『争奪戦』は、大激戦、なのです。
「ウィリアム!左!」
ウィリアム、アーサーさま、パトリックさまの三つ巴の直接対決の闘いのなか、私たち他のチームメンバーもそれぞれ攻撃と防御を繰り広げる。
飛び交う火と氷、水と風。
聳え立つ土壁に絡まる蔦草。
激しく繰り広げられる防御と攻撃。
リリーさまの全体攻撃を防御したそのとき、ウィリアムの左で土のゴーレムが出現するのが見えた私は、そう叫ぶと同時にウィリアムの周りに突如吹き出した炎を水魔法で消し去った。
「助かった!ローズマリー!恩に着る!」
ウィリアムは土のゴーレムを蹴り倒すと同時に、襲い来るかまいたちをすべて薙ぎ払う。
けれど、次の瞬間には幾本もの光の矢がウィリアムを狙って飛ぶ。
そして、その間にも止むことのない全体攻撃。
それは、アーサーさまのチームからであり、パトリックさまのチームからでもある。
「ウィリアム!みんな!」
ウィリアムへの光の矢を土の壁で防ぎ、私はみんなへと視線を奔らせた。
「「「大丈夫です!」」」
力強い答えに安堵し、私はみんなを見渡した。
アーサーさまのチームも、パトリックさまのチームも、まずは私たちのチームを潰すことに決めた様子で、両チームの攻撃が私たちへと集中している。
「両チームの攻撃がこちらへ集中していますが、魔力残量はみなさん問題ありませんね?ここが我慢のしどころです。まずは防御とキングへの補助に集中して、機会を待ちましょう。わたくしがキングの補助をしますので、みなさんは全体攻撃の防御をお願いします!」
「「「はい!」」」
「ウィリアム!防御は任せて攻撃に徹してください!」
ウィリアムの一歩後ろに立ち、私はひたすらウィリアムの防御に徹する。
「ローズマリー!頼む!」
それに呼応するように、ウィリアムが自身にかけていた防御をすべて攻撃に転じ、アーサーさま、パトリックさまへと果敢に攻め込んで行く。
「っ!」
後方を守ってくれているみんなが、全体攻撃の防御に徹し、すべての全体攻撃を避けてくれている様子を確認した私は、ウィリアムの防御をしつつ、ウィリアムの攻撃に自分の攻撃を追加しようと試みるも、その度にリリーさまやアイビィさまの私への攻撃を受けて叶わない。
速い!
そして更に加速する、アーサーさま、パトリックさまの容赦ない攻撃。
光が、炎が、風が。
鋭くウィリアムに襲いかかる。
負けませんっ。
それら激しい攻撃から、私は必死にウィリアムを護り続け、肩飾りを奪うことを許さない。
完全なる、硬直状態。
そのとき、アイビィさんの魔力が大きく動くのを感じた私は、防御の体勢を強くし。
「あっ!」
その攻撃が、リリーさまへと直撃するのを目撃した。
「リリーさま!」
思わず叫んでしまった私の視界の先で、リリーさまの身体が大きく傾いだ。
「リリー!」
それは、一瞬のこと。
咄嗟にリリーさまへと手を伸ばしたアーサーさま。
その両肩の肩飾りを、パトリックさまとウィリアムの風魔法がそれぞれ貫き、吹き飛ばした。
「っ!」
フォルニアチームの敗退。
申し訳なさからか、涙ぐまれるリリーさまが痛々しい。
それでも、まだ最終決着はついていない。
リリーさま!
後で!
後でお話ししましょう!
思う私の足元に、幾本もの氷の柱が立ち上がる。
それと同時に飛んで来る、数えきれないほどの氷の針。
アイビィさん!
容赦ないです!
思いつつ、私は炎ですべての氷を消し去った。
瞬間、あがる水煙が、攻撃の激しさを物語る。
「ローズマリー!」
「「「ローズマリー様!」」」
「「「ポーレット嬢!」」」
ウィリアムや仲間の、みんなの声がする。
「大丈夫です!」
答えた私に安堵の表情を浮かべるみなさん。
その顔は、既に疲労困憊している。
「ウィリアム、みなさん。あと少しです」
心を籠めて、私はみんなに癒しを贈った。
属性不明のおかしな魔法、とも言われるけれど、これは私が大好きな魔法。
誰も傷つけることなく、疲れを癒してくれる。
「くっ!」
途端、温かい空気を引き裂くように飛んで来た風の刃。
それを間一髪避けたウィリアムが、パトリックさまへと同様の風の刃を飛ばし返す。
それに呼応するように、再び全体攻撃が襲って来るけれど、威力が落ちているのは明白。
けれど、こちらも魔力が無尽蔵にある訳ではない。
「攻撃と防御を交互に!」
「「「はい!」」」
それでも漸く攻撃できると、鬱憤堪った様子のみなさんの顔に闘志が漲る。
再び、パトリックさまとウィリアムの激闘が繰り広げられるなか、アイビィさんは魔力が尽きかけているのか、先ほどまでの勢いがない。
パトリックさま、本当に凄い。
クイーンであるアイビィさんの援護がほぼなくなったなか、それでもパトリックさまの魔法は、威力も精度もまったく落ちない。
幾つもの属性の攻撃魔法を同時に繰り出し、ウィリアムを果敢に攻め続ける。
そして、展開し続けている防御。
幾つもの属性の防御と攻撃を同時に操って闘うパトリックさまは、とても強い。
そして。
格好いい、です。
今は敵なのに、と思いつつもパトリックさまに見惚れ、称賛していると。
「パトリック!格好いい!」
突然叫びが聞こえて、私は思わず自分が叫んでしまったのかと驚いた。
ああ。
激烈桃色さんでしたか。
しかし、それは私の心の声が漏れたわけではなく、激烈桃色さんの実際の叫びだったと知って、私はほっとしてしまう。
いけません。
今は<虹色のトマト>を、このチームで得ることだけを考えなければ。
そして気合を入れ直した私は、パトリックさまの猛攻を受けるウィリアムを、全身全霊かけて防御する。
けれど、こちらからの全体攻撃も威力を増しているというのに、パトリックさまの防御は厚く、攻撃が弱まることも無い。
魔力も体力も、無尽蔵であるかのように攻める威力は高まるばかり。
「粘り強く頑張りましょう!」
パトリックさまの気迫と実力に押されそうなチームに声をかけ、私は再び癒しを使った。
私たちを包む温かなぬくもりに、みんなの表情も落ち着きを取り戻す。
そして、その間にも激しくなっていくパトリックさまの攻撃を懸命に躱す。
「ああ、なんていうか。俺たちへのクイーンの癒しが、微笑みが、パトリックさまの怒りに火を点けてる感じ?」
「そして、ウィルトシャー級長は俄然やる気に満ちている」
「これはあれか?『俺のローズマリーに護られやがって!』な、パトリックさまと」
「『なんで貴様がローズマリーの婚約者なんだ!』っていう、ウィルトシャー級長の闘い」
「ここで、雌雄を決するんだな」
「いや、それは何というか、もう決しているだろう。でも、俺たちも、クイーンの癒し、もらったから同罪なんじゃね?パトリックさま、『お前等まとめてぶっとばす!』になってんじゃね?」
「そうですね。ウェスト様は、これまで単体攻撃ばかりだったのが、全体もかけるようになっていますし」
「ああ、判る!でもまあ。ダービー副級長の威力、かなり落ちたからってのもあるだろうけどな」
「ポーレット嬢強いもんな。ダービー副級長は、さっきのポーレット嬢への連撃を防がれたことが痛かったんじゃないか?優しくて強い。ポーレット嬢は最高のクイーンだな。ウィルトシャー級長も、あの化け物みたいなパトリックさま相手に踏ん張って、しかも攻めてるし」
「それにおふたりとも、わたくしたちのことも、常に気を付けてくださっていますわ」
「ええ。ここに来るまでのトラップでも、ずっと気に掛けてくださって」
「いいキングとクイーンだよな」
「あのふたり、勝たせたいよな」
「ああ」
「ええ、本当に」
後ろから聞こえて来る声。
私は防御を展開しながら、みなさんが何を相談しているのか、もしかして何か問題が生じているのかと振り返ってみると。
「「「勝ちましょう!みんなで我らのキングとクイーンに勝利を!」」」
と決意込めて言われた。
「みんなで、みんなの勝利を、ですよ!」
「「「おう!絶対勝とうぜ!」」」
「「「ええ!やりましょう!」」」
咄嗟に言ってしまった私に、皆さん力強く答えてくれて、笑みさえ浮かべて再び闘いへと舞い戻る。
それは、にっこり、というよりは、にやり、というか何というか、な、挑戦的な笑みだったけれど、私には大きな力になった。
「嬉しい!パトリックとウィリアムがあたしを巡って争ってる!」
その時、突如聞こえた場違いなほど明るい声に、周りが思わずそちらを見た。
両手を胸元で組み、うっとりとパトリックさまとウィリアムを見ている激烈桃色さんは可愛い。
可愛いけれど、明らかに防御も攻撃もしていない。
こちらからの全体攻撃があるたび、どなたかが防御壁のなかへと引き入れているように見える。
その表情が、嬉々としてパトリックさまとウィリアムを見つめる激烈桃色さんと対照的に、物凄く渋い。
土魔法が得意、と言っていたと思うのだけれど。
教室で嬉しそうにパトリックさまに報告していた激烈桃色さんの甘い声を思い出し、私はもやもやとした気持ちになってしまった。
私は、激烈桃色さんみたいに可愛くない。
可愛くない、けれど、私だって。
『パトリックさま!とても素敵です!すごくすごく格好いいです!この目に、しかと焼き付けておきますね!』
って、胸元で手を組んで叫びたい。
・・・似合わないのは、判っているけれど。
いじけるように思って、私ははっと我に返った。
いけない、いけない。
冷静に、冷静に。
「そうだよね!ウィリアムだって、本当はあたしを好きだよね!」
激烈桃色さんは、喜びを露わにして叫ぶ。
けれど、激烈桃色さんの喜ぶ声も聞こえない様子のパトリックさまとウィリアムは、互いに攻撃の手を止めることは無い。
そして、気にもならないのか、激烈桃色さんの方は見ることもない。
良かった。
防御はちゃんと出来ていた。
恋愛脳炸裂中もきちんと役目は果たしていたようで、私もパトリックさまとウィリアムの動きに合わせて移動しつつ、的確な防御を展開していてほっとする。
「パトリック!ウィリアム!あたしはここよ!」
「マークルさん!ふたりが争っているのは授業だからです!そして、あの激戦の原動力はローズマリー様です!馬鹿な妄想していないで、マークルさんも防御するなり攻撃するなりしてください!」
ぶんぶん手を大きく振って感激している激烈桃色さんの隣で、魔力尽きかけのアイビィさんが、げんなりと何かを言っているけれど、私までは聞こえない。
ここまではっきり聞こえるなんて、激烈桃色さんの叫びって凄いのね。
それとも、大きな魔法を使い続けたアイビィさんが、それほどに弱っている、ということかしら?
思い、私はアイビィさんが心配になったけれど、まさか今、彼女へ癒しを使うわけにはいかない。
「はっ!」
「くっ!」
パトリックさまもウィリアムも、言葉という言葉を発することなく、互いに気迫をぶつけ合うように闘い続ける。
正に真剣勝負。
びりびりとした緊張感に包まれた空気。
ふたり共が、全力で闘い抜こうとしていることが、身に染みてよく判る。
流石、です。
ふたりとも。
このふたりは、将来国の中枢を担っていくことになることが、ほぼ決定している。
今回のこの授業。
紅白戦のような今を越えて、将来は共闘するのだと思うと、私は何だか感慨深くなった。
パトリックさまもウィリアムも、悔いなく全力を出し切れますように。
祈るように思い、私も全力を尽くす。
それからも激闘は続き、私の一瞬の隙を突かれて、ウィリアムの右肩の肩飾りにパトリックさまの攻撃が直撃し、奪われてしまった。
「っ!」
はっとしたけれど、ほぼ同時にウィリアムの攻撃がパトリックさまの左肩を直撃して、肩飾りを奪う。
「問題無い!気にするな!ローズマリー!」
振り向かないままに、私へと叫ぶウィリアム。
そんなウィリアムに飛ぶ、パトリックさまの厳しい視線。
失敗は、無理矢理にでも過去として、改めて気合を入れ直す私。
まさに一進一退の攻防。
手に汗握るとはこのこと、と思う間にも攻撃が及び、魔力残量も気になり始めて、私は感傷に浸ることもできなくなった。
もう少しで、決着がつく。
実感できるだけに、身の引き締まる思いがする。
もはや、授業という概念はなく、ただひたすらチームの勝利を願う。
その意志が、私たちをひとつにしていく。
空気が、ひとつに纏まっていく。
「パトリック!すっごく格好いい!あたしのために闘ってくれてありがとう!感激!」
そのとき、激烈桃色さんが感極まった様子でパトリックさまへと突進した。
「なっ!?」
ウィリアムとの闘いに集中していたパトリックさま。
まさか背後から味方に突進されるとは想定外だったのか、ウィリアムとの闘いの最中で背後認識が遅れたのか、パトリックさまは激烈桃色さんを避け切れず、その突撃の衝撃で防御が完全にはがれてしまった。
しかも、激突された勢いのまま突き飛ばされ、他の方がかけていた全体防御の位置からも外れてしまう。
「もらった!」
それが一瞬のことだったとしても、その好機を逃すウィリアムではない。
すべての動きが止まったような空間のなか、私はウィリアムの風の刃が、パトリックさまの肩飾りへと真っすぐ飛翔するのを見た。
そして同時に繰り出される、その刃を弾き落とそうとするパトリックさまのチームメンバーの攻撃。
とても速い。
速い、けれど。
「させませんっ!」
咄嗟に叫び、ウィリアムの風魔法を妨害する、すべての障害を打ち落とした私の魔法に呼応して、チームみんなの魔法が飛び、相手チームの攻撃を撃破する。
その瞬間、私たちはウィリアムの風の刃がパトリックさまの肩飾りを落とす未来を確信した。
「くっ!!」
それなのに、パトリックさまは自ら地面に倒れ込み転がることで、ウィリアムの風の刃を避けてしまった。
「っ!」
パトリックさま!
本当に凄いです!
そして、格好いいです!
地面を転がり立ち上がろうとするパトリックさま。
しかし体勢が整う前に、ウィリアムの風の刃が次々飛び、それを許さない。
それを防ごうとする、パトリックさまのチームのみなさん。
その攻撃を打ち消す私たち。
お互いに防御無しの、完全全力総攻撃。
ふたつのチームの魔力がぶつかり合い、打ち消し合って。
「これで、決める!」
パトリックさまが、体勢を無理にも整えようとしたその瞬間、ウィリアムが一際の気合を込めて、風の刃の連なりを放った。
渾身の一撃。
「ぐぅっ!」
呻くような声をあげたのは、パトリックさま。
パトリックさま!
無理に動いて、身体を捻ってしまったのかも知れない。
どこかに、身体を強く打ち付けてしまったのかも知れない。
もしものことを考えるほど、今すぐ駆け寄ってしまいたい思いが込み上げ、私はパトリックさまへと駆け出さないよう、必死に身体に力を籠め、強く奥歯を噛んだ。
そんな私が見たのは、ウィリアムの風の刃に弾き飛ばされた、パトリックさまの肩飾り。
ついさきほどまでパトリックさまの肩を彩っていたトマトの肩飾りが、ふわりと舞って地に落ちる。
「勝った!」
ヘレフォードさまの叫びを皮切りに、みんなが喜びの声をあげる。
勝った。
私たちが。
「ウィリアム。<虹色のトマト>を」
座り込み、呆然と自分の肩を見つめるパトリックさま。
その姿に心配は募るけれど、私は今、このチームのクイーン。
そう改めて覚悟を決めた私にウィリアムも頷き、チームみんなで<虹色のトマト>の前まで歩いた。
「みんなの、お蔭だ」
呟いたウィリアムが恭しく<虹色のトマト>を手にし。
激闘続きだった『虹色のトマト争奪戦』は、幕を閉じた。
ブクマ、評価ありがとうございます。
とても嬉しく、励みになります。
読んでくださってありがとうございます。




