極夜
極夜
ある冬、私は閑散とした街を訪れた。現在は何時であろうか。街は闇につつまれ、街灯ひとつだけが淡く光っている。
北風と積もった雪で足元から頭まで冷えきっていた。宿を探すにも、周りは暗く人も通らない最果てのようなところにはなにもない。私はぽつんと立つ街灯のしたにあったベンチに腰掛け、腕時計を見た。午後二時と指すその針は、今は夜ではないことを示していた。では今は昼なのであろうか。この暗さで昼だと言うなら、私の知っている昼とはかけはなれている。果たしてこれまで陽の光が当たらない昼があったであろうか。にわかには信じられない。
私は本当に最果てに来てしまったのか。頭上で淡い光を発しているこの街灯は幻で、街などはじめからなかったのかもしれない。その瞬間、私は恐ろしくなった。誰も来ないこの最果ての地で一生を終えてしまうのか。家に残した妻に、手紙を送ると伝えた友人にもう会えないのかと考える度にもどかしくなる。私はいてもたってもいられなくなり走りだした。
延々と続く暗闇を、止むことなく降り続く雪のなかをただひたすらに駆けていく。街灯の光が届かなくなってしばらくし、疲れ果て座り込んだところで、ランタンを持った一人の男にどうしたと声をかけられた。私はここは最果てなのだろうかと男に聞くと、何言ってんだ。ここは街だぞと笑った。
では何故昼だというのにこんなにも暗いんだと聞けば、今日は極夜で一日中太陽が昇らない日。北欧ではではよくあることだと言った。止まない雪の降る北欧の街で、最果てではないと知った私は、深い安堵を覚えた。
今日も夜は明けず、暗闇が街をつつんでいる。