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妖人帝軍諜報部  作者: ナナイロナイト
左半身暴走事件
21/58

2

北海道に到着して人間に潜り込んだカナメは、猟奇事件について情報を集めていった。

マスコミは連日、猟奇殺人事件について騒ぎ、続々と続報を流していたため、情報収集には困らなかった。


一人目は25歳の女性。首から上が無かった。

二人目は23歳の男性。右脇腹から腰がなかった。

三人目は18歳の男性。右胸がえぐられたようになかった。

四人目は28歳の男性。右足がなかった。

警察は失われた部分を必死に捜している。人海戦術で周辺を捜しても、まったく見つからなかった。


犠牲者たちの人生はマスコミによって子細に報道されていた。

一人目の犠牲者は、飲食店勤務。明け方まで働いたのち、職場の送迎車で自宅マンション近くに降ろされたところまで判明していた。彼女は、自宅までわずか数メートルの間で死体となって発見された。


このセンセーショナルな事件は、丁度他に大きなニュースがなかったこともあり、暇を持て余していたテレビが勤務先の関係者などへ積極的にインタビューを取りに行った。

「ムードメーカーでいい娘でした」「女の子たちのリーダー的存在で、悩みの相談によく乗っていました。恨まれるような娘ではありません」「彼氏はいたけど、彼女を取り合って客同士で喧嘩になったこともあった」


このような証言から、男女トラブルに巻き込まれたかもしれないとコメンテーターは言った。

交友関係を詳細に伝えていく中で、たくさんの写真や短い映像が流れた。

短い黒髪でボーイッシュな印象。彼女のことを知る関係者では、夜の街では珍しいタイプだが、それが受けて人気は高かったらしい。


ネットには、もっと細かく死体や犠牲者の情報が書き込まれていた。

首が無理やりもぎ取られたように引きちぎられていたとか。

体には擦り傷も打撲もなく、生きたまま引き裂かれたとか。

つまり、人間が素手で行うにはとんでもない怪力が必要で、そのことが警察を悩ませているようだった。


近所のコンビニに寄ったのかもしれないと、警察は防犯カメラを確認したが、彼女らしき女性も犯人らしき人物も映っていなかった。

マンションは出入り口に防犯カメラがある。死角はないはずなのに、どこにも映っていなかったという。

誰にも姿を見られず、被害者は悲鳴を上げる暇もなく、なんの物音も立てずにさらっていき、首を取って死体を放置。

悪辣非道で残忍な犯人を糾弾する報道が毎日流れた。


カナメも発見現場のマンション付近を歩いてみた。

ビルが並んだ繁華街の一角で上を見上げる。

上から襲って上に連れていけば、このあたりの防犯カメラには映らないだろう。


二人目の犠牲者は、23歳の大学生。

大学図書室で遅くまで勉強した後、行方不明となった。図書室を出るところまでは目撃者がいる。

家族が大学内を捜したところ、無残な死体が見つかった。


最初は一人目の女性と関連しているとは誰も思わなかったが、同じように生きたまま体を引きちぎられたかもしれないとの警察の見解が発表されてからは、恐怖と衝撃で北海道内がパニックに陥った。

マスコミも連日書き立てた。


一人目の時は、男女関係か客とのトラブルだろうと個人の問題と捉えたから、多くの人たちは自分とは無関係だと安心していた。熊かもしれないとの憶測も流れていた。

そんな目に遭うのは女が悪かったから。そんな風潮さえあった。

そのため、プライベートなことを細部まで興味本位に暴き出し、センセーショナルに書き立てた。

ところが今度の大学生は、真面目で将来有望な青年だったため、まったく対応が変わった。

取材も静かになり、通り魔的な事件に巻き込まれた論調となった。


三人目に至っては、高校生だったこともあって完全に報道規制が掛かった。

公の情報が報道されないので、カナメは自分の足で葬儀場や学校に行って友人たちを探し、写真を見せてもらった。

幸い、カナメの他にも取材陣が多数いたので、ああ、またかという感じで疑われないですんだ。

彼もまた、真面目な生徒で知られ、猟奇事件に巻き込まれることが信じられないと異口同音に話した。


四人目の犠牲者は28歳の男性で、アマチュアマラソンランナーだった。

健脚自慢でマラソン大会では常に上位。オリンピックに出るのが夢で、足腰の鍛錬と肺活量の増加を目指して日々練習していた。

その彼が山に走りにいったまま家に戻らず、心配した身内がマラソンルートを捜して惨(むご)たらしい死体をみつけてしまった。

彼の妻は、夫の死体を見て取り乱して泣き叫んだという。


人がほとんど通らない山奥。目撃者も現れなかったため、最初は熊が疑われた。

ところが、突如、妻が疑われていくこととなった。

なぜなら、結婚してわずか3か月で巨額の保険金を得ることが分かったからだ。

それは、結婚を機に入った死亡保険だった。夫婦がお互いを受け取り人とすることは珍しいことではないが、妻が積極的に契約を勧めたことが根拠とされた。

一連の猟奇事件を模して殺したのではないかと言うものさえいた。


女性の力で足を関節からもぎ取ることなど、物理的に不可能であることは明白である。そのため、誰かに頼んだんじゃないかとも言われた。


悲劇はそれで終わらなかった。

夫を亡くした悲しみと疑われた苦しみから、妻は自殺してしまった。

結局、そのことによって世間は妻を疑うことを止めた。


テレビは連日、犯人像について論争。有識者や様々な専門家が持論を展開した。

「一体、どこにこれほど怪力の持ち主がいるというのだ。これらを一人で行うのは無理だ。犯人は暴力団だ」

「気になるのは、体の右側ばかりを持ち去っているということです」

「何かの儀式ではないでしょうか。悪魔召喚に使うとか」

「宇宙人の仕業でしょう。アブダクションの失敗かもしれない」

現実的な推理からオカルトまで、半分ふざけているような説ばかり出ていて、大いなる悲劇であるのにその論争は滑稽だった。


なお、これらの他にも首や手足をもがれた死体はいくつか見つかっていた。切り離された体の一部が発見に至ったため、一連の被害者に該当せずとされていた。

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