第二話
――小野寺 小町。
彼女を、花のようだ、と例えたのは誰だったか。
サラサラと風に靡く肩口まで伸びた射干玉の髪。パッチリした大きな瞳。まっすぐ通った鼻梁に、控えめに主張する赤い唇。小さく繊細な輪郭にそれぞれのパーツが配置され、黄金比で整えられているような、美しい、という表現が相応しい、少女。
身長は小さく、小柄で、よくマスコット的な可愛がられ方をしているのを見かける。その小さな体躯でぴょんぴょんと跳ねたり、とことこと歩いているさまが、そういった扱いを助長させているのだろう。
彼女の美しすぎる顔立ちをして敬遠されていないのは、そこに要因があると思っている。
だからこその、花のような少女、という形容なのだろう。
高嶺の花のような存在感でありながらも、路傍に咲く花のような気安さも感じられる。
そんな稀代の美少女、小野寺 小町は、俺の幼馴染であった。
「いいよなぁ、大和は小野寺さんと幼馴染でさぁ」
ぐでっとした様子で俺の机に突っ伏したのは、数少ない友人の戌井 翔太だ。
今は昼休み。翔太は俺の前の席の人がいないのをいいことに、我が物顔で席を奪い、あまつさえ俺の机をも占領している。
「別に良いことなんてないぞ、逆に面倒くさいことばかりだ」
実際、小町目当ての男に絡まれたことなんて数えきれない。横に立っているだけで攻撃の標的にされるのだから、たまったものではない。ただの幼馴染で、恋人関係などではないのだから、勝手に告白でもなんでもすればいいと思うのだが。
翔太は上目遣いでこちらを見やり、その顔に軽薄な笑みを浮かべた。
「それでもさぁ、毎日至近距離であのご尊顔を見れるわけじゃん? それだけでもご利益ってもんでしょう」
気持ちの悪い発言だと思うが、こういった発言をする者はこの学校には数多く存在する。小町の存在を神聖化したり、アイドル扱いする者は後を絶たない。これから先、変な宗教を作り出してくれるなよ、と切に願っている。
「毎日見ていたら物珍しいものでもないし、それでご利益があるなら俺は世界一のラッキーボーイだろうよ」
「正直なところ、だいぶラッキーボーイだと思うけどねぇ。その強面と図体が無ければ、人生もっと楽だったろうに」
ずけずけとした物言いが、逆に心地よい。変に怯えて話されるよりも、ずっといいのだ。だからこそ、こいつとの友人関係が続いているのかもしれない。
「その二つを持って生まれた時点で、ラッキーボーイとは思えないがな」
別に自分の容姿について、親を憎んでいるとかそういったことは無いし、逆にしっかり育ててもらっていて、感謝しているし尊敬もできる親だと思っている。
だが、しかし、この容姿でなければ、とも思ってしまうのだ。
「まるで真逆だもんなぁ。かたや学園のアイドル的美少女、かたや反社会的勢力だ」
「いやそれは言い過ぎだろう」
流石に反社会的勢力は無い。犯罪に片足突っ込んでいるどころか、どっぷりアンダーグラウンド真っ逆さまではないか。
ははは、と翔太は笑っているが、言葉を改める気はないようである。まったく失礼な話だ。
「てかさ、ラッキーボーイってダサすぎない? 何時代の言葉?」
「……」
返す言葉はなかった。
ギリギリ間に合ったわ。(書き始めたの昨日)