消えた死体
警察が動いた。
「これ以上調べることはなさそうですね。そろそろ運びますか?」
「ちょっと待て!」
死体がブスブスと泡立ち始めた。
みるみるうちに形は崩れ、融解していった。赤い血液さえも変質して白濁した。
「うわ!」
唖然茫然とする警察とギャラリーたち。
「不思議だ……」
「まただ……。また消えた……」
「消える死体……。やっぱり人間じゃないようですね」
「では、一体何なんだ⁉」
理解できないものに直面して苛立つベテラン刑事。
怒ったところで、納得いく答えを出せる者はいない。
「質の悪い作りものじゃないですか? 人間でない以上、警察の出番はないですね。はい、撤収! ゴミは廃棄処分!」
人間でなければ事件にならない。
刑事が鑑識たちに撤収を命じた。残った塵芥をポリ袋で回収し、現場に水を撒いて流して終わった。
「もう終わり?」
「UMAじゃないの?」
「それだったら貴重な資料だったな」
「ゴミとして処分されてしまうのか」
「帰って二度寝だ。フワアーア……」
「さ、仕事、仕事」
「お買い物に行って来よう」
引き上げる警察を見て、ギャラリーたちは好き勝手に喋ってそれぞれの生活へと三々五々散っていった。
残ったのはカナメとコヨリともう一人の女。
女はずっとカナメを見たまま動かない。
白いジャケットとタイトスカートでビジネスウーマンのいで立ち。紺色のショルダーバッグはワニ革で高価そうだ。
コヨリは少しでも背を高く見せたくて、頭の上にお団子を作って盛り上げている。根元には手編みのマクラメでリボン結びをしている。
洋服は、無地の黄土色トレーナーに白いオーバーオールという地味な格好。
隣の色っぽい大人の女性と対照的。
カナメは、周囲の様子に気を配ることなく、じっと動かずに考えていた。
(消滅した。思った通り、妖人の死体だった……)
妖人の体は、死ぬと骨も残さず消滅する。
これで決定した。
人間は妖人の存在を知らない。知られないように生きているからだ。
グンタイ妖人には、いくつか人間と違う特異体質がある。
胴体を切断しただけでは死なない半不死身であることが一番大きい特徴。頭がなくても四肢があれば動くことができるが、それでも活動限界はある。
生命維持の処置をしないと、今のように細胞と細胞をつなぎとめる神経が腐って形を保てなくなり、崩れて消える。これが妖人の死だ。
妖人に骨はない。固い細胞がその代わりをしている。
(頭と両腕を切断、放置したのは、それだけでは死なないと分かっていたからか。妖人の特異体質を知っているものがいるということだ……)
カナメは失踪した仲間を捜していた。