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第1話「冒険者ギルドの登録しようとして」


「やっとだねぇ……」


 感慨深げに呟いた彼は神である。


 人の身になり、生まれ変わりを繰り返しのんびりと暮らしているのだが、ここ数回の人生は同じ島国で生まれ育ち、殆ど他国に出る機会もなく、今生(こんじょう)も同じと、いや、今まで以上に機会が訪れ無さそうだと分かった時に決めたのだ。



 冒険者として好き放題に生きようと!



  妥協せず楽しもうと!!



 切実とまではいかないが、かなり気合を入れて!!!



 そして目標目指して安全かつ(・・・・)しっかりと(・・・・・)自身を鍛えて、成人になる歳まで耐えて現在である。


 神としては一瞬と言っても差し支えないのだが、それでもあえて言うならば、長かったのである。


 数度の一生を生きた国の事が飽きたという訳では無いし、ましてや嫌いになったなどという事は決してないが、やはり広い世界を(せわ)しなく遊びまわりたくもなるわけだ。色々な出来事もあったし仕方のない事である。


 これからの輝かしいとは限らない、むしろ、自嘲しつつも好き放題する為恨まれることも多いだろう人生。


 それでも楽しく過ごせるだろう将来に夢膨らませて彼は目の前の建物、冒険者ギルドの扉を開けた。


 彼が冒険者ギルドへと入った瞬間に多く意識が自分へと向くのを感じた。それは目だけをちらり向けるものだったり、顔ごと向ける何者かと観察する深いものだったり、身体の動きに出さず気配を察するだけの物だったりと色々であったが、その大半が何かしらの行動を伴うものだった。ごく少数だが入る前から気付いている者も居た。


 今の世において中々に優秀そうな人物が多い事に、更に嬉しくなるのであったが、あたかも周りの意識が自分に向いている事に気づいていないとでもいう様な所作(しょさ)で、5人が並べるカウンターへと彼は向かった。


 現在は時間の関係か二人が座っている。それは特に問題ない事だが、なんと綺麗な女性が、である。それは普通の人ならばかなり驚くべき事なのだ。


 基本的な冒険者ギルドのルールとして正式に載っている事だが≪町の治安や方針に配慮しつつ安全性を考慮して、適切に元上級の冒険者やそれに類する男性を配置する事≫となっている。


 それはやはり魔物との命のやりとりを活動の中心としていて、血の気が多くなるのが当然だからである。


 もっと言うのであれば、冒険者ギルドとは基本的に手に職を付けていない者たちが集う場所で、肉体労働や危険な仕事、人々がやりたがらない仕事を仲介する事を目的として作られ、現在でもその役目を果たしており、荒くれ者と呼ばれる(たぐい)(やから)も当然の事だが少なくないからである。


 だが実際の所は、他業種への派遣、例えば林業や農業、建築業などの肉体労働は勿論、ウェイトレスやらウェイター等のサービス業へも派遣していて、経営者からすると忙しい時期の便利な派遣業の印象が強い。それどころか町によっては子供の世話や老人の話し相手から犬の散歩等、所謂(いわゆる)何でも屋としてしか機能していない場合もある。その雑用としか言いようの無い依頼は、どの冒険者ギルドでも受け付けているし、実際に多くの依頼が発注されていて、かなり生活に密着しているのが現状であり、その地位を守るために、問題ごとを起こさないように、特に暴力沙汰なんかには神経をとがらせているのである。


 そんな何処(どこ)か安心感を感じさせる昨今(さっこん)の冒険者ギルドでも、最終の決定権を持つ一ギルドの長につく様な者は、とても多くの経験をしてきた上級の冒険者やお偉方達であり、冒険者の対処には一般人以上に敏感なのである。


 色々と頭を抱えさせられる問題を起こす馬鹿を庇ったり、解決に奔走したり、事前に止めたり、巻き込まれたり、馬鹿の頭に拳を落としながら、多くないギルドの長に着ける程の信頼と実績と実力を持った上位の冒険者。


 今すぐに牢屋に入れて裁きたくなる野党さながらの粗野な荒くれ共、酔った勢いの無駄に大きな乱闘騒ぎ、人助けと称して小さな事件を大きくする善意で動いているだけに難しい者、そんな問題ごとの後始末や調整、中途半端に実力と権力を手に入れて威張り散らす愚か者を何とか掌の上で転がしてギルド側からも手腕を認められたお役人のお偉方。


 そんな彼等のいずれかが、それでもこの町では安全と判断しているのだろう。


 つまりは、驚くに値する程に珍しいことなのである。


 美男美女をギルドの受付に置かないのは、少しでも面倒な問題を減らすためには当然の処置であり、納得の人事なのである。


 そんな裏の事情を知らなくとも実体験として、冒険者ギルドの受付は厳ついおっさんが標準なのは当然の事であり、女性ならばミノタウロスと素手で殴り合えそうなレベルが当然と知っている外からこのギルドへ初めてやってきたの人は大体が何かしらの驚く様な反応を見せた後、ナンパみたいなやり取りをするものなのである。ちなみに、受付嬢に初恋を覚えた子供もそれなりに居る。


 当然だが何度も色々な人生を送ってる彼も事情を知っているし、それこそ数え切れないゴリラかクマか下手すりゃ怪物としか思えない受付を見てきて、普段ならば何かしらの会話でもするのだが、今の気分から言うのであれば、そんな事(・・・)より冒険者登録であった。


「登録にきました。お願いしま~す」


 自重しつつも自由気ままなやりたい放題な新しき冒険者生活を目前に、輝く様なニコニコ顔で鼻歌交じりに受付前に立った彼は、テンション高めでそう言った。


 その言動の全てが良くも悪くも彼の外見に合うものであった。


 彼の容姿は、今居る国からすれば若く見られる国の出身であり、その中でも輪を掛けての童顔で、身長も低いため更に若く見られるのである。つまり、この国の人から見れば子供以外の何物でもないのである。


 受付の女性もまた、微笑まし気な、さながら母性でもくすぐられるのであろう表情をしたが、直ぐに顔を曇らせて答える。


 ただ、内心では子供が精いっぱい背伸びをしているようにしか見えず、また少し前にあった出来事を思い出して、心暖かくしたままだ。


 その出来事とは、家族の生活を少しでも助けたいとの想いがありつつも、恥ずかしさや驚かせたい、反対されるかもしれないと、そんな考えから僅かな本音と殆どの建前を合わせた「男だし」とか「かっこつけたいから」なんて事を言って登録に来た、優しい子供の事である。


 つまり少々(ほだ)されても、そこはプロという事だ。


「申し訳ございません。冒険者ギルドの登録は成人からとなっております。この国では16歳から、見習いのランクであれば12歳から可能となっております」


 言葉通りの表情で頭を下げての対応である。


 解説すると、10代前半も前半、10歳成り立てと言っても通じる見た目の彼に、「貴方の年齢では登録できません。年齢によっては仮の登録ならできますよ」と、言葉の外で優しく告げたのである。


 彼もそんな女性の優しい対応を理解して、浮かれた気持ちからのニコニコ顔が優し気なものへと変化しつつも、予想以上に若く見られた対応で少し困ったように、


「一応これでも16歳なんで、何なら国では成人して一年以上たってることになるんですけど」


 そう左の腰に存在する自国の外ではあまり見られない一般的な、他国からすれば良質なと呼ばれるレベルの"刀"を軽く叩いて、出身地の仮の証明とでもした。


 彼の国では一月一日を迎えたら年齢が上がるという方式であり、15歳から成人として扱われるのである。


 これからの拠点にする町を早く見つけたとしても、郷に入っては郷に従うを、一応だが実行しようとして、自国の歳の数え方でだが、この国の成人に成るまで待ってから来たのだが、中々納得できる町に当たらず、結果として堂々と大人と認められる日を過ぎてしまったのである。


 「えっ」との声を漏らしてしまった彼女は責められないだろう。だってどう見てもそうは見えない、成長著しいとゴリ押しすれば半分の年齢でも通りかねない見た目なのだ。だから、つい、


「霊人(エルフなどの遠い昔に精霊や妖精など友好的で霊的な存在と人間との間の子)か、獣人(遠い昔に魔物と人間との間で生まれた子供全般を表す)、それか魔族(元来は魔人と呼ばれていた悪魔との子とされて忌み嫌われている存在)がご家族にいらっしゃいますか?」


 霊人とは精霊や妖精などの友好的な肉体を持たない種と人が交わったエルフなどの様な存在を表し、獣人は魔物との、魔族は悪魔との交わった結果生まれた種族とされている。なお魔族は元来、魔人と呼ばれていて、現在でこそ忌み嫌われているが、昔はそれ程嫌われている存在ではなかった。


 そしていずれの種族も人間より長寿である。


 余りの、言ってしまえば幼い外見に、国によっては問題になる発言をしてしまうのも仕方ないだろう。


 ただし一般的な人間の国では問題にならないし、他種族の領土に接していても友好的だったり、そういう話に敏感だったりなどの背景が無ければ問題にはならない。むしろ友好的でなければ差別が激しい国の方が多いのだが、この町ではあまり褒められることではないとされている。

 

 つい「そこまでかぁ」と苦笑いをしながら、町の事はリサーチ済みで一応知っているため、注意するために苦笑いをしながら少し気にしている風を装って言った。


「お国柄、よく若く見られるよ」


 言葉通りに、それこそ自国内ですら若く見られるのはよくある為に気にも留めない。普段なら見た目で人間の特徴しかない為に種族を聞かれることはないし聞かれても特別気にすることでもない。


 だが、この国ではあまり褒められることではなく、穏やかなこの町での種族差別を思い起こさせる発言は忌避される傾向にある為、人と接する職業である彼女に注意を促すため、そんな小さな演技をしたのだ。


 そんな様子にしまったと、気にしている事を聞いたかもと慌てて謝る受付嬢に、特に気にしていない事とついでにと両親も祖父母も人間種である事を伝えた。


 彼としても聞かれたし気になるかもしれないからと追加で答えたが、さながら嫌味を言っているみたいになって、若干ショボンと謝る受付嬢へとホントに気にしてないと慌てるように伝えることになった。


 如何(どう)にも納得していない彼女に、生年月日や幾つかの事を答えて証明としたが、やはり納得しかねる様子ではあった。


 だが、登録可能は可能である。可能ではあっても、見た目が見た目であり心情的に近所のお姉さん気分にすらなっている彼女からすると、既に優しい子供としてイメージが固まっている目の前の年齢16歳(仮)に、仕事として登録用紙を取り出してはいるが思い留まる様に説得したくて仕方ないのである。


 そこで密かに合図を出していた。


「おい、ギルドってのは子供の遊びじゃねぇんだぞ、見習いでもしてろガキが!」


 山賊にしか見えない(いか)ついおっさんが、威圧感を発しながら立っていた。




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