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妖人帝軍諜報部  作者: ナナイロナイト
グンタイ妖人行方不明事件
8/58

ネルとハラシガ

鏡を見て最終チェックした。

カナメの髪色は黒。瞳も黒。これらは問題ないだろうが、爪の赤色が気になった。

カナメの爪は生まれつき赤い。これは彼の個性だ。

「人間の男は赤い爪にしないという。目立たないように塗っとくか』

潜入するときは、マジョリティーに同化するのがスパイの基本。身だしなみに細心の注意を払う。


肌色のマニュキュアを塗って乾かしていると、トントン、と、誰かがドアを静かにノックした。

「どうぞ」

「カナメェ」

鼻にかかる甘ったるい声。ネルだ。

「入っていいか?」

こちらはすっきり爽やかな声。ハラシガだ。

入ってきたのは、マイナーのネルとハラシガ。

ネルは、やや背が低く、天パーの髪色がピンク。茶色の大きな目がクリッとして可愛い。

ハラシガは金髪黒目。細身で顔が小さい。

二人とも後方支援だが、諜報部ということで少しだけ長髪にしている。

二人の爪色は透明。これが妖人では普通だ。

三人並ぶとカナメが一番背丈あり、体格が大きい。

ネルとハラシガは、スーツ姿のカナメに目を奪われた。

「スーツ姿のカナメ……。ああ……、素敵だ……」

「カナメはどんな服装でもいける」

「本当に格好いいよ」

「どんな役でも様になるな」

二人は競うようにカナメの容姿を褒め讃える。

どういう気持ちで自分を見ているのかあずかり知らぬが、カナメは容姿を褒められたところで喜ぶことはない。

はしゃぐ二人に我関せず。平常通りに落ち着いている。

褒めごたえがないと思うが、ネルとハラシガは気にしないどころが、そこも気に入っている。調子に乗って付け上がる方がずっと嫌だ。


「出動命令が出たんだって?」

「モンスを捜しに行くのか?」

「ああ、行ってくる」

「気をつけて。困ったことがあったら、すぐ連絡して。補佐できるから」

「新情報があればすぐに連絡するよ」

「二人の言葉、頼りにさせてもらう」

「カナメに頼りにされて嬉しいよ」

表に出ることのないマイナーは、応援を惜しまない。

ネルとハラシガは、カナメが大好き。こうして心配し、任務前は顔を見にやってくる。

単独で敵陣地に入ることの多い諜報部は、よほどの緊急事態でもない限り救援信号を送らない。

通信するだけで、居場所を感知される危険があるからだ。

カナメ自身も応援要請は好まない。それでも仲間の気持ちは嬉しいもの。

ネルたちもカナメに頼られると嬉しくなる。

真面目で質実剛健、感情のないロボットのような面白味のない男。武骨が歩いている。それがカナメの人物評。

でも、長く付き合えば人情味溢れる信頼に値する熱い男だと分かる。


「無事に任務遂行して戻ってきたら、バーベキューしようよ」

ハラシガの提案にネルがすかさず乗った。

「料理は僕が作るよ。前にカナメが食べてくれた特製ミカンレー鍋にしよう」

ミカンレー鍋とは、激辛唐辛子のブート・ジョロキアをベースにした極辛カレーベースの出汁に、甘いミカンを丸ごと入れて煮た鍋のこと。

ネルはいつも謎料理を編み出す。味は常に微妙だ。

カナメは美味しいと思って食べていない。

出された食事に文句をつけないのが信条だからだが、料理を褒められたことのないネルにとって、何でも黙って食べるカナメが世界で一番優しい存在となっている。

「分厚いステーキをガツンと焼いて食らいつこうよ」

ハラシガは、カナメと一緒に肉をモリモリ食べられれば良い。それがカナメと一体感を得られる手段の一つとなっている。

ネルがハラシガに文句をつけた。

「僕がミカンレー鍋を作るって言ったそばから、バーベキューって」

「両方作ればいいじゃないか」

「カナメには僕の料理をたくさん食べてもらいたいんだ! 豪勢に栗も入れるから!」

「自分は普通に素材の味を楽しみたい。余計な調味料は素材を殺す」

「余計って、どういう意味⁉」

軽い言い争いは仲の良い証拠と、カナメは静観した。

「なあ、カナメはどっち食べたい?」

「行ってくる」

「お、おう……」

「あっさりしているね」

カナメは雑談に興じない。

「兵舎を出るところまで見送るよ」

「見送り無用」

「僕たちはカナメを見送りたいんだよ」

ネルもハラシガも、自分なりの絆をカナメに感じていて、別れを名残惜しんだ。


三人で通用口まで来ると銀髪が目に入った。歩兵部隊のペストン大尉だ。

カナメたちに気付いて振り向いた。

「偶然だな」

(待ち伏せしていたくせに)

わざとらしいペストンに、ネルとハラシガは鼻白んだ。

ペストンの階級は、カナメより上の大尉だが、エリート将校を要請する帝軍士官学校と、スパイを養成する帝軍ナカノ学校で同期だった。つまり、モンスとも同期ということだ。

どちらでの成績・技能も、カナメの方がずっと優秀だった。

左半身の負傷でカナメが休んでいる間、ペストンが年功で階級が上がっただけのこととネルとハラシガは考えていた。

「カナメ中尉。これから任務か」

自分が上だということを強調するために、いつでも階級を口にするのがペストンだ。

「そうです」

「では、次は私に特別指令が下されるかな」

完全に皮肉であった。歩兵部隊のペストンに単独指令が下されることはない。


ペストンは、学校時代からなぜかずっとカナメを目の仇にしてきた。

カナメが成績優秀だった故か、教員や仲間たちから慕われ人気があったからか、あるいは両方か。

嫉妬混じりの視線と棘のある言葉を常にカナメに向け続けた。

「せいぜい、大尉の私に迷惑を掛けないようにしてくれたまえよ。カナメ中尉殿」

嫌味をたっぷり口にすると、気取って行ってしまった。

何も言わないカナメに代わって、ネルとハラシガが悪態をついた。

「何だ! あいつ! 嫌な奴だなあ!」

「気取りやがって!」

「カナメはお前に迷惑なんか掛けないぞ。カナメ、ペストン大尉の活躍する隙なんてなくしてやってよ」

「ああ、うざったい。いちいちカナメに絡まないと死ぬのかよ。階級まで強調してさ」

「カナメはあの大怪我がなければ、階級はとっくに大尉になっていた。もしかしたら、お前の上官になっていたかもしれないぞ」

「ペストン大尉だって、『北部荒野行軍事変』の一人だったんだろ? 参加者9割が亡くなった大惨事。それなのに、軽傷ってどういうことだよ」

「あいつが軽傷なのは、戦っていなかった証拠だろうに」


ペストン大尉も行軍に参加してハキリと戦闘していた。多少の切り傷はついたようだが大したことなく、すぐに完治したらしい。

「本当にちゃんと戦ったのかね」

「隠れていたんじゃないか? 怪我したと言ったが、案外、自傷だったりして」

二人はペストンへの疑惑を言い続けた。

いつまでも悪口を言い続ける二人をカナメがたしなめた。

「二人とも言い過ぎだ。部隊は違えど上官だぞ」

ネルとハラシガはそんなカナメに感心した。

「さっすが、我らがカナメ中尉。嫌味を言われても上官への敬意を失わない。人格が違う」

「カナメ中尉は、いくら嫌味を言われても全く相手にしないのであった。どこかの大尉殿とは大違い」

最後はカナメを褒めて、ペストンを(おとし)めて終わる。

「では、行ってくる」

兵舎の出口でカナメは別れを告げた。

「無事に帰って来いよ!」

「フレ! フレ! カナメ!」

ネルとハラシガは、エールで見送った。

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