第四話 禁忌の禁忌
「オゥウエエッ! んうっ、おごっ、オゲェェェ!!」
僕は喉からせり上がってきたものを我慢出来ず、その勢いのまま吐き出してしまった。
僕の口から出たものは───血だった。
何で……!?
いや、何でじゃない! こうなる事は、最初から予想がついていた事だ! それなのに、僕は……一時の感情に、身を委ねて………こんなのっ大馬鹿じゃないか!!
そもそも、市販のポーションを飲めば魔獣の肉だって食べられると考えた時点で阿呆だったんだ。そんな事で食べられるのなら、日常の知識として そこらに転がっていてもおかしくない。情報が転がっていないという事は、暗に、食べられないって事を意味してる訳じゃないか!
やってから急に冷静になり、常識的な意見がどんどんと浮かんでくる。だが、それも もう遅い。
その間も僕の嘔吐きは止まらず、どんどんと板床が吐き出した血で汚れていく。
何で……何でいつも、僕は……!
やってから後悔する事ばかりだ。
いつもいつも我武者羅に追い求め、そして挫折して───その最後が、自滅?
何で地道に強くなる方法を選べなかったんだ………せっかく、強くなれる機会が巡ってきたって言うのに……!
いつの間にか僕の体は倒れていて、下にばら撒かれた血液で体が汚れる。
瞳から光は失われていて、すでに瞼も閉じ掛かっている。
何で……何で………なん、で……………。
□□□
『くはははは! ははははは!! いや面白いぞ! まさか禁忌だけでは飽き足らず、さらにその先の禁忌にまで触れようとするとは!』
『予想以上だ! まさかここまでやるとは思ってもみなかった』
『ふふ………特別だぞ? ここまで私を楽しませた褒美だ───くれてやる。その代わり───もっと私を楽しませてみろ。これ以上の愚かを、私に見せてみるがいい! ははははは!!』
□□□
不意に目が覚める。
レベルアップが出来る様になった時と同じだ。あんなに苦しんだ後だっていうのに───頭は妙にスッキリしている。
でも、今回倒れたのは、原因不明っていう訳じゃなくて、僕が犯した失態のせいだ。つまりは自業自得。あのまま死んでも文句は言えなかった。
なのに……生きてる。どうして……?
そうやって惚けていた僕の耳に『ザザッ、ズザ』という不快音が届く。
「何だ?」と不思議に思った僕は上を向くと───
『レベルアップ・システムが変更になりました。『禁書観念的身体能力値表示板』を確認しますか? ───YES or NO』
「はい?」
思わずそんな事を呟いてしまった。
□□□
な、何? ぷろひ………は?
そんな困惑している僕を他所に、目の前に浮かんでいる・メッセージが書かれたボードが消える。
「あ」
消えたボードに対して反射的に「ちょっと待って」と僕は手を伸ばして───。
ラクト=ユウキ 種族 (人間) 年齢:16
レベル:2 取得経験値量:213
筋力 :106
瞬発力:121
体力 :89
魔力 :1039
出力 :36
抵抗力:541
スキルホルダー:気功操作 (空き数2)
スキルリスト
《パッシブ》魔素完全適応
《チョイス》気功術Lv.1
いきなり目の前に現れたステータスボード。
でも、今まで見てきたのとはまるで違う。
まず、今まで白色で表示されていた数値や文字。これが血の様に真っ赤になっている。というか、その数値も数値でヤバい。今までの比じゃないくらい高くなっている。てか、魔力ゼロから千三十九ってどうなってんだよ!?
それより、気になるのはレベルだ。何でこんなにも数値が高くなっているのに、レベルだけが下がっているんだよ!? というか、ボードもボードで、さっきからちょくちょく霞んで見えなくなる。
もしかして、壊れた……?
と、そこで、ボードの下にまたメールとやらが届いているのが見える。
とりあえず僕はそれを指で押してみた。
『件名:素晴らしい
おめでとうございます。魔獣の肉を食した事で、『禁書観念的身体能力値表示板』が解禁されました。それに伴い、レベルを初期化・レベルアップに必要な経験値量が増加し、それから、大幅に身体能力が向上し、又、魔獣の肉を日常的に食せる様になりました』
「………」
僕は固まるしか出来なかった。
あ、新しいステータスボード……? それに、魔獣の肉が食せる様になった?
いや、思考停止しちゃ駄目だ。考えろ。
とりあえず、このステータスにメール・こうなった経緯を考えるに、死体となった魔獣の肉に魔素が残っているという僕の仮説は正しかったって事か。しかも、この上がり様から考えて、魔獣の肉にはかなり魔素が残されてたって事にもなる。これは嬉しい誤算だ。
僕の身体能力は大幅に上昇した。でも、その代わり、必要な経験値量が増えた、と………つまり、これからもレベルを上げたいなら、魔獣の肉を積極的に食い続けろ───そういう事か。
故にこの『魔素完全適応』という『スキル』が増えたんだな。
「………」
僕の口角が自然と吊り上がる。
上昇値がこれからどうなるかは分からないけど、このステータスを信じるならすでに僕はかなり強くなったって事だ。
一先ずは一週間で学院には戻ろうと考えていた。だから、当初の予定ではその最後の日にギルドランク昇格試験を受けようと考えていた。けど、元々があまりにも非力な僕の身体能力だ─── 一週間レベルを上げたとしても、試験に受かるかどうかは微妙だった。
でも、この数値を信じるなら───Eランクにはかならずいける! まさか、こんな事が起きるなんて……!
「………くくくっ」
喉から声が漏れる。
「ははは!」
何が嬉しかったのか・何が面白かったのか、この時の僕の感情はよく覚えていない。
でも、どうしようもなく笑いが込み上げてきて、止められなかったのは覚えている。
この時から、僕の中の何かが変わり始めたんだ。
「ははははは!!!!」
□□□
「アナタという神は………一体っ何を考えているのですか!?」
「………あぁ、お前か」
「お前かではないです! やっとここまで修正が終わったというのに……!」
「そう喚くな。平和ばかりでもつまらんだろ?」
「ふざけないでください! こんな改変……到底許される事ではありませんよ!」
「あ〜、耳元でビーチクバーチク……五月蝿いなぁ。そんなに言うなら、お前お得意の修正で何とかすればいいだろ? 私を責めてる暇があるならさ」
「………っ、そういう問題では……」
「そういう問題だよ。所詮、私が介入したのは一人の人間に対してのみ。修正なんて簡単にやれただろ? 何でそれをしない?」
「……………」
「お前も引っ掛かってたんだろ? あいつの生い立ち。これまで散々苦汁を舐めてきたあの男が、今では活き活きと人生を歩もうとしてる。一なる神として、これは喜ばしい事だろう。だからお前は修正しない。修正しようにも、出来ない」
「……っ、しかし……プロヒビテッド・ステータスボードを得た人間をこのまま放置すれば……」
「そう口では言いつつも行動出来てはいないじゃないか。一なる神にあるまじき葛藤だな」
「………っっっ」
「何も決断出来ないなら そこで黙って見とけ。面白くなるのはここからだからなぁ」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は意図的に地の文を抜いてる部分があります。少し読みにくいかもしれませんが、一応意図がございますので、ご了承ください。
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