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婚約者の悩む理由が、予想外すぎました。








 「おいしいです!」


 焼きあがった魚を渡され、その食欲をそそる匂いを胸いっぱいに吸い込んだ私は、パトリックさまに言われた通り、ぱくっ、と思い切りよくかぶり付いてみた。


 そして、口に溢れたおいしさに感動してパトリックさまを見つめてしまう。


 『熱いから気をつけて』


 パトリックさまは、そこも心配してくれていたけれど、特段問題は無かった。


 手で握る辺りの金串は、パトリックさまが魔法で火傷しないように細工してくれていたみたいだし、焼き立ての魚は当然のように熱々だったけれど、それもおいしさのうちだと思う。


 「パトリックさま、こういうの、すっごく楽しいです」


 それにすっごくおいしいです、とはふはふ魚を食べながら言えば、パトリックさまが安心したように笑った。


 「うん。本当においしそうに食べてくれてよかった。安心したよ」


 「はい!本当においしいですから」


 皮はぱりぱりだし、身はふっくらしているし、塩加減も最高。




 パトリックさま、本当になんでも出来るんですね。




 感心しつつも、魚を食べ続ける。


 こんなに夢中で食べてしまって、パトリックさまに呆れられてしまったかも、と思うほど、私はぱくぱくと焼き魚を完食してしまった。 




 ああ。


 それにしても、”あれ”。




 パトリックさまも、そろそろ魚を食べ終えそうだ、と私はパトリックさまのコップに飲み物を追加しようと、何がいいか聞こうとして、視界に入ったそれからそっと目を逸らした。


 私が視線を逸らした場所。


 そこには、空になり蓋を締めたバスケットがある。


 それだけならごく普通の光景だけれど、そのバスケットにはきれいな布が掛けられていて、そこに”それ”が、それはそれは大切に置かれているのだ。


 そう、”それ”。


 ホットビスケットが。


 一度包を開かれたホットビスケットは再びきれいに包まれ、何か神聖なものが祀られているかのように、その場に鎮座ましましている。


 余りのことに私は止めようとしたけれど、パトリックさまはにこにこ笑いながらすべて整え、満足そうに見つめていた。


 今も、度々視線を動かしてはホットビスケットを見、嬉しそうに口をほころばせている。


 そんな嬉しそうな表情を見てしまえば、それ以上止めることも出来ず、けれど恥ずかしさは消えず。


 私は、なるべくそちらを見ないように努力した。


 「パトリックさま。飲み物はどうしますか?サンドイッチの具材は、鳥肉と野菜、それに卵で、味付けは少し濃いめにしてあります」


 ピクニック、ということで、普段より少しだけ濃いめにした味付け。


 身体を動かした後だからいいと思うけれど、と私はどきどきしてしまう。




 でも、言わなければ、私が作ったと判らないし。




 思って、はっとする。




 あら?


 でもそれって、パトリックさまのお口に合わなかったとき、うちの料理人の責任になってしまうのでは?




 それはよろしくないと思うので、私は、もしもパトリックさまのお口に合わなかったときだけ、自分が作ったと申告しようと思った。




 でも、パトリックさまは直接、おいしくない、なんて言わないでしょうから、ようく表情を見ておかないと。




 パトリックさまは優しい。


 なので、もしサンドイッチが口に合わなくても、直接そう言うとは到底思えない。


 であるならば、パトリックさまがサンドイッチを口に入れた一瞬、その表情で見極めるしかない、と私は決意を固め。


 「そっか。これもローズマリーが作ってくれたんだ」 


 「ほへ?」


 嬉しそうに言ったパトリックさまの言葉に、間抜けな声を出してしまった。


 「だって、『味付けは少し濃いめにしてあります』って言ったからね。もし、料理人に調理を頼んだのなら、ローズマリーはそんな言い方はしない。自分で作ったからこその、言い方だ」


 パトリックさまが、いい笑顔で言い切る。


 「ええと、でもパンは、作ってもらいました。私は、具材を作って挟んだだけです」


 「うん、凄くおいしそう。鳥は、焼いてあるの?」


 「焼いてあるのと、蒸してあるのがあります。それぞれ違うソースを使ってあって、野菜も変えてあります」


 私が説明するのを聞きながら、パトリックさまが真剣にサンドイッチを見ている。


 「うん。どれもおいしそう。全部、食べてみたい。欲張りかな?」


 そうして、少し照れた様子のパトリックさまが浮かべた笑みに、私は心臓を撃ち抜かれた思いがした。


 「そ、そんなことありません。たくさん作ってきたので、存分に召し上がってください」


 「召し上がってください?それはか」


 「食べてください!」


 動揺して言う私にパトリックさまが悪戯っ子のような瞳で言い、それに対して私も、加算、と言われる前に速攻で言い直す。


 「くっ・・・くく」


 「もう。本当は加算なんてどうでもいいと思っているくせに」


 「どうでもいいとは思ってないし、ちゃんと権利は行使するよ」


 必死な私を可笑しそうに笑うパトリックさまを、じっ、と恨みがましい目で見れば、パトリックさまが真剣な顔になって言い切った。


 「え?」


 「ローズマリー。飲み物は、何がお薦め?」


 戸惑う私に、パトリックさまが問いかける。


 唐突な話題変換に戸惑うけれど、今日、とっておき、とも言える飲み物を用意してきている私は、一瞬でそちらへ夢中になってしまった。


 「あ、えと、冷やした発泡葡萄酒にオレンジジュースを混ぜたものが合うかな、と思って用意してあります。パトリックさま、お酒もお強いですし問題ないかと思って」


 学園のランチでは流石に飲まないが、夕食時には飲むこともあるし、それぞれ自邸にいるときは昼餐はもちろん、普段の昼食時に軽くお酒を嗜むことも珍しくはない。


 なので、問題は無いかと思うのだけれど。


 「発泡葡萄酒にオレンジジュースか。それは、もしかしてポーレット領の?」


 「はい。我が領、自慢の品を混ぜてみました」


 そう、我が領は果実の生産と加工が盛んで、その質の良さが自慢だったりする。


 「そうか。それは楽しみだな」


 「他の物も、用意してありますので」


 空になったパトリックさまのコップを受け取り、私は試飲程度のつもりで発泡葡萄酒とオレンジジュースを少量ずつ注いだ。


 「それだけ?」


 「お口に合ったら、もっとたくさんお作りします」


 口に合わないこともあるだろう、と私はパトリックさまにそう促した。


 「それじゃあ、改めて。今日に乾杯」


 私も自分のコップに、同じように発泡葡萄酒とオレンジジュースを注ぎ、パトリックさまのコップと自分のコップを合わせた。


 「うん、おいしい。サンドイッチとの相性もすごくいいね」


 パトリックさまは、飲み物が気に入ったと言って、すぐにお代わりとコップを差し出す。


 気に入ってくれたことが嬉しくて、私もサンドイッチを口に運ぶ。


 パトリックさまとふたりきりで過ごす、幸せな時間。


 


 お腹いっぱい。




 外で食べる食事はおいしい。


 パトリックさまと一緒なら、殊更においしい。


 ということで、私は自分が作ったものにも関わらず、サンドイッチを食べ過ぎてしまった。


 どのくらいのボリュームのものなのかなんて、自分が一番よく判っていたはずなのに。


 「すごくおいしかった。ローズマリー、サンドイッチごちそうさま」


 にこにこ笑うパトリックさまが最後のひと欠片を口に入れ、たっぷり作ってきた筈のサンドイッチは見事になくなった。




 残されないって、すごく嬉しい。




 パトリックさまの幸せそうな笑顔に、私もとても幸せな気持ちになって、持ってきたポットに手を掛けた。


 「コーヒーと紅茶も用意してきました。パトリックさま、どちらにしますか?」


 私が言うと、パトリックさまは、うーん、と考え込んだ。


 


 え?


 そんなに?




 食後のコーヒーか紅茶で悩む。


 まあ、絶対に無いことではないけれど、パトリックさまの悩む様子が深刻すぎて、私は驚いてしまう。


 「ローズマリーのホットビスケットと最高に合うのはどちらだろう」


 そして漏れ出た深刻な声。


 「あの、パトリックさま?どちらでも、お好きな方でいいかと思います」


 私が作ったホットビスケットに合うのはどちらか。


 それでパトリックさまが悩んでいると知って、私はおろおろしてしまう。




 それほど大層なものではないのに。




 けれど、そんな私を余所にパトリックさまは悩み、深く考え込んで。


 「それでは、両方用意しましょうか?」


 私の、その提案に即頷いた。


 結果。


 パトリックさまは、ホットビスケットをまずはひと口そのまま食べ、それからクリームやジャムを付けて食べ。


 その都度、紅茶とコーヒーをそれぞれ選択して、ホットビスケットを堪能していた。


 「パトリックさま、本当にホットビスケットがお好きなんですね」


 パトリックさまの好きな物。


 それをきちんと記憶するように私が言うと。


 「ローズマリーのホットビスケット、が好きなんだ」


 パトリックさまは、真剣な表情でそう言い切った。









ブクマ、評価ありがとうございます。

とても嬉しく、励みになります。

読んでくださってありがとうございます。

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