第八話 無謀な挑戦──小鬼の帝王
まずは、今の力がどれくらい通用するか確かめる!
僕はカイザーに向かって突っ込んでいく。
そこから右ストレート───右の拳をカイザーに向かって放つ。
だが───
「ギギャア!」
半身に捩ってかわされ、それどころか攻撃に合わせて膝まで食らわされる。
完全に見切られてる……!
膝打ちの衝撃で体が浮く。そこにカイザーが肩を掴んできて、僕は地面に倒される。
「ギギャギャギャ!」
押し倒し、愉快だと言わんばかりに笑い散らかされる。
「───っ!」
ふざけんな!
背中が傷み、表情が歪みながらも、左の拳をカイザーに向かい放って抵抗を試みる。
だが、それさえも半身を捩ってかわされ、そこから流れる様な動きで僕の体が蹴り飛ばさせる。
またしても地面を転がり、距離を離された。
「ぐっ、がふっ……」
それでも、腕に力を込め、体を起こす。すぐに立ち上がる事は出来なくても、片膝を地面に着けて体を支える。
「はっ……はっ……はっ……」
やばいな……血を流し過ぎたか? 段々と意識が薄れていくのを感じる。体もどんどんと重くなるし……早めに決めないと……!
もう時間稼ぎも出来そうに無かった。
やれる事とすれば、ここで奴の裏をかいて僕が勝つか・殺されるかの二択のみ。
僕はカイザーを見据える。
と、そこでカイザーが視線を下に向け、僕の剣を拾い始める。
「え……?」
そして、カイザーがその剣をこっちに投げてきた。しかも、切っ先をこっちに向けるのではなく、放り投げる様にして。
剣が地面に引きずられながら こっちに戻ってくる。
カイザーの思いもよらぬ行動に、僕はつい声を漏らしてしまった。
何で……何を考えて……?
僕は剣の方に向けていた視線を再びカイザーに戻す。
「───」
カイザーが笑いながら、こっちに見せつける様に自分の右親指で首に線を引く動作をやってきた。
『何をやっても無駄だ。これ以上やったって無駄に痛みが伴うだけだぞ。それが嫌なら自殺しろ』
まるで、そう言っているかの様だ。
こいつ……どれだけこっちを馬鹿にすれば……!
怒りで歯軋りをしてしまう。
あぁ……やっと分かった。奴からすれば、さっきのホブゴブリンですら仲間じゃなかったのだ。
配下ではなく囲い。ただ周りに付き纏うだけの同種という認識。だから、ホブゴブリンを殺された時だって笑って見ていられた。奴にとって、あれはただの余興でしか無かった。
奴に仲間はおらず、その他は奴の欲求を満たす玩具でしかない。
そうか……そうかよ……そこまで見下してくるんだったら……!
剣を拾い、立ち上がる。
そのまま油断したまま逝け!
僕はゴブリンに向かって歩み出す。だが、足元は不安定で、体もフラフラと揺れて安定しない。持ち上げる力すら残っていないかの様に剣を地面に引きずりさえしながら、それでも尚進んでいく。
それを見て、ゴブリンはさらに笑みを深めた。
まだ距離がある───というのに、僕は剣を振り上げる動作をして。
それに反応して、ゴブリンはトライデントを上にあげる。しかし、その顔から、当たりさえしないだろうという油断が見て取れる。
───だから、こうするのだ。
剣を振り上げる動作のまま、そこから僕は剣をぶん投げた。
「───!?」
まさか投げる力が残っていると思っていなかったゴブリンは、咄嗟の事で、首の位置まであげていたトライデントで対処する───対処してしまう。
───今!
僕は一気にゴブリンとの距離を詰める。
「───ギィ!?」
まだ力があると思わなかったんだろ! 油断丸出しだ!
僕は右の拳を振りかぶり、ゴブリンにぶつけ───る前に止める。
「───!?」
そのまま拳が飛んでくると思ったのか、トライデントを上に振り上げたゴブリンは、僕から見て左に頭を逸らしていた。そうかわすしか無かったからだ。
でも、実際には拳は飛んできていない。
ざまぁみろ。
僕は気功術により魔力を上半身に集中。右手を引き、代わりに左の拳を突き出した。
「ぎゃ!」
その悲鳴は───僕から出たものだった。
驚く事に、ゴブリンはこの攻撃にすら反応して見せた。
自分の首を突き出される拳に合わせて捻り、そのまま僕の拳に噛み付いてきたのだ。それにより、左の拳が潰される。
ゴブリンはそのまま僕を右手で持ち上げ───後ろに投げ飛ばした。
───投げ飛ばされたというのに、僕は笑みを浮かべていた。
まさか左の拳にまで反応するとは思ってもみなかったし、ゴブリンが自分から僕を後ろに投げ飛ばしてくれるとも思いもしなかった───けど、これはこれで嬉しい誤算だ。
今までの戦闘で、ゴブリンは油断を顕にし、攻防の一区切りには必ず僕を投げ飛ばしたり蹴り飛ばしたりするなり距離を離させていた。
一度距離を離させるのはこのゴブリンの癖だろう。だから、そこを利用する。
油断したゴブリンに僕の左ストレートを食らわせる。
それによって怒ったゴブリンに、僕が上手く動く事で後ろに飛ばしてもらう。
分かっていれば上手く着地出来る。そこで、先程トライデントで弾かれ、後ろにいった剣を拾って、直ぐ様奇襲。
そう───ここまで、僕の望む展開になっているのだ。
それどころか、もっと最高の展開になっている。
ゴブリンが思いの外 速く投げ飛ばしてくれた事で、僕は空中で弾かれた剣を手に戻すが出来た。
思わないだろう? さっきの裏をかく拳すら本命ではなく、まさかその後の反撃まで作戦の内だとは。
空中で体勢を立て直し、地面に上手く着地する。
そしてすぐにゴブリンに向かって離陸した。
ゴブリンは僕を投げ飛ばした事で体勢が整っていない。
まだ力が残っているとも思わなかったか?
僕は魔力を全身に流しながらも、とある場所に魔力を溜めていく。
先程のステータスボード確認時。
気になる項目があった。
それはスキルリスト一覧の所。
『スキルリスト
《チョイス》気功術Lv.10
《チョイス》気功剣Lv.1
気功剣←魔力を剣に集中させる事で、剣の質を向上させる』
気功剣───まさかここで剣の斬れ味上昇スキルを覚えられるとは思わなかった。
魔力が込められた刀身が淡く青色に光り出す。
最初に剣を投げたのも、何で利き手じゃない左手で殴ったのかも、この為の布石!
この一撃の為に、一度剣を相手の視界から外す必要があった。この一撃を放つ為に、何が何でも右手を壊される訳にはいかなかった。
全て………全て! この一撃を放つ為の動きだったんだ!!
僕はゴブリンに向かって、渾身の袈裟斬りを放った───。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
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