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きゃっ☆四足歩行ロボ(2)

 どうしてこんなことになったんだろう。


 考えても、三咲(みさき)にはよく分からなかった。


 学校イチの問題美人とその下僕、という、いかにもあやしい二人組に連れ込まれた物理学教室。


「さて、テスト協力のために洗いざらい吐いて……もとい、キミの恋を叶えるために、詳しい情報を教えてもらおうか」


「えっ……」


 あやしい。ひたすらあやしい。

 美貌が免罪符にはなり得ないことを、ひしひしと実感する三咲であった。


(こんな人に言ってしまったら、渡良(わたら)くんに迷惑かけるかも……!)


 半ばひきつりつつ、黙りこむ三咲のアゴを、漫画キャラのごとく完成された指が、クイッと捕らえる。


「もし、()……情報を提供してくれないのであれば、これから数日間キミの行動を監視……もとい見守らせてもらわなければならぬのだが……」


「……! 言います……!」


 ごめんなさい、と内心で渡良(わたら)に土下座する、三咲。


 といっても、三咲が渡良(わたら)について知っていることは僅かしかなかった。

 名前と年齢、誕生日。そして、甘いもの好き。


 千代崎は素晴らしい速さでパソコンのキーボードを打ちつつ、質問を続ける。


「身長体重は? 匂いは? ……ふむ。わからんのか」


「はい、ごめんなさい……」


「かまわないさ」


 ふふっ、と不敵な笑みに艶やかな唇を歪ませ、忙しく手を動かす千代崎。


「ふっ……私にかかれば、こんなもの!」


「それ犯罪ですからね!?」


 下僕のぴたのムダなツッコミから察するに、どうやら学校のデータをハッキングしているらしい。



 情報(データ)をAIにインプットすると、千代崎はまた 「ふっ……!」 と、見た目だけは極上の微笑みを浮かべた。


「これで準備は完璧だな」


 三咲の手に、モフモフな犬のヌイグルミの綱を握らせ、ぽん、と肩を叩く。


「さぁ、『きゃっ☆ごめんなさい!ウチのポチが』 略して 『きゃごめっポ☆』 ……」


 高らかに、そしてとんでもなく嬉しそうに、千代崎は告げた。


「 発 進 ! 」



 ……ぐいっ。


「きゃあっ!?」


 急にひっぱられ、三咲は悲鳴をあげる。

 同時に、ぎゅっ、と目をつむり、なにかとんでもないコトが起こるのを、覚悟した。


 が。


 ………………

 ………………

 ……………… あれ?



 動 か な い で す け ど ?



 おそるおそる目をあければ、足元にあえなく転がっている、モフモフの塊。


 ジーッ、ジーッ、ジーッ……


 いかにも 『動けません』 と言いたげなモーター音と共に、前(あし)が完全停止している。


 うごうごと、うごめく後ろ脚……。



「ふむ」 千代崎が、うなずいた。


「どうやら、ぬいぐるみの長い毛がモーターに絡まったようだな」


 言うなり、どこからか取り出したハサミを一閃し、毛を断ち切る。


「改良点その1。ポメよりシバが望ましい」


 そのまま、じゃきじゃきじゃき、とぬいぐるみの長い毛を切っていく。


 しかし。

 ポメラニアンの毛を短く刈っても、出来上がるのは 『寒そうなポメ』 であり、決して 『シバ』 にはなり得ない、と三咲は思う。




「……あと、モーター音が(うるさ)くないっすか、これ」


 口を挟んできた下僕のぴたの、瞳が異様に輝いている。


(ひぃぃぃぃっ!? こ、このひと、まともそうだと思ったのに、実は……っ!?)


 裏切られた気持ちで、のぴたの顔を見つめる三咲。


 確か、さきほどまで彼は、エキセントリックな先輩に振り回される三咲を、心配そうに見てくれていたはずだ。

 ……立場は弱いけどイイ人なんだな、と、半ば信じかけていた、というのに。



 今、三咲の目の前にいるのは ――― 熱に浮かされた、オタク。

 めちゃくちゃ、あやしい。 ―――



「速度も遅いし……。ここはモーター巻き直して回転数を上げて周波数も変えて」


 下僕のぴたの制服の内ポケットから、次々とナチュラルに工具がでてくる。


(スペアポケット……!)


 国民的人気アニメ 『トラえもん』 の秘密道具の1つを、つい連想してしまう三咲であった。



 そして。


「よっし! これでOKっす!」


 万歳をする下僕のぴたを、「ふっ……ご苦労」 と千代崎が労る。


「なるほど。モーターの数を減らしてかつ、遮音材も使う。さらに滑車をつけて、速度問題をクリア、か……。

 やるな、のぴた」


「ふっ、この程度」 オタク熱の残滓(ざんし)に、千代崎のごとき笑みを浮かべる下僕のぴた。

 しかし顔はのぴたのままなので、普通にマッドな笑みとなっている。


 あやしい。


「僕のロボット愛をナメないでください」


「ふっ、ほめてやろう……」


 千代崎は、再び三咲に綱を握らせ、 「いざ! 『きゃごめっポ☆改』 発 進 !」 と、高らかに号令をかけたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 千代崎先輩の言い換えが毎回毎回面白いです。 [一言] ポメとシバではそもそも大きさが違うし(^_^;)
[一言] この二人良いコンビだよwww 付き合わされてる方はいい迷惑ですけどww >「身長体重は? 匂いは? ……ふむ。わからんのか」 皆川「好きなやつの匂いもわからずして、本当に好きと言えるのか!…
[一言] ……って、遮音材を使うんだ(笑)。 なんて力技(笑)。 ブラシレスモーター使うとか、他に方法はある筈なのに……。 多分、このロボットのメカBOX、意外に大きいんだろうなー。
2020/02/08 15:10 退会済み
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