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妖人帝軍諜報部  作者: ナナイロナイト
グンタイ妖人行方不明事件
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北部荒野行軍事変 後半

潔く死を覚悟して無抵抗となったカナメに敵の刃が落とされようとしたところで、間一髪、緑の頭髪が体当たりして防いだ。

モンスだ。

『カナメ! 大丈夫か!』

『モンス!』

この時のモンスの勇姿を、カナメは生涯忘れないだろう。

『死ぬな! 生きろ!』

モンスの声援で、一度は失くした生への渇望がカナメの中に沸き上がった。

『そうだ。生きなくては。生きて戦わなくては!』

気力が甦る。

起き上がったハキリがモンスに狙いを変えた。

『貴様!』

『私が相手になってやる!』

ガツンと当たる両者の刃。

モンスと敵の刀と刀が火花を出してぶつかり合った末、相手の刀が折れてモンスが敵を斬り捨てた。

『勝ったぞ! ウオオオオ!』

モンスが空に向かって勝利の雄叫びを上げた。その時、誰かの放った矢がヒュンと飛んできてモンスの体を貫いた。

強靭な力で射抜かれたらしき矢は、胸から入って背中を突き抜け、後ろの地面にズバッと突き刺さった。

モンスの体には小さな風穴が開いた。

『グ……』

モンスは口と胸から血を流し、手から刀を落とした。

『モンス!』

『なんの……これしき……』

モンスは、胸を押さえて流れ出る血を抑え、苦痛に耐えるが、背中側から止めどなく流れ出していた。

半不死身とはいえ、ダメージからは逃れられない。

足腰に力が入らず全身がガクガクと震えた。

モンスの倒したハキリが、チャンスとばかりにゆっくり起き上がった。

『モンス! 敵が起きた!』

『ククク……』

不敵に笑うハキリ。

『分かっている……』

分かっているが、モンスの体は思うように動かない。

このままではモンスが首を落とされる。

『クソ! 夜々壱! ハキリの眉間を斬れ!』

カナメの声が届いて、夜々壱が動いた。

フワリと浮き上がると、目にも止まらぬ速さでハキリに向かって飛び、頭部を突き抜けた。夜々壱の刃は、豆腐に包丁を刺したかのようになんの抵抗もなくスーっと眉間に吸い込まれた。

『ギャアアアア!』

夜々壱が光ると、頭が左右二つに切断されてハキリは絶命した。レーザー光線が鉄塊を切るごとく、全てが無駄一つない滑らかな動きであった。

ボトン。

夜々壱は、役目を果たしたかのように地面に落ちて動かなくなった。

『夜々壱……、よくやった』

なんとかしのいだが、ここは戦場。いくらでも敵が襲ってくる。

『モンス……。その体で無理するな。逃げろ』

『まだ、やれる……。敵に背中を向けられるか……』

モンスは、何とか踏ん張って立ち上がった。

カナメを守るため、迫りくる敵相手に満身創痍の体で戦い蹴散らした。


一時は劣勢だった帝軍だったが、後から来た小隊と合流して形成逆転。ハキリ群団は敗走していった。

戦場と化した荒野一帯には、敵味方入り乱れて多くの死体が転がっていた。その中にカナメも埋もれていたが意識はあった。

モンスがカナメを励ました。

『カナメ、もう、大丈夫だ。私もお前も生きている。すぐ病院へ運んでやるから』

『ああ……、助かった。ありがとう』

モンスのお陰でカナメは九死に一生を得た。

『モンス、夜々壱を預かってくれないか』

『分かった』

モンスは落ちていた夜々壱を拾った。

『責任を持って預かる』

『頼んだ……』

カナメは、安心して気を失った。


右半身だけとなったカナメは病院へと運ばれたが、混乱の中で左半身が置き去りにされてしまった。

妖人は、多少の欠損なら再生するが、大きく損傷すると再生が追い付かずに死んでしまう。

小さな穴が開いただけだったモンスの体は、数日で元通りに塞がって元気になったが、カナメは左半身という大きな欠損で再生が間に合わず、生死の境をさまよった。

軍医たちは、総力を挙げて帝軍病院で培養されていたクローン臓器の左半身を結合する手術を行った。

左半身は無事に繋がり、壮絶なリハビリの末に回復。現場復帰ができた。

小隊の9割が死亡する大惨事となったこの事件は、後に「北部荒野行軍事変」と呼ばれた。


***


つまり、今のように諜報部の仕事ができるのも、全てモンスのお陰。

そのモンスが行方不明なのだ。今度は自分が助ける番だ。

鏡に映る体の傷は、己の慢心による後悔とモンスへの感謝の気持ちを思い出させてくれる。

「何としてでもモンスを捜し出し、もし敵の手に落ちているのなら、絶対に取り返す」

常に過度の感情表現を抑制しているカナメは、静かに震え立った。

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