第七話 無謀な挑戦──それでも打開案は浮かぶ
僕は剣を振り上げ───上段の構えでゴブリンカイザーに突進していく。
直線に走るのではない。孤を描く様に左に膨らみながら走る。
カイザーの斜め前から攻撃。当然、カイザーは僕の攻撃を受ける為にトライデントの位置を少し上げる。
───今! 僕は一気に方向転換。足に力を入れて無理やり左方向に進路を切り替える。
先程の左に膨らみながらの攻撃。カイザーから見たら右斜め前からの攻撃になる訳だが、そうした場合、普通、そのまま攻撃をするか・突撃した勢いを利用して別行動をするかの二択だ。
だから、僕はその裏をかく。基本から外れる動作───しかも、助走の勢いを完全に殺す選択肢。
格上との駆け引きは相手が油断している序盤が特に有効。レベルアップを望むなら今しか無い。
そのまま僕は左にあるホブゴブリンの死体に向かって走っていく。
方向転換の為に剣の位置はすでに腰より下に下げている。このまま斬り上げで、ホブゴブリンの死体の腕を斬り飛ばす!
今まで、ずっと考えてきた事だ。僕には才能が無いから、努力と思考で覆すしか無いんだって。どうすれば次は勝てるのか・どう立ち回れば差が縮まるのか───ずっと考えて、そして絶望してきた。
でも、今の僕には力がある。考えた通りに場面を動かす力がある。
そう、この時の僕は少し浮かれていたのだ。
レベルアップにより力を手に入れ、ゴブリンだけでなくホブゴブリンまで思う様に殺せてしまった事で、考えが甘くなっていた。どこかで、「これからは全て僕の考える通りに場面を進められる」───そんな傲慢で怠慢な考えが浮かんできてしまっていた。
慢心極まれり。
だから───足をすくわれる事になる。
僕はいち早くホブゴブリンの肉を手に入れる為に、カイザーに背を向けて走っていた。
本来なら、相手から目を逸らすなんて言語道断。戦士としてあるまじき行為だ。
でも、大丈夫。僕は今カイザーの裏をかけた筈。その止まっている数瞬の間に、肉を手に入れないと───。
すぐにホブゴブリンの死体の元に辿り着き、剣を振るう僕。
だが───僕の考えは完全に外れていた。
カイザーが僕が考えるよりも早く反応し、すぐにトライデントを振りかぶる。
そして───
「───!!!!」
突然、背中から激痛。それどころか、とてつもない衝撃と共に僕は少し前にある岩の壁に衝突してしまう。岩壁はそれで陥没し、小石が散る。
僕の背中に刺さったのは───トライデントだ。カイザーが投擲したと思われるトライデント。僕の腹の丁度裏側───その辺り三箇所から激痛が送られてくる。
「ギギャッ」
「ガァッ!」
いつの間に後ろへ来ていたのか、カイザーはトライデントに手を伸ばすと、僕の体に刺さったままのトライデントを左右に捻ってさらに深く差し込もうとしてくる。
「ぐぅっっ……あぁ! あああ!!」
こいつ……!
ただでさえ痛いのに、さらなる痛みが脳に送られてくる。
カイザーの顔───笑ってやがる。
こいつ、僕で遊んでるんだ。
「───ぐふぅ!」
いきなりトライデントが引き抜かれる。
脳天を貫く痛みが一気に走り、みっともない声が漏れてしまう───が、カイザーは構わずトライデントを持つ手とは反対の右手で服を掴み、僕の体を持ち上げる。そして、後ろに投げ飛ばした。
「───っ、っ!」
されるがまま投げ飛ばされ、何度か地面をバウンドする。
その衝撃で、ついに握っていた剣まで手放してしまった。
「………っ、ぐぅ……!」
痛い………尋常じゃなく痛い……!
でも………僕は何とか腕に力をいれ、背中から痛みを感じながらも立ち上がる。
今、僕はカイザーに背を向けている状態だ。
立ったなら、すぐにカイザーの方に振り返るべきだ。
だけど、僕はそれをせず、それどころか───口角を吊り上げた。
見誤ったな。僕は今、さっき向かったホブゴブリンとは別のホブゴブリンの死体の所にいる。
そう───先程すでに右腕を斬り飛ばしておいたホブゴブリンの死体の近くだ。
つまりここには───ホブゴブリンの腕がすでに転がっている。
僕は立ち上がると同時にその腕を持ち上げていた。
脂肪と筋肉たっぷりの分厚い腕。本来なら、火を通すべきなんだが………。
勿論、カイザーを前にそんな余裕は無い。
死にたくないなら───。
僕はその腕にかぶりついた。
何故かカイザーは襲ってこない。俺の奇行に流石の奴も驚いているのか?
だが、襲ってこないなら好都合。僕は骨以外の部分を食べ尽くす。
「………うぷっ」
相変わらず魔獣の肉は不味い。火を通していようがいまいがそれは変わらないみたいだ。
だが……。
僕は左手を握り、力を込める。
「“オープン”」
ステータスボードを表示させる為に、切っ掛けの言葉を紡ぐ。
そこに表示されたステータスボードには───
『レベル─── 5』
「よしっ」
戦闘中にも関わらず、食事に続き小声で喜んでからガッツポーズまで取ってしまった。
ステータスボードを確認すると、気になる表示まである。これは嬉しい誤算だ。
「“クローズ”」
ステータスボードを閉じ、カイザーの方に向き直る。
カイザーは右手を腰に当てニヤニヤとこっちを見ていた。
完全に舐められてる。無駄な足掻きも大歓迎って訳か。
だが、僕が落とした剣の傍にカイザーは立っている。おさえるポイントはきちんとおさえてる。
しかし……僕は思わず笑ってしまう。
普通の相手なら武器をおさえればそれで十分だろう。
だが、僕の場合はおさえるべきポイントが違う。奴は何が何でも僕の食事を邪魔するべきだったんだ。そうすれば、僕に勝ちの可能性が芽生える事も無かったのに。
まだこれで僕がカイザーに勝ったかどうかは分からない。
でも、これで勝負にはなる筈だ。
「………」
僕は、この一年、見下され、罵倒され、そして暴力を振るわれても───果てには、夢や憧れさえ壊され、生きる指標さえ失っても、生きることだけは諦めなかった。
周りからすれば、何の意味も無く、ただしつこく生きているだけの雑草とそんな差異無かっただろう。
だからか、どうも僕は、生きることについて諦めることができないらしい。
どれだけ絶望的状況でも、そこに万が一の可能性があるのなら───いや、例えそこに億が一の可能性も無くとも、最後まで、みっともなく、生に縋りついてやる。
こいつ───ゴブリンカイザーからしても、僕はそこらの有象無象、雑草と何ら違いは無いと思う。
でもね───
雑草のしぶとさ、なめるなよ。
せいぜい笑ってろ。
今に目にものを見せてやるよ。
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