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側面のお話 <風魔法授受> パトリック視点







 『それで。その日、そのまま、湖で釣り、しない?』


 ローズマリーにそう提案したとき、俺は柄にもなく緊張していた。


 ”釣り”。


 その俺の趣味を、ローズマリーはどう捉えるだろうか。


 ローズマリーのことだから、余り貴族的でないこの趣味も悪く言ったりはしないだろう。


 それでも、一緒に行く、となると話は別だろうと思う。


  


 少しでも嫌悪するようなら、すぐに撤回して。




 そう思う俺の前で、ローズマリーは何だか凄く嬉しそうな表情になり、それから何故か口元を引き締めて、自分はできないけれどそれでよければ、と言ってくれた。


 


 ローズマリーと一緒に釣りに行ける。


 


 思うと俺は嬉しくて、更なる願いを口にした。


 『軽食ですか?それなら、サンドイッチか何か用意しましょうか?』


 すると、その願いも当然のように叶えてくれると言い、敷物も用意しようと言って、本当に楽しみだと笑ってくれた。


 


 可愛い。




 いつも思うことだけれど、ローズマリーは可愛い。


 容姿ももちろん、くるくる変わる色んな表情が本当に可愛い。


 この笑顔が曇ることなど無いように。




 この笑顔は俺が守る。


 


 俺は、改めてそう誓った。










 約束当日。


 俺がローズマリーを迎えに行くと、コットン生地のワンピースに身を包んだローズマリーが既に待っていた。


 白地に青いラインの入った、飾り気の無いコットン生地のワンピースはいつもと雰囲気が違うけれど、とても似合っていて可愛い。


 それに、その襟元に付いている、俺のタイピンと対のブローチ。


 それが俺を更なる幸せな気持ちへと導いた。


「可愛いよ、ローズマリー。よく似合っている」


 こんなにシンプルなワンピース、しかもコットン生地の物など着慣れないからだろう。


 しきりに気にしている様子のローズマリーに言えば、更に恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。


 そしてそこから場所を移し、今日の第一の目的である、風魔法の取得を行う。


 魔法核の話をしたとき、ローズマリーは不思議そうな顔をしていたけれど、それも無理はない。


 今回ローズマリーに施す術は、俺が古書を漁って漸く見つけ出したもの。


 子どもの頃から、周りのひとが使う風魔法、特に連絡蝶を羨ましそうに見つめていたローズマリーを笑顔にしたくて、俺はその方法を探した。


 そして、とうとう見つけたのだ。


 俺の風魔法をローズマリーに授受する方法を。


 それは、俺の魔力や精度はもちろん、ローズマリーの魔力と精度も必要なうえ、俺たちの相性も絡んでくる、とてつもなく難しく厄介なものだったが、実際にローズマリーを見つめていて、俺はこの方法が可能だと確信した。


 俺もローズマリーも、実力的には元より何も問題は無い。


 そして。


 


 ローズマリーが、俺の魔力に見惚れている。


 そして俺も、ローズマリーの魔力に魅せられている。




 そう実感したときの喜びを、どう表現したらいいのだろう。


 俺は、ローズマリーが好きだ。


 それは何があっても変わらない。


 だが、魔力の相性というものは、好悪の感情とは別だと書いてあったし、俺も実際にそう感じることがあったから、かなり不安でもあった。


 けれど、そんな心配は杞憂に終わった。


 俺は、どうしようもなくローズマリーの魔力に魅入ってしまったし、ローズマリーも俺の魔力を見惚れるほどに好ましく感じてくれた。


 それが顕著になった<虹色のトマト争奪戦>では、ローズマリーが俺ではない男を護っていたのがとてもとても不満だったが、俺ではない男をキングとして立て、護る最強のクイーンが俺の魔法に見惚れる、というのは優越を覚えるものだった。


 「それでは、これより風魔法の取得を行いたいと思います」


 「よろしくお願いします」


 冗談で言った俺の言葉に、ローズマリーが真剣に答える。


 「ああ。今のは冗談だから、そんなに緊張しなくていいよ、ローズマリー」


 強張る顔を見て、緊張を解くつもりが余計に緊張させてしまったのだと悟り、俺は失敗した、と反省する。


 「パトリックさま?」


 「ローズマリー。身体の力を抜いて、俺を信じて、俺だけを感じて」


 魔法の授受。


 それにはまず、相手と呼吸を合わせることが大切。


 けれどそれは心配するまでもなく、ローズマリーはすぐに俺の呼吸に合わせてくれた。




 ローズマリー。




 それは、ローズマリーの俺への信頼の現れのようで、俺の心が喜び踊る。


 「うん、そう。上手だよ」


 次に俺は自分の両手を重ね、ローズマリーの魔法核へと近づけた。


 「力、抜いて。大丈夫。怖いことも、君が嫌がることもしない」


 その場所が場所だからだろう、ローズマリーの身体が緊張で強張る。


 常ならば、俺も不埒な気持ちを持ったかもしれない。


 だが流石に、今、そんな余裕は無い。


 ただ一心に、ローズマリーの魔法核を感じる。


 「はい。パトリックさま」


 俺を見あげるローズマリーの瞳に俺への信頼が見え、身体の緊張が解けていく。


 それが、とても嬉しい。


 「そう、上手だよ。そのまま、俺の魔力を感じて」


 そっと伝え、俺は、俺のなかの風魔法の要素をローズマリーの魔法核へと流していく。




 拒絶は、無いな。




 瞳を閉じ、俺の魔力を受け入れるローズマリー。


 俺の魔力という、ローズマリーにとっては異分子を素直に受け取り、更に自分のなかへ躊躇いなく融合させていくのを感じて、俺は気持ちが高揚するのを抑えられない。


 「ローズマリー」


 やがて、俺の風の魔力が、ローズマリーのなかで完全に定着する。


 


 完璧だ。




 「ローズマリーは、本当に最高だね。俺の力を、迷うことなく受け入れてくれた。完璧だよ」


 高揚する気持ちのまま、それでも何とか柔らかくローズマリーを抱き寄せれば、ローズマリーが嬉しそうに瞳を輝かせて俺を見あげてくる。


 「とても、温かくて優しい力でした。まるで、穏やかな風と戯れる若葉のような」


 俺の風の魔力をそんな風に評してくれるのも嬉しくて、俺は頬が緩みっぱなしになってしまう。


 「ありがとう。俺の魔力を、そんな風に感じてくれて」


 「お礼を言うのは私の方です。これほどに素敵な魔力を授けてくださって、ありがとうございます。あ、今のは師匠ともいうべきパトリックさまへの感謝の言葉なので、『くださって』でいいと思います」


 俺が、すぐに『加算』と言いがちだからだろうローズマリーの言い様が可愛くて、俺は心のままローズマリーの頬をつつき、抱き寄せた身体を揺らした。


 温かくて、優しくて、穏やかな、ローズマリーと過ごす至福の時間。


 「あの。連絡蝶も、飛ばせるようになりましたか?」


 おずおずと、けれど期待に満ちた目で問いかけるローズマリー。


 「そうだね。まだ難しいかもしれないけれど、やってみようか」


 連絡蝶は、言ってみれば己の思念を風魔法で具現化するもの。


 つまりは、己の思念と風魔法の融合体だ。


 ローズマリーの実力があれば、やがては出現させ、飛ばせるようになるのは確実だが、今すぐにというのはどうだろう、と思いつつ、俺は、俺の連絡蝶を出現させた。


 俺の連絡蝶は、濁りのない紅を基調とし、そこに茶の模様を散らしてある。


 言うまでもなく、ローズマリーの髪色と瞳の色をイメージした、美しい蝶。


 その蝶を見れば、何か感じる所があるかと思ったローズマリーだが、まさか自分をイメージしているとは思わないのか、ただ、きれいだと言ってくれる。


 そして、俺の真似をして集中していたローズマリーも、美しい若葉色の蝶を出現させた。


 俺は、その能力の高さに酔い痴れる。


 「連絡蝶は、魔力に応じて自分で模様や色を変えられるよ。流石に、今は未だ難しいと思うけど、ローズマリーなら絶対出来るようになる」


 俺のように、とは内心だけで付け加える俺の前で、ローズマリーが嬉しそうに自分の連絡蝶を見つめている。


 「私の連絡蝶は、ずっとこの色にします。だって、パトリックさまが私に授けてくださった、パトリックさまの風魔法の色だから」




 ローズマリーは、どんな色の連絡蝶にするのだろう。




 そう思っていた俺の耳に飛び込んで来た言葉と、俺を見つめる笑顔の破壊力。




 ローズマリーは、俺の限界を試している。


 


 思わずにいられない状況で懸命に理性を動員し、動悸を収める俺を気遣うローズマリーも可愛い。


 


 今、しかない。




 「ローズマリー」


 俺は思い切って、今日用意して来た金細工の指輪を取り出した。




 嫌がられたら、絶望する。




 そんな不安を隠して、ローズマリーに向き直る。 


「これを、ローズマリーに。風魔法が使えるようになった記念と、それから、俺とローズマリーの、初めてのふたりだけでの外出を記念して」


 見た目、普通の金細工の指輪。


 宝石も魔鉱石も、魔石も付いていないシンプルなものだけれど、透かし模様だけは凝っている。


 実はこの透かし模様、すべて魔術式となっていて、ローズマリーが何か危険にさらされたとき、俺に伝わるようになっている。


 他にも、何ていうかまあ、色々。


 もちろん、ローズマリーにはそんな事は伝えないのだが。


 「いい?」


 そっと手を取りローズマリーに尋ねれば、迷わず頷いてくれる。


 それがとても嬉しくて、俺はローズマリーの、俺よりずっと小さな手を愛しく見つめ、その指に指輪を大切に嵌めた。


 「できるなら、ずっと着けていて欲しい」


 「はい、パトリックさま」


 ローズマリーの安全確保のためにも、と気持ちを籠めて言えば、ローズマリーはこれも素直に了承してくれた。


 「お風呂のときや寝るときは、外していいからね」


 素直なローズマリーが可愛くて、少し砕けた調子でからかうように言うと、ローズマリーは真剣な顔で、『わかりました』と言った。




 ん?


 今のはからかい返し?


 それとも、風呂も寝るときも、本当にずっと着けていようと思ってくれていた?




 思う俺の心知らず。


 ローズマリーは、幸せそうに俺の隣を歩いている。


 特に、先の言葉に対しての表情も、追加の言葉も無い。




 どっちだ?




 俺はまたも、木乃伊取りが木乃伊状態になったらしい、と視線を動かせば、そこには陽の光に煌めく木々があった。


 ここに来るのは初めてではない。


 ローズマリーに風魔法を授受するにあたって、俺は相応しい場所を探し、ここに辿り着いた。


 故に空気の清涼さは抜群なのだが、それにしても、以前見たときよりも景色がきらきらして見える。


 どうしてだろう、と探るまでもなく、原因は明確。




 ローズマリーが居るから。




 「ローズマリーと居ると、景色がいつもよりきれいに見える」


 思わず口から出てしまった言葉。


 はっとして口を噤んでももう遅い。


 今の言葉は音となり、しっかりローズマリーに届いてしまった。


 「私も、パトリックさまと居ると足元まで輝いて見える、と思っていました」


 気障が過ぎる、気色悪い、と思われたら立ち直れない、と思う俺に、ローズマリーは恥ずかしそうにそう言った。


 ふたりとも、同じ気持ち。


 それがとても嬉しくて、でもとても恥ずかしくて、俺たちは照れ合いながら手を握り合ってしまった。


 「ローズマリー」


 「パトリックさま」


 見つめ合い、少しずつ近づく距離。




 ローズマリー。


 可愛い。


 俺の。


 大切なひと。




 その瞬間、俺の世界はローズマリーがすべてだった。


 ローズマリーだけを見つめ、ローズマリーだけを感じる。


 俺にとって、至福の世界。


 「パトリック!ここにいたのね!もうすっごく探したんだから!」




 激烈桃色迷惑女。


 その世界を崩壊させた罪、その身でしかと償ってもらおうか。




 




 

ブクマ、評価ありがとうございます。

とても嬉しく、励みになります。

読んでくださってありがとうございます。

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