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第六話


――「は?」


 脳が再起動するまでに時間を要した。

 その上で絞り出した言葉がそれなのだから、我ながら頭が回っていない。



「まあ、正確に言えば、私と付き合っているフリをしてくれないかしら、ってことなんだけど」



「付き合っているフリ?」


「そう、ちょっと厄介なことになっていてね……」


「愛護団体絡みか?」


「いいえ、今回は奴らは関係ないわ。っていうか、こういう時に助けてくれたりしたらまだ好感も持てるっていうのに、本当に使えない奴らだわ」


「散々すぎる言い草だな……で、どういう訳なんだ?」




「えっと、まあ、端的に言えば、ストーカーされているみたいなのよね」




「ストーカーか……」


「これまでも何回かそういう輩は出てきたけど、今回はちょっと違うのよね。

 今までは、陰ながら私のことをずっと見ている、みたいなのが多かったじゃない?」



 小町の言う通り、過去にストーカー被害を受けていたことも、気持ちの悪い手紙が来たり尾行されたり、といった犯行が多かったのも事実だ。

 そういった輩は須く警察に突き出してきたおかげで、最近はめっきり無くなったように思っていた訳だが。


「今回は違うのか?」


「なんていうか……主張が激しいのよね。

 『僕は君のことを何でも知っている』とか、『僕が君を幸せにするよ』とか、気味悪いことばっかり言うし、SNSのアカウントも嗅ぎつけて連絡取ってきたし」


「確かにそれは常軌を逸して気持ちが悪いが……それで、なんでまた俺と付き合っているフリをしようと考えた?」


「これ見て」


 そう言って、小町は自分のスマホをこちらへ突き出した。



「えっとなになに、『僕が君と付き合えば、君を永遠に幸せに出来るよ』って?」


「その下も」


「『いつも横にいる木偶の坊なんかよりも、僕の方が君の横にいるべき存在だ』?」


「そう、それ」


 小町は眉を吊り上げ、憤懣やるかたないといった表情だ。


「なんだかとても自信満々でいらっしゃるみたいだから、ご自身が見下されている奴に欲しいものを奪われて貰おうかなって」


「考えが本当に下衆で鬼畜だな」


「アンタも、木偶の坊とか言われて悔しくないの?」


「別に、慣れているからな。それに、ストーカー行為をする奴を煽るような真似をして、逆上なんかされたらどうするつもりなんだ?」


「なんのためにアンタを彼氏役にしようとしていると思っているのよ。

 アンタの威圧感を浴びせて、動けなくさせるつもりでいるわ」



「あ、そうですか」



 それで大人しくなれば良いのだが。

 今までのストーカーたちはそれで大人しくさせて警察に突き出してきたが、今回もそう上手くいくとは限らない。随分と楽観的なものだ、と呆れながらも苦笑が漏れた。




「そういうことなら、協力しよう」



「ありがとう、恩に着るわ。

 じゃあ手始めに、今週末にデートするわよ。いい?」



 了承とノータイムで提案してきたあたり、俺が断る可能性を微塵も考えていないことが分かる。

 まあ基本的に断らないことは確かだが。



「デートって、何する気だ?」


「普通に買い物とかしているところを見せて、ストーカーに付き合っているんだということをまず知ってもらおうと思っているわ。その後の反応を見て次の策を考えましょう」


 それは普通に過ごしているのとあまり変わらないのではないか、という言葉は飲み込んだ。



 なんにせよ、面倒なことに巻き込まれたものだ。

 そのストーカーが大人しく引き下がってくれることを願いながら、俺は氷が解けて薄くなったコーヒーを一気に吸った。



ギリギリギリ投稿

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