取り立てじいさん
おじいさんは綺麗な桜をお殿様に見せたことによってご褒美をもらいました。
本来の物語はここで、めでたし めでたしとなり終わりでしたが、おじいさんはお殿様にご褒美としてたくさんのお金をもらってお金持ちになったので村の困っている人達にお金を貸すことを思いつきます。 ところが、半年経っても1年経っても村人達はおじいさんから借りたお金を返そうとしません。 それでもおじいさんはそのうち返ってくると信じて待っていました。 そしてとうとうお金を貸してから、5年の月日が流れ、ついに、おじいさんも怒りをあらわにし、村人達からお金を取り立てに行くのでした。
お殿様にご褒美をもらってお金持ちになったおじいさんはあることを思いつきました。
「村で困っている人達にお金を貸そう」
おじいさんは紙に「お金を貸します」と書いて家の戸に貼り付けました。
それを見て村人達が「お金を貸して欲しい」と頼みにきました。
それに対しておじいさんはニコニコしながらお金を貸しました。
結局、5人にたくさんのお金を貸してしまいました。
半年経っても貸したお金は返ってきません。
そんな状況でもおじいさんは
「きっとそのうち返してくれるわい 気長に待とうではないか」
といって特に気にしていませんでした。
1年が経ちました。
お金が返ってくる気配はありません。おじいさんは思いました。
「ちと遅い気もするけどそのうち返ってくるわい もう少しの辛抱たい」
少しだけ戸惑っている様子はありましたが、特に怒ってもいませんでした。
そして月日は流れ、お金を貸してから5年が経ち、お金を借りた5人は誰1人としておじいさんにお金を返すことはありませんでした。
おじいさんもついに怒りをあらわにしました。
「いくらなんでも 舐め腐っておる わしが逝っちまったら金を返さなくて済むとでも思っとるのか こわっぱ共め よし、取り立てにいったるわ」
そういうとおじいさんは着ていた服を脱ぎ、甚平に着替え、下駄を履きました。
おじいさんはおばあさんにこう言いました。
「ばぁさんやちょいとこわっぱ共から金を取り立てに行ってきますたい 晩飯までには帰ってきますんで」
それに対しておばあさんは
「じいさんや 気いつけてな」と言いました。
おじいさんは引き戸を開けて外に出ました。
それはそれはガラの悪いこと おじいさんとすれ違う村人達はみんな避けていました。
「最初はこのろくべいとかいう男の家じゃな」
そう言っておじいさんはろくべいの家に行きました。
家に着くとおじいさんはいきなり
「はよ 金返さんかい われ いつまでしらきっとんじゃ ええ加減にせぇ こら」
と戸を叩いて大声で怒鳴りました。
戸が開く前に
「なんだ あの金貸しじじいか 全然怖くねぇだ ははは」
という、ろくべいの笑い声が聞こえました。
しかし、ろくべいが戸を開けると、そこにはニコニコと笑顔でお金を貸してくれたおじいさんの姿はなく、甚平を着て、下駄を履いている物凄くガラの悪いおじいさんが立っていました。
「こわっぱ こら いつまで金返さん気じゃ はよ耳揃えて返さんかい ぼけ」
ろくべいは冷や汗をかきました。
「借りる相手を完全に間違えた」
心の中でそう思いながら、ろくべいはこうも思いました。
「早くかえさねぇと畑に埋められるだぁ」
それは無くもないかもしれません。
おじいさんの怒りは収まる気配がありませんでした。
「おんどれ 明日までに金返さんなら 持ち家を没収するけんのう それが困る言うたるなら貸した金きっちり耳揃えて返すんじゃ ええか 今日のところはこんくらいにしたる きっちり返すんやぞ ええな」
それに対してろくべいは恐ろしく、震え上がり、声が出なかったので首を縦に振って頷くしかありませんでした。
おじいさんは「じゃましたのう」
と戸を勢いよく閉めて、ろくべいの家を後にしました。
次におじいさんが向かったのは、うのすけという男の家でした。
ろくべいの時と同じように戸を叩いて大声で怒鳴りましたが反応がありません。
おやおや留守なのでしょうか?
おじいさんは言いました。
「居留守使っとるのは分かっとるけんのう 今日は畑行かんと家におることは隣の家のばあさんから聞いとるんじゃ 早よ戸を開けんかこら」
そう言っておじいさんは履いている下駄で、うのすけの家の戸を何回も強く蹴飛ばしました。
それでも、うのすけは居留守を続けます。
おじいさんは戸を下駄で強く蹴飛ばしながらこう言いました。
「 ええ加減にせぇ 早よ戸を開けて出てこんかい ぶち破るぞこら」
おじいさんはそう言って後ろに下がり今度は勢いをつけて、うのすけの家の戸を何回も強く蹴飛ばしました。
あまりの強さに戸が悲鳴をあげています。
このままでは本当に戸が壊れるかもしれません。
うのすけは怖くなり、奥の部屋から出てきて慌てた様子で戸を開けてこう言いました。
「許してくだせぇ ちゃんと借りたお金は返すだ。 どうか今日のところは勘弁してくだせぇ」
おじいさんはそれに対し、「こわっぱ こら わしゃのう今、金を返さないことに対して怒っとるのはもちろんじゃけん それより、家におるのに居留守を使ったことに腹を立てとるんじゃ」
と言って、うのすけの胸元を勢いよく掴み、顔を近づけました。
うのすけは「ひぇぇぇ 助けてくだせぇ すまなかっただっどうかどうかご勘弁を」
と何回も何回も泣きながら謝っていました。
この時、うのすけも、ろくべいと同じようなことを思っていました。
「早くかえさねぇと連れてかれて畑に埋められるだぁ」
それは無くもないかもしれません。
おじいさんは何回も謝る うのすけに対してこう言いました。
「明日まで待ったる もし明日までにきっちり耳揃えて金返さんならわしにも考えがあるけんのう おどらの畑と持ち家を没収したるわ 明日までやぞ ええな」
それに対し、うのすけは首を縦に振って頷きました。
おじいさんは「じゃましたのう」
と言って戸を強く閉めて、うのすけの家を後にしました。
おじいさんは歩きながら1枚の紙を見ていました。
「あとはこの3人じゃけん こわっぱ共め 舐め腐りおってきっちり耳揃えて返させたるわ」
おじいさんはそう言って次の男の家に向かいました。
すると近くの畑でおじいさんからお金を借りていた男2人が何やら話をしています。
何を話しているのでしょう?
気になったおじいさんは気付かれないようにそっと2人に近づきました。
「ははははあのじじいから借りたお金を使ってかなり良い土地を買ったのか その様子だともう返すつもりはねぇんだな」
「最初から返すつもりなんてねぇべよ
あのじじいから借りた金なんざ もう5年も経ってるんよ じじいは今頃、ボケが始まっておら達に金を貸したことも忘れてるに違いねぇ」
「くま吉 お主も悪よのう」
「とらぞうもおいらのこと言えんばい」
「はははははは(2人の笑い声)」
この話を最初から最後まで聞いていたおじいさんは2人の間に入るようにすぐ後ろから肩を両手で軽く叩いてこう言いました。
「2人とも畑の肥しにされたいみたいだのう」
まさかすぐ後ろにおじさんがいるとは思わず、突然のことだったので2人は恐怖で声も出ず、固まりました。
「この こわっぱめ!」
おじいさんはとらきちの尻をいきなり下駄で蹴飛ばしました。
衝撃でとらきちは畑の横にある川に落ちました。
「次はおどらの番じゃ」
そう言っていたおじいさんを見てくま吉は震えた声で言いました。
「おいらはすぐにお金を返すつもりだっただ
本当だ 信じてくれけろ」
それに対しておじいさんはこう言いました。
「最初から返すつもりなんてねぇべよ
あのじじいから借りた金なんざ もう5年も経ってるんよ じじいは今頃、ボケが始まっておら達に金を貸したことも忘れてるに違いねぇ
こう言っていたのは何者じゃろうな」
「えっと それはおいらじゃないですたい」
「こわっぱ、とんずらこくんじゃねぇ 覚悟は出来てるようじゃのう」
そう言っておじいさんは勢いよく、くま吉の胸元を両腕で掴み、顔を近づけました。
くま吉は恐怖のあまり震えて涙が出ています。
「おじいさん必ず、必ずお金を返しますたい
どうかどうか命だけはご勘弁を どうかどうか」
こう言っているくま吉に対しておじいさんはこう返事をしました。
「おどらの持っとる土地、家を全て没収するけんのう おどらはとんずらばかりこきおって玉2つ付いとるんか?」
くま吉はこくこくと頷きました。
「わしゃのうこれでも人情はあるけん 今ここのおどらが買った畑だけは没収するのは勘弁したる 金は明日までに返すんやぞ そらとおどらは今日からこの畑に住むんや ええな」
くま吉はこくこくと頷きました。
それを聞いていたようで川に落ちていたとらきちもくま吉と同じようにコクコクと頷きました。
「じゃましたのう」
そう言っておじいさんは2人の前からいなくなりました。
おじいさんが最後に向かったのはきじへいの家でした。
きじへいの家に着くとおじいさんはいつものように戸を強く叩きました。
「早よ開けんかい 戸をぶち破らんと出てこんか」
その音を聞いてきじへいが恐る恐る戸をあけて出てきました。
戸を開けるとすぐにおじいさんがこう言いました。
「早よ金返さんかい いつまでしら切っとんじゃ たたむぞ こら」
きじへいは慌てた様子でこう言いました。
「明日まで待ってくだせぇ 必ずお返しします。」
おじいさんはそれに対してこう言いました。
「ええか 明日までやぞ 返せない言うならおどらの持っている土地と家すべて没収するけんのぅ 」
きじへいはコクコクと頷きました。
おじいさんは「邪魔したのう」と言ってきじへいの家を後にしました。
「疲れたのう これで家を周るのは最後か 誰も返しにこんならこわっぱ達の家、畑、土地、全て没収して畑の肥やしにしたるわ」
おじいさんはそう思いながら家路につくのでした。
次の日、朝早くからおじいさんの家にお金を借りていた、ろくべい達が来ました。
家に入り、みんな正座をしてお金の入っている袋をおじいさんの前に出し、深く頭を下げて謝りました。
おじいさんはこう言いました。
「まぁ 足崩くじして頭上げい、わしもちゃんと金さえ返ってくれば文句はないけん ようみんな金を持ってきてくれたのぅ 畑の肥やしにする手間が省けて良かったわい」
ろくべい達は思いました。「畑の肥やしにされなくて良かっただ」
お金を返すと、ろくべい達は逃げるようにおじいさんの家を出ました。
「なんや もう おいとまするんか まぁ ええわ」
「さてと わしは畑にでも行くか」
村人からお金を回収したおじいさんは満足気な顔をして立ち上がり、今日も一日 畑仕事に勤しむのでした。
めでたし めでたし
読んでくださり、ありがとうございます。
方言が間違っているかもしれませんが、「こんな感じで言ったら怖いんじゃないかな」と考えて書いております。
よろしくお願い致します。
他にも小説を投稿しておりますので良かったら読んだ感想を頂けますと嬉しいです。




