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もこもこ、あわあわ、大作戦?なのです。







 「なかなか、落ちないな」


 「油、すごいですね」


 浴室へ場所を移し、大きな桶に魔法で湯を張ってテオとクリアを入れると、パトリックさまはまず私に洗浄の魔法をかけてくれた。


 そのことにお礼を言ってから、私とパトリックさまはテオとクリアをそれぞれ液状の石鹸で洗い始めたのだけれど、これがなかなか頑固で落ちない。


 というか、恐らく汚れすぎていて泡さえ最初はなかなか立たなかった。


 「油を塗り込んで馴染ませてからの方がいいのか?いやでもな・・・っと!ちょっと待て!暴れるな!」


 「くうん!」


 そして、テオとクリアはといえば、洗ってくれているパトリックさまの手を逃れて、私へと擦り寄って来てしまう。


 「わわっ!ちょっと待って!」


 その様子はとても可愛いけれど、二匹一緒には洗えない。


 困っている私の現状に気づかず嬉しそうに絡みつく二匹の目を、パトリックさまが覗き込んだ。


 「判った!ここからも何度か洗うから、ローズマリーにも順番に洗ってもらえばいいだろう?二匹一緒には無理なんだから、片方はおとなしく俺に洗われろ!順番だ、順番!」


 「くうん!」


 「くうん!」


 パトリックさまが断言すると、テオもクリアも納得したように可愛く鳴いた。


 「よし、いい子だ」


 落ち着いた二匹を私とパトリックさまで片方ずつ抱いて、もこもこの泡だらけにして、わしゃわしゃと洗って、それを丁寧にすすいで、を幾度も繰り返す。


 そのなかで、パトリックさまと、テオとクリアを交換していく。


 「テオ、クリア。気持ちいい?」


 「くうん!」


 「くうん!」


 問えば、二匹とも幸せそうにしっぽを振ってくれる。


 「テオ?クリア?こいつらの名前か?」


 当たり前のように名前を呼んでしまってから、私はまだパトリックさまにテオとクリアをきちんと紹介していなかったと気づいた。


 「すみません、パトリックさま。まだきちんとご挨拶していませんでしたね。こちらの、淡い蒼の美しい瞳の持ち主がテオ、淡い翠の美しい瞳の持ち主がクリアです」


 「くうん」


 「くうん」


 身体から洗い始めた関係で、まだ片方の瞳は閉ざされたままだけれど、テオとクリアの美しい瞳は片方でも判る、と私はパトリックさまに二匹の瞳がよりよく見えるように抱いた。


 「淡い蒼と、淡い翠の瞳」


 「パトリックさま?」


 考えるように言って、思案する表情になったパトリックさまを、不安に思って声をかければ。


 「よし、テオ。目がちゃんと見えるようにしような!ローズマリーはクリアを頼む!」


 それを振り切るようにパトリックさまが言って、テオの顔を丁寧に洗い始めた。


 「怖くないからな。目、瞑ってろよ・・・って、判るのか?話、通じているみたいな反応だな」


 パトリックさまの指示にこくりと頷き、大人しく目を閉じて顔を差し出すテオを驚いたように見つめ、パトリックさまはテオの顔をちょんとつつく。


 「テオもクリアも、お話しできるのですよ」


 テオと同じように目を閉じたクリアの顔をそうっと洗いながら言えば、パトリックさまが驚愕の瞳を私に向けた。


 「話が、出来る?」


 「不思議ですよね。でも本当なのです。なんと言えばいいのか。テオとクリアは、二種類の声を持っているのです。耳から聞こえる声と、直接脳に届く声と。あら?でも、あの。パトリックさまにも聞こえているのではないのですか?」


 「・・・・・」


 先ほどからお話ししているようだったけれど、と思いながら言っても、パトリックさまは呆然と黙ったまま。


 そこで私は、自室へ戻ってからここまでの会話を思い出してみる。


 「確実にテオとクリアが話をしたのは、ええと・・・そうです、戻ってすぐ、パトリックさまに抱き・・・いえあの、ぎゅっ、とされたときに会話しているのですが」


 パトリックさまに抱き締められたとき、間に挟まった二匹とした会話を思い出すも、私はパトリックさまに”抱き締められた”という言葉を音に出来ず、何だかとっても恥ずかしい気持ちになった。




 大事なのは、そこではなくて。


 『へいきだよ!』


 『だいじょうぶだよ!』


 と、テオとクリアが言ったこと、なのに。




 それでも、恥ずかしいものは恥ずかしい、と思いつつ、もう、恥ずかしいと思うこと、それ自体が恥ずかしくて、私は、クリアを洗うことに専念している風を必死に装う。


 「ローズマリー。俺に”抱き締められた”って言うの、そんなに恥ずかしい?」


 「きゃわんっ!」


 そんな私の耳に囁くパトリックさま。


 わざと掠れさせたような、甘く低めなその声に、私は瞬時に発火した。


 「ローズマリー、可愛い」


 言いつつ私を抱き寄せようとしたパトリックさまだけれど、流石に泡だらけの水浸し状態では無理だと思ったのか、残念そうに自分の両手を見ている。


 「からかわないでください」


 パトリックさまに抱き寄せられない。


 その現状に、ほっとしたような残念なような複雑な思いを抱きつつ言えば。


 「からかってなんていない」


 いつもの答えが即座に返った。


 「ねえ、ローズマリー。ローズマリーは、俺に抱き寄せられたりするの、嫌?」


 そして続けて言われた言葉に、私は驚いてパトリックさまを見つめてしまう。


 「嫌なはずありません」


 「そっか。良かった」


 すると、パトリックさまは心底安心した様子で、私の額に唇を落とした。


 「っ!」


 「抱き寄せられない代わり。後で、存分に抱き締めさせてね」


 そして当然のように言われた言葉に、私は口をぱくぱくさせてしまう。


 「くうん」


 「くうん」


 何だかんだ放置してしまったからだろう。


 テオとクリアが私の膝に擦り寄って来た。


 「ごめんね!洗っている途中に失礼だよね!」


 しかも顔を洗っていたのに、と私は慌てて手を動かして泡を丁寧に流す。


 「で、話は戻るんだけど。俺がローズマリーを抱き締めたとき、確かにローズマリーはこいつらを気遣っていたよね。でも、会話していたのは知らなかったよ」


 同じようにテオの泡を洗い流しながら、思い出すようにパトリックさまが言った。


 「え?テオもクリアもお返事してくれていましたよね?『へいきだよ!』『だいじょうぶだよ!』と」


 不思議な気持ちで言っても、パトリックさまは首を横に振るばかり。


 「今ここで、ちょっと何か会話してみてくれる?」


 そしてされた提案に、私も大きく頷いた。


 「そうですね。あのときは、色々混乱していましたし」


 探していた人間が突然、擦り傷だらけの泥だらけで現れたのだ。


 そちらに集中して、会話が聞こえていなかったとしても不思議はない。


 「テオ、クリア。何かお話ししたいのだけれど、いい?」


 『うん、いいよ!』


 『もちろん、いいよ!』


 意を汲んだように脳内に直接答えてくれた二匹の返事を聞き、パトリックさまをちらりと見るも、何も反応は無いので、もう少し話ししてみることにする。


 「テオ、クリア。もう判っていると思うけれど、こちらがパトリックさまよ。パトリックさま、って呼んでみて?」


 『パトリックさま!ローズマリーは、パトリックさまをいちばんすきなんだって!』


 『パトリックさま!ローズマリーをいちばんすきなのは、パトリックさまなんだよね!』


 「なっ!」


 パトリックさまをしっかりと見つめ言うテオとクリア。


 その話の内容に、私は焦って二匹を抱きあげた。


 「なに?ローズマリー。もしかして今、こいつらが何か言ったのか?」


 「えっと、あの、その!!」


 『ローズマリー、どうしたの?』


 『ローズマリー、まっかだよ?』


 「ああああの、その!」


 慌てる私にテオとクリアが心配そうな瞳を向け、パトリックさまは意地悪そうに口の端をあげた。


 「ふうん。ローズマリーが真っ赤になるようなこと、をこいつらが言った訳か。俺という婚約者の目の前で、何を言われたらそんなに真っ赤になるのかな?」


 「そ、それは」


 「俺には言えないこと?」


 ずい、と顔を近づけられて、私は思わずテオとクリアをパトリックさまに差し出すようにして、防波堤代わりにしてしまう。


 「い、今、テオとクリアは、わ、私が一番好きなのはパトリックさまで、パトリックさまが一番好きなのは私だと!言ったのです!じ、実は、も、森を抜け出すきっかけになったのも、その!パトリックさまのお名前だったのです!テオとクリアに私の一番好きなひとで、私を一番好きなひとの名前を呼ぶように言われまして!で、私がパトリックさまの名前を呼びましたら胸ポケットが光って道が出来まして!その道を歩いていたらパトリックさまに辿り着いたのです!ありがとうございますなのです!でもあの、パトリックさまの一番は判らないのに勝手に言ってしまい、申し訳ないですっ!」


 ひれ伏す勢いで私が言えば、パトリックさまが殊更苦い顔になった。


 「謝る必要は微塵も無いよ。俺の一番好きなひとはローズマリーで間違いないんだから。むしろ、判らないのに言ってしまった、とローズマリーに言われる方が嫌だから。ねえ、ローズマリー。そのことを忘れないで」


 にっこり笑っているのに笑っていない笑顔で言ったパトリックさまに、私はこくこくと頷くことしか出来ない。




 何でしょう。


 この迫力。


 氷の帝王の勢い?


 って、それは何の勢いなのかは不明ですが。




 「そうやって、必死に頷くローズマリーも可愛い」


 動揺しまくりの私に対し、パトリックさまは余裕の、蕩けるような瞳で私を見つめている。


 その目だけでも、瀕死だったのに。


 『パトリックさまは、ほんとうにローズマリーがすきなんだね』


 『ローズマリーも、ほんとうにパトリックさまをすきなんだね』


 くりくりとした瞳で邪気無く言うテオとクリアに、私はとどめをさされて撃沈した。


 「うん。また何か言われたんだな、ってことはよく判るよ、ローズマリー。でも、俺には聞こえない」


 「え?聞こえない?」


 テオとクリアは、きちんと話をしている。


 けれど、それがパトリックさまには聞こえないという。


 「うん。恐らく、この二匹と会話が出来るのはローズマリー、君だけだ」


 パトリックさまの言葉に、私はパトリックさまを見つめた。


 「でも先ほど、パトリックさまはテオもクリアも言っていることが判るようだ、と・・・あ!」


 「そう。判るようだ、と感じるだけで、聞こえている訳ではないんだ。でも、この二匹は俺の言っていることを理解しているとは思う」


 気づいた私を褒めるように微笑んで、パトリックさまはテオとクリアを見つめた。


 「ねえ、テオ、クリア。パトリックさまが言っていることは判る?」


 そんなパトリックさまの疑問を解決すべく、私はテオとクリアに問いかける。


 『うん、わかるよ!』


 『ちゃんと、おへんじできるよ!』


 テオとクリアの返事を聞き、私はパトリックさまへと視線を移す。


 「テオもクリアも、パトリックさまが何を言っているのか理解できるそうです」


 「うん。さっきからそんな感じはしていた。けれど、俺に二匹の言葉は判らない。つまり、一方通行だな。ね、ローズマリー。この二匹に名前を付けたのは君?」


 「はい、そうです」


 難しい声になったパトリックさまに緊張しつつ、私が答えれば。


 「ローズマリー。ここまでの経緯を詳しく説明して欲しい」


 パトリックさまは、何故か浴室全体に遮断の魔法をかけ、改めて私へと向き直った。









ブクマ、評価ありがとうございます。

とても嬉しく励みになります。

読んでくださってありがとうございます。

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