トキメキ♡トーストくん
―――アジモフの著作に描かれた古典的ロボット。
数ある戦隊ものの、搭載型巨大ロボット。
日本の誇る名作 『鉄腕アトム』 (著:手塚治虫 大先生)。
現実に飛び出せば、日本のロボット工学の粋を集めたAiBOやASiMO、各所で活躍している産業用ロボットに介護補助ロボット……
ロボットは、人間の叡知を注ぎ込んで作られ、なおかつ遥かな未来を夢見させる。
これ以上のロマンが、あるだろうか。―――
なのに、千代崎先輩は、昔から。
「オンナのロマンはまた別にある。それを盛り込んでこそ、真のロボット」
と主張なさる。
「真のロボットとは、これすなわち―――」
じゃっじゃじゃーん!
と国民的人気ロボット 『トラえもん』 のごとき効果音つきで、千代崎先輩が繰り出してきた、あやしいトンデモロボットたち。
―――去年、僕が機械工学同好会に入部した時にはまだいた、千代崎先輩狙いの部員たちは皆、それらのテストに使われて消えていった。
そして今、同好会は 『とにかくあやしい』 との噂がたってしまい、今年の新入部員はゼロ。
たまに、千代崎先輩の学校一と名高いパーフェクトな美貌にひかれてやってくる虫たちも、壁ドン試験で振り落とされてしまう。―――
なのに。それなのに。
千代崎先輩は。
「すなわち 『少女マンガ的ロボット』 こそ真のロボット!」
と相も変わらず主張し、あやしいモノ作りに邁進しているのだ。
――― 『衝撃的なシーンで黒目が消える機』 頭に装着して使う。
普通に、こわい顔になる。
『自動背景カット+エフェクト機』 背中に装着して使う。
キラキラや花など数種類のエフェクトを選べるが、どちらにしても後の掃除が大変だ。
中でも一番の迷作は、『トースト型曲がり角男子倒れさせ機』 だった。 ―――
「ほら見ろ!」 自慢げに 『愛称・トーストくん』 を見せてくれた時の先輩の笑顔は、今も忘れられない。
当時はまだ素直に先輩を信じていた僕は、「なんっすか、それ? どう見てもトーストですが」 などと質問し、あれよあれよという間に試験台にされてしまった。
(ほかの試験台たちはその頃、既にいなくなっていたのだ)
試験の手順はこうである。
① 曲がり角で待機。
② トーストくわえた先輩が駆けてくる。
③ トーストに搭載したセンサーが、曲がり角の向こうに男子 (僕) の存在を感知!
⇒ 突如、トーストに内蔵されている折り畳み式アームが伸び、僕を転ばす。
④ 「きゃっ!」 という可愛らしい悲鳴の効果音とともに、先輩の柔らかい……もとい、鬼畜な先輩に激突。
何度か試験を繰り返し、改良を重ねて、最もトキメキが高まる倒れ方ができるまでになった。
空き缶集めどころじゃなく技術極めた……と、協力者の僕も、自負している。が。
ねえ、先輩。きいてもいい?
そ れ な ん に な る の ?
「ふっ! 見たまえ、のぴた!」
先輩がまたもや、満面の天女スマイルで迫ってくる。
でも、もう僕は、期待なんてしない。
「はいはい」
じゃっじゃじゃーん!
「『トーストくん・改6』 だぞ!」
「へぇー。それどうなったんすか?」
「ふっ……きいて驚け」 ちっちっち、ときれいな指を左右に振って、先輩はドヤった。
「ぶつかった瞬間に、芳しいトーストの香りが、ふわっと漂うようになったのだ……!」
「先輩……! すごい……」 どーでもいーですよ、それ。
「では早速、試してみようっ!」
というわけで、10分後。
「はぁ、はぁ……」
荒い息遣いと共に、目を見合わせる僕と先輩。
倒れ込む角度もばっちりだ。
「どうだ……よかっただろう?」
自信満々に尋ねる先輩に、僕は言った。
「確かに、食欲の出る香りはソソるところですけど」
その香りが出る時の、『プシュー』 という音が気になる。
「この香り噴射の音に被せて、『いたた……ゴメンナサイ』 という声もつけたらどうでしょうか」
「なるほど! 良い案だな!」
先輩の顔が、パッと輝いた。
僕は、『トーストくん・改6』 を手に取り、いじりだす。
「ここをこうして……」
やはり、機械いじりは楽しい。
工夫と技術を凝らして、完璧を目指すのだ……!
「……って、はっ!」
ふと気づいた時には、下校時刻が迫っていた。
僕の手元には、改良された 『トーストくん』 が……、って。
あああああああ!
つい夢中になって、また忘れてしまっていた!
『同好会宣伝用・お金も稼げるまともなロボット』 を作るのを……っ!
このままでは我が同好会は、犠牲者を増やさなかったとしても、ジリ貧・人数不足で廃部……!
「おお、なかなか良いぞ!」 満足そうに 『トーストくん・改7』 を撫で回す先輩の白い手を、がっしと取って、僕は必死で叫んだのだった。
「いい加減、まともなロボット作りましょうよ!」