側面のお話 <焼却炉事件> パトリック視点2
「アーサー!パトリック!ローズマリーとリリーがあたしの教科書を盗んだの!っていうか、主犯はローズマリー!ふたりはグルなのよ!」
俺とアーサーが教室に着くや否や、激烈桃色迷惑女が俺たち目掛けて走って来た。
「リリー。こちらへおいで。僕の腕のなかへ」
そんな激烈迷惑女を避け、アーサーはリリー嬢をしっかりと腕のなかに収める。
「ローズマリー。遅くなってすまない」
そして同じく激烈桃色迷惑女を避けた俺は、ローズマリーがクラスメイトに守られているのを見て、心から安堵した。
彼女、彼らはローズマリーを責める様子など微塵も無い。
むしろ、激烈桃色迷惑女へ疑惑の瞳を向けている。
これなら、ローズマリーの不安も小さいだろうと、俺は事件の早期解決に全力を注ぐことにした。
ローズマリー。
すぐに、君の無罪を証明してみせるから。
心のなかでそう誓い、俺はローズマリーを背に激烈桃色迷惑女と正面から向き合う。
思えば、この女とこんなにも向き合うのは初めてで、向けられる媚びを含んだ笑みに不快感を覚えた。
それでも、俺が向き合ったことで勝機ありと思ったのか、激烈桃色迷惑女が更ににじり寄って来て、俺は反射的に後ずさろうとして思いとどまる。
ここで、自爆してもらおう。
思うに、この騒ぎは、ローズマリーが言っていた『焼却炉で教科書を燃やす』事件だ。
ならば、”あれ”が役に立つ。
だが、焼却炉へ自然に行くためには、激烈桃色迷惑女を誘導しなくてはならない。
俺は、気合を入れて言葉を紡いだ。
「ローズマリーが、君の教科書を盗んだ?」
「そうなの!」
そんな訳あるか、と思う俺の前で激烈桃色迷惑女が嬉しそうに言う。
俺の表情から、俺の内面は読み取れないらしい。
やわらかな微笑みさえ浮かべ、相手に自分の味方と思わせる。
貴族らしい、と言われるそれは、もはや俺の特技と言ってもいいのだから、激烈桃色迷惑女如きが読み取れないのも無理はないと思う。
しかし、こんな表情、ローズマリーには見せたくない。
思う俺は、ローズマリーが背後にいてよかった、と心の底から思った。
「なんのために盗んだんだ?」
「焼却炉で燃やすためよ!」
「焼却炉で燃やすため?君は、どうしてそれが判った?」
「知ってるの!パトリック攻略の大切なイベントだから!それなのにアーサーの婚約者のローズマリーがメインでやるのってなんか変、って思ってたけど!」
こいつ、本当に馬鹿なんだな。
しみじみとしたそれが、その時の俺の感想だった。
焼却炉、という言葉を引き出したかったのは俺で、そのように誘導はしたが、ここまでしゃべり尽くすとは思わなかった。
意味の通らない様々な言葉は妄言として周囲に捉えられ、信用を失うばかりだというのに。
それにしても。
やはり、物語、を知っている、ということか。
攻略の大切なイベント、というのはよく判らないが、恐らくは場面のことなのだろう。
そしてここでも物語の”パトリック”は、激烈桃色迷惑女を擁護するらしい。
何とも不愉快な話だ。
思う俺の内心など知らない激烈桃色迷惑女が、期待の籠った目で見てくる。
鬱陶しい。
気持ち悪い。
一刻も早く真実を明らかにして、ローズマリーの瞳で浄化してもらおうと思う俺に、ウィルトシャー級長が苦い声を発した。
「ウェスト公子息。彼女の話を信じるのか?」
その不快な言葉に、しかし俺は、俺の態度が激烈桃色迷惑女だけでなく、クラス全員にとって激烈桃色迷惑女の言葉を信じているもの、と捉えられていると知って愕然とした。
それは、当然ローズマリーも。
瞬間、俺はローズマリーに向き直って、真実を話ししてしまいた衝動に駆られた。
他の誰に誤解されたとしても気になどしないが、ローズマリーは別だ。
ローズマリーにだけは、誤解されたくない。
しかし、ここで急いてはすべてが水泡に帰す。
俺は何とか思いとどまって、ウィルトシャー級長に視線を向けた。
「精査する必要はあると思っている」
それはもちろん、激烈桃色迷惑女の所業を明らかにするため。
けれど、周りはそうは思わないのだろう。
困惑の視線が幾つも俺と激烈桃色迷惑女、それにウィルトシャー級長を行き交うのを感じた。
「みんな信じていないでしょう!?ねえ、パトリック、本当だもんね」
そして、その筆頭である激烈桃色迷惑女は、俺へと手を伸ばし擦り寄って来ようとした。
ああ。
これが、ローズマリーだったら。
そうしたら、優しく抱き寄せ抱き締めて、その頭を優しくぽんぽんするのに。
なんてことを想像しながら、俺は激烈桃色迷惑女をするりと避けた。
「じゃあ、確認しに行こうか」
言いながら、俺はローズマリーを視界に捉える。
ローズマリー。
思ったよりずっと不安そうなローズマリーに、俺の心は痛み、すぐにも抱き寄せたくなる。
けれど、もう少しの我慢だ。
ローズマリー、あと少しだから。
想いを込めて、俺はローズマリーに大丈夫の合図として、心を込めて片目を瞑って見せた。
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