第一話
習作です。お目汚し失礼します。作者は豆腐メンタルを越えてヨーグルトメンタルなので、批評はしっかりと熟考されてからよろしくお願いします。
終いには泣く。
――幼い頃から、背の高い子供だった。
背の順で並んだときは必ず最後尾だったし、黒板が見え辛いからと席を交換したことも数えきれない。
映画館に学生料金で入ろうとすればスタッフの方にやんわりと止められ、駅の改札を子供料金で通ろうとすれば、駅員さんに羽交い締めにされたこともあった。
そんな俺も高校生になり、幼い頃から高かった身長は竹のように留まることを知らず、今や2mに届かんばかりとなった。
その身長の所為なのか、はたまた父親譲りの三白眼の所為なのか、俺は人に怖がられやすい。
子供に近づけば泣かれ、小動物に近づけば逃げられ、肉食動物に近づけば威嚇される。
俺は何も、していないのに。
――ちらり、と車窓に目をやる。
右から左へ過ぎていく景色の中に映る、こちらを射抜く鋭い眼光。座席に座っていても分かる、スラリとした、というには伸びすぎた背丈はより圧迫感を強め、部活動で鍛えた筋肉がそれを助長させている。
嘆息し、窓から目線を外す。
朝からこれ以上憂鬱になる必要もない。
「なに、自分の顔見て溜息吐いてんの? ナルシストにでもなった?」
鈴を転がしたような声で、刺々しい言葉が突き刺さる。
そちらを向けば、向かいの座席から半眼でこちらを見やる、幼馴染の姿があった。
「そうじゃない、寧ろ逆だ」
「ふーん、あっそう。また誰か怖がらせたの?」
「……」
顎で、通路側の方向を指す。
その先には、恐怖し委縮する少年の姿があった。
小学生だろうか。背負ったランドセルの肩紐をぎゅっと握り締め、こちらに怯えた目線を送っている。
俺の視線を辿り、彼女も少年の存在に気付いたようであった。そして、その少年の視線の先にある物にも。
こちらに視線を向け、納得したように、溜息を一つ。
「なるほど、それが原因って訳ね」
少年の視線の先にある物、それは俺が手に持っている文庫本であった。
きっと読んでいる途中で、電車の揺れか何かで落としてしまい、俺の足元に滑ってきたのだろう。気付いた俺が拾い上げると、息を呑むような声が聞こえ、あの少年と目が合った、という訳なのだった。
「頼む、小町から返してやってくれ。その方がいいだろう」
「貸し1、クレープ一つね」
横暴だ、暴利だ、と思いつつも口には出せない。
そんな様子の俺に満足したのか、小町はふふん、と笑い、差し出した本を掴んで立ち上がった。
「はい、君の本だよね?」
小町はしゃがみこんで、少年に本を差し出した。ただでさえ小柄な小町だ、しゃがみこめば小学生らしき少年よりも小さくなる。
「あ、あ、ありがとう、おねぇちゃん……!」
おどおどとしながらも、少年は頬を紅潮させて一生懸命にお礼を言った。ペコペコと頭を下げながら、ちょうど目的駅に着いたのか、開いたドアへと飛び出していく。
小町がこちらに振り向き、にしし、と笑った。
「あの男の子、可愛かったねぇ。顔を真っ赤にしちゃって」
「あの子には、怖い思いをさせてしまったな。しかし、ありがとう、助かった」
「別に? あ、貸しは忘れないでよね」
クレープを一回奢れ、ということなのだろうか。バイトもしていない高校生にとって、クレープは高級品にあたるのだが。
「……覚えておくよ」
願わくば、彼女が忘れていますように。
そんな未来に思いを馳せて、再び車窓へと視線を戻した。見慣れた校舎が、視界の端に映り込む。
そろそろ学校に着く。いつもの日常が幕を開ける。
今日は朝一番から良くないことが起こったが、これ以上のことは無いと信じたいものだ。
「ほら、降りるわよ」
そう言い残してさっさと電車を降りる小町の小さな背を追い、俺も立ち上がった。
出来たらいいな、週一投稿。




