃色さんは藻掻いてこちらへ走って来ようとする。
「なんで、って。ここは、わたくしの家なのだけれど。聞きしに勝る傍若無人さね。名乗られてもいないうえ、初対面でいきなり呼び捨てにされるなんて、初めてだわ」
カメリアさまが、眉を顰めて私を見た。
「はい。それは、わたくしも驚きました」
初対面の時の驚きを思い出しつつ言えば、カメリアさまが労わるように、そっと私の髪を撫でてくれる。
「男爵家から公爵家へ堂々と声をかける、というだけでも驚きなのに。邸にまで押しかけて初対面で呼び捨てにするなんて、本当に聞きしに勝る状態なのね」
「ちょっとローズマリー!パトリックがあたしに夢中になったからって、カメリアに泣き付くとか卑怯よ!」
その間にも、激烈桃色さんは喚き叫び、藻掻き続けて警備の方に殴りかかってさえいた。
激烈桃色さんが女性だからだろう、激烈桃色さんを取り押さえているのは、皆さん女性の方だけれど、それでも警備の方に叶うはずもなく、その拳が当たることは無くて私はほっとしてしまう。
「しかも、パトリックが自分に夢中になったとか凄い妄言を口にしているし。あれって、パトリックが夢中なのはローズマリーだ、という現実さえ見えていないということでしょう?本当に心配だわ。ねえ、ローズマリー。パトリックは、あの激烈桃色迷惑女から、ちゃんと貴女を護ってくれている?」
激烈桃色さんの余りの激しさ、異様さに驚いた様子で、カメリアさまが心配そうに私の手を握った。
「はい。いつも、パトリックさまに助けていただいて。お世話になってしまっています」
「本当に?」
「本当です。わたくしの為に、凄い魔道具まで創ってくださって」
「ああ、焼却炉に取り付けていた、というあれね。まあ、パトリックは子どもの頃からローズマリー一筋でローズマリー命だから、心配ないとは思うけれど。ちゃんと、心も護ってくれている?」
「はい。心こそ、いつも傍にいてくださって。本当に心強く思っています」
パトリックさまが傍にいてくれる、寄り添ってくれる幸せを噛み締めながら言えば、カメリアさまが、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ふふ。ごちそうさま」
言われ、優しく頬をつつかれて、私は自分の表情に恋愛脳が投影されていた事実を危惧した。
「え?あの」
「ローズマリーの顔に、パトリックに愛されて幸せ、って書いてあったわ」
そしてそれが現実であったと知って、撃沈する。
「うう、すみません」
「いいじゃない、幸せそうでわたくしも嬉しいわ。本当にパトリックの一方通行ではない、と実感できるもの」
ね、とカメリアさまが目配せすれば、護衛の方も何故か幸せそうに微笑み頷いていて、私は益々居たたまれない気持ちになった。
「ちょっと!いい加減放しなさいよ!あたしはパトリックの恋人なのよ!あんたたちの主人になるんだから!こんなの許されないのよ!ねえ!無視しないで聞きなさいよ!」
激烈桃色さんは、その両手と両足を何かで拘束され、動けない様子で、転がりながらひたすらに叫んでいる。
「大丈夫か!?ローズマリー!姉上も!」
そのとき、私たちのすぐ近くが淡く光って、焦った様子のパトリックさまが転移していらした。
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