桜並木
四月 季節は春。
桜並木の道を兄の椿と並んで歩いて行く。
昔よく椿と歩いていたの思い出しながら、他愛もない話をしながら歩みを進めていた。
「ねえねえ。
あの学校の近くの駄菓子屋さんまだあるの?」
幼い頃、よく椿に連れられていった優しいおばあちゃんが店番をしていた駄菓子屋だ。
そこのお手製のお饅頭がひまわりは大好きで、行くたびに買ってもらっていた。
「あー、あそこな。
ばあちゃん、息子さんと暮らすことになっちまったらしくて、お店は閉めてるよ」
「えーー!!
そんなぁ。あそこのお饅頭大好きだったのに。」
5年という年月は厳しいもので、昔はあんなに元気なおばあちゃんのお店も美味しいお饅頭ももう食べられないのか、あの時沢山食べておけば、と少し寂しく感じた。
「あーあ。それなら僕も椿にいちゃんと一緒に残ればよかった。」
5年前、母の仕事の都合で引っ越していたのは実は母とひまわりだけなのだ。
当時、智久は既に社会人として働いており、家事もなかなかの腕前であった。
また椿はあの家を離れるのをひどく嫌がり、智久とともに残ることを望んだ。
結果、五年間の間まとまった休み以外は離れて暮らしていたのだ。
今回こうやって家族全員でまた一緒に暮らせるようになったことをみんな喜んでいたのだ。
「そんなこと言ってっけど
あの頃お前「お母さんと離れるのはイヤーッ!」ってしょっちゅうビービー泣いてたじゃねえか。」
「うっ….」
痛いところを突かれた、と思いながら
しょうがないじゃないかと少しむくれた。
あの当時はこの世の全てはお母さんだったんだから。
そんな会話をいくつか交わしたところで、曲がり角で1人の女性がこちらに手を振りながらまっていた。
腰のところまで伸ばした長い黒髪が風でゆれている。椿の中学校の制服をきており、美しい顔つきはどことなく昔の面影が残っていた。
「皐月ちゃん!」
古江皐月は、昔からの椿の友人で幼い頃はよくひまわりも遊んでもらっていた。
「わざわざ毎日のように待たなくてもいいのに」
「別にいいじゃん。
私が好きでやってるだけだし!
それに私もひまわりちゃんに会いたかったし」
ね?っとこちらに首を傾げながらいう姿は昔と変わらなかった。
「それにしても、ひまわりちゃんおおきくなったねー!
前よりまた身長伸びたんじゃない?」
「この前って、正月に会っただろーが」
昔と変わらず仲良しな2人になんだか心が暖かい気持ちに包まれた。それに反応するかのように、桜の花びらが舞っていた。