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婚約者と<食べさせ合いっこ>なのです。








 「ほら、ローズマリー。この海老、凄く美味しそうだよ」


 「はい。本当にとてもおいしそうです」


 森を泳いでいるような海老、というのはおかしい気もするけれど、本当にそのように見える海老は、とても楽し気でおいしそうだった。




 なるほど。


 それで、踊る、なのでしょうか。




 「でも、海老は魚じゃない気がするけれどね。まあ、貝もあるし、魚介、ってことなのかな。ということで、ローズマリー、あーんして」


 「いえ、あの。何がどうして”ということ”で”あーん”になるのか判らないのですが。それに、その、あーん、というのは」


 流石にこの場所でその食べ方は、と断ろうとすると、パトリックさまがにっこりと笑った。


 「ローズマリーは、僕だけが好きなんだよね。僕も、ローズマリーだけが好きだ。だったら、お互いに食べさせ合いをするものなんだよ」


 


 え?


 確かに私はパトリックさまだけが好き、で、パトリックさまも私を好き、だと言ってくださるけれど。


 そうしたら、そういうこと、になるのかしら?




 「だからまず、僕から。ほらローズマリー、あーん」


 楽しそうなパトリックさまに、フォークごと、ぷりぷりと見事な海老を差し出され、私は引き寄せられるように身を乗り出した。


 「おいしいです!」


 そして、その海老のおいしさに感激する。


 「そんなに?」


 「はい!パトリックさまも、是非!」


 海老のおいしさに感激し高揚した私は、パトリックさまに望まれるまま、今度は私がパトリックさまに海老を差し出す。


 「ほんとだ、美味しい。それに、ローズマリーが食べさせてくれたから、いっそう」


 すると、パトリックさまはそう言って本当に幸せそうに笑った。


 「ふふ。同じ海老ですよ」


 「あれ。ローズマリーは、僕が食べさせても自分で食べても、同じ味にしか感じてくれないの?」


 「それは」


 「ほら、試してごらん」


 拗ねたように言うパトリックさまも可愛い、と見惚れていた私は、再び差し出されたフォークをまた口に含んでしまう。




 パトリックさま、あざと可愛すぎます!


 断れません!




 「僕は、ローズマリーが食べさせてくれた方が、より美味しく感じるよ。今度はそのステーキがいいな。特別な炭で焼いているそうだよ」


 試す、ということなら、自分でも食べてみる必要があるのでは?と思いつつ、私はパトリックさまに言われるまま、結局全種類の料理をひと口ずつ食べさせ合ってしまった。


 「ふふ、照れるローズマリーも可愛い。もっと堪能していたいけれど、もう自由に食べていいよ。僕の願いを、叶えてくれてありがとう」


 そろそろ羞恥の極致を越えて、食べさせ合うのを普通に感じ始めてしまいそうになる頃、パトリックさまがそう言って殊更に優しい笑みを浮かべた。


 「パトリックさまの願い、ですか?」


 食べさせ合う、というのなら以前にも、と思っていると、パトリックさまがゆっくりとテラスを見回してから、テーブルの上のスペシャルメニュウに視線を戻す。


 「このテラスで、スペシャルメニュウをふたりだけのテーブルで一緒に食べ、皿に盛られている全ての料理をひと口ずつ食べさせ合うと、そのふたりの仲は深まる、と言われているそうなんだ」


 そして、感慨深そうにそう言った。


 パトリックさまに集中していて気づかなかったけれど、周りを見てみれば確かに皆さん楽しそうに、恥ずかしそうに食べさせ合っている。


 「それでマークルさんは、パトリックさまとご一緒したかったのですね」


 「僕は、ローズマリーとがいい」


 私が納得して頷くと、パトリックさまが不満そうに眉を寄せる。


 「わたくしも、パトリックさまとがいいです。それに、スペシャルメニュウでなくとも、こうして食べさせ合うのは、親しい証拠ですよね。なかでも、特に慕わしく思っている方、というか」


 少なくとも私は、パトリックさま以外の方と、このような食べ方をしようともしたいとも思わない。


 「親しい証拠。そうだよね。親しくなかったら、こんなことしないよね。それに、慕わしく思っている、って。ああ、ローズマリー。ローズマリーは、僕を幸せにする天才だよ」


 パトリックさまはそう言って笑うけれど、私にしてみれば、パトリックさまの方こそは私を幸せにする天才だと思う。


 「同じ言葉を、お返しします」


 何となく照れてしまって言葉にできず、そんな返ししかできない私に、パトリックさまは嬉しそうに頷いてくれた。


 「そうありたいと願うよ。ああ。それにしても、ローズマリーの笑顔と言葉は罪でもあるよね。なんでも許してしまいたくなる。さっきの騎士団の見学のこととか」


 パトリックさまの言葉に、私はじっとパトリックさまの目を見つめる。


 「行きたいです」


 そして、短く強く心を籠めて言えば、パトリックさまが食事の手を止め、私を見つめ返して来た。


 「浮気しない、僕以外に目も気も惹かれない、と約束出来るなら、いいよ」


 「もちろん、お約束します。あ、でも普通に他の方の訓練されているところは見てもいいのですよね?」


 訓練中なので、当然他の方もいらっしゃる、と不安になって言えば、パトリックさまが苦い笑みを浮かべる。


 「まあ、それは仕方が無いよね。うちの騎士団、ということは将来的にはローズマリーも深く関わる存在な訳だし」


呟くように言ったパトリックさまに、私ははっとした。


 パトリックさまの格好いい姿が見たい、などと軽い気持ちで強請ってしまったけれど、私の立場はパトリックさまの婚約者。


 となれば、騎士団の方々にしてみれば、私は将来剣を捧げる存在、ということで。


 「皆さまに、パトリックさまに相応しくない、などと言われないようにします」


 騎士団の方々が、剣を捧げるに値する、と思ってくださるような行動をしなければ、と私は肝に銘じた。


 「そんなに気合を入れなくとも、ローズマリーなら自然体で大丈夫だよ。それで見学場所なのだけれど、領都の騎士団本部はどうかと思って。実は、夏季休暇にローズマリーをうちの領地へ誘う計画が進行中なんだ。それで、王都駐在の騎士団でもいいけれど、もう夏季休暇も近いことだし、一緒にうちの領都へ行ったときに騎士団も見学すればいいかな、と」


 パトリックさまに言われ、私は理解が追いつかず目を瞬いてしまう。


 「ええと、それは、夏季休暇にウェスト公領へわたくしも行く、ということですか?」


 「うん。うちの家族にはもう了承をもらっていて、今ポーレット侯爵に交渉中なんだ。ほら、前に長期休暇には一緒に馬に乗ろう、と言っていただろう?それって休暇を一緒に過ごすということだし、いいかと思って聞かなかったのだけれど、うちの領地だと別?ローズマリーは嫌だったりする?」


 悪戯っぽく聞くパトリックさまは、サプライズが成功した、という様子で、私が嫌だと言うとは思っていないようだけれど、少し不安そうでもあって。


 「嫌ではありません。緊張はしますが」


 言った私の言葉に、深く安堵したようだった。


 「良かった。勝手に計画していてごめんね」


 「いいえ。わたくしも行ってみたいと思っていましたから」


 ウェスト公領。


 そこは、やがて私が嫁ぐ場所。


 思えば、更に緊張してしまうけれど。


 「大丈夫。領都の邸のみんなも、ローズマリーに会えるのを楽しみにしているから、何も心配はいらないよ。むしろ、みんなローズマリーを好きになるだろうし、君と一緒にいたがる母上と姉上も居るけれど、僕を一番優先する、と誓っておいてほしいくらいだ」


 パトリックさまが、おどけたようにそう言ってくれたので、少し肩の力が抜けた。


 「ご領地には、皆さまどうやっていらっしゃるのですか?」


 通常、領地への移動は馬車や馬を使うけれど、転移の天才パトリックさまがいらっしゃるので、もしかしたら、と思い聞いてみる。


 「途中までは転移で、領都に入るあたりから馬車かな。といっても流石に一気に転移はできないから、何度かに分けるけれど。ああ、そうだ。途中、どこか寄りたい所があったら、言って、行くから。それに、空間倉庫もあるから、ローズマリーの荷物も一緒に預かるよ」


 すると、とても普通の移動では有り得ない答えがあった。


 何度かに分ける、とはいえ転移なので人が乗る馬車も馬も要らないうえに、空間倉庫という最強の魔道具があるため、荷物を運ぶための馬車さえも要らない。


 「ありがとう、ございます。なんだか、凄いです。わたくしが知っている移動とは、何もかも違って」


 一体何をどう用意したらいいのか、荷造りは通常通りでいいのか。


 迷う私の心が見えたかのように、パトリックさまはにっこりと笑って言った。


 「荷造り、迷うようなら、ローズマリーのクローゼットごとでもいいよ」




 パトリックさま。


 それは最早、荷造りとは言いません。


   


 


 


 





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