特別編・トラック野郎とバレンタイン
*****《ミレイナ視点》*****
私はミレイナ。アガツマ運送会社の社長秘書です!
本日のお仕事も終わり、事務所のお掃除も終わり、あとは配達から戻ってくるみなさんに合わせて、晩ごはんの支度をするだけです!
同僚のキリエと一緒に、夕飯の支度を始めます。
「ミレイナ、今日のメニューは?」
「お鍋なんてどうです? 商店街で買った魚介がまだ残ってました」
「ふむ、いいですね。では魚介鍋にしましょう」
キリエは優しく微笑みます。
私にとってキリエはお姉さんみたいな感じです。ちょっとセクハラは止めて欲しいですけどね·······。
下ごしらえを済ませると、コウタさんたちが帰ってきました!
「ただいま〜」
「たっだいまーっ、いい匂い······今日は魚介鍋ね!」
「くんくん·······おなかすいた」
『なうなーう』
コウタさん、シャイニー、しろ丸を抱えたコハクです。
みんなお腹を空かせてるみたいですので、早くごはんの支度を終わらせないと!
すると、調理中のキリエが言いました。
「ふむ······ミレイナ、少し具材が足りませんね」
「えっ······そ、そうですか?」
「はい。お腹を空かせたシャイニーとコハクがいますので、もう少し魚介が欲しいですね。あとお酒も······」
「······わかりました。商店街は近いですし、買ってきますね」
「そうですね。私が行きましょうか?」
「いえ、キリエは今日、お使いにでかけましたので、次は私が行きます」
「わかりました。ではおまかせします」
商店街はここから近いし、早く行って帰って来よう。
買い物を終えてガレージから二階へ上がる時のことでした。
『ミレイナ様、少しお時間よろしいでしょうか?』
「え? た、タマさん?」
コウタさんのトラックからタマさんの声。しかも私を呼んでいる。
とりあえずトラックへ近付くと、助手席のドアが開きましたので、乗り込みます。
「あの、なんでしょう? タマさんが私を呼ぶのなんて珍しいですね」
『はい。お伝えしたいことがあります』
な、なんだろう?
緊張しますね······コウタさんじゃなくて、私に。
『4日後、2月14日はバレンタインデーです』
「····························え?」
『4日後。社長の故郷では、女性が男性に贈り物をする日となっています』
「え、ええと? 贈り物······ですか?」
『はい。本日から4日後はバレンタインデーと言います』
タマさんの説明だと、4日後はコウタさんの故郷ではイベントの日らしい。なんでも、女性が男性に贈り物をして、気持ちを伝える日なのだとか·······。
「つ、つまり、私がコウタさんに贈り物を······?」
『いえ。ミレイナ様だけではなく、社員の皆様で贈り物を送る、というのはどうでしょう。クリスマスやお正月では社長が腕を奮いましたので』
「あ······そっか」
クリスマスではケーキとプレゼント、お正月ではモチを食べてお年玉ももらいました。
私たち、もらってばかりですね······お返しかぁ。
『私の話は以上です。ご検討下さい』
「は、はい······あっ!!」
お鍋、みんなが待ってる!!
「············と、いうことです」
「「「············」」」
その日の夜。私はみんなを部屋に呼んで、タマさんの話した『バレンタイン』というイベントの説明をしました。
つまり、みんなでコウタさんに贈り物をする、ということです。
「なるほど。確かに社長にはお世話になってますしね」
「ふーん、まぁ別にいいけど」
「ご主人様におかえししたい」
みんなやる気満々です!
ということで、みんなでコウタさんにチョコをプレゼントすることになりました。
もちろん、手作りです!
「て、手作り······あ、アタシには難しいかな?」
「そんなことない。シャイニーはできる子」
「コハクに子供扱いされるのもちょっとシャクね······」
「大丈夫ですよシャイニー、私やミレイナもいますから」
「そうですそうです! 一緒にがんばりましょう。もちろんコハクも!」
「わたし、ご主人様のためにおいしいチョコ作る!」
「······はぁ、わかった、やってやるわよ!」
それから打ち合わせをして、会社のキッチンではなく、トラック内のキッチンを使ってチョコ作りをすることにしました。
会社内だとコウタさんに気付かれる可能性もあるし、夜中こっそりタマさんに相談したら、チョコ作りの最中、コウタさんがトラック内に入れないようにしてくれるらしいです。ちょっとやり過ぎかもですけど、ありがたいですね。
チョコ作りは今度のお休み。みんなで頑張ります!
定休日、朝食を終えた私たちはアイコンタクトをしました。もちろん、これからチョコ作りを始めるのです。
でも、居間にいるコウタさんがちょっと気になります。
「ねぇコウタ、アンタの予定は?」
「予定? う〜ん······特にないなぁ」
『うなーお』
シャイニーがコウタさんに上手く予定を聞いてます。
コウタさんがソファで横になってると、しろ丸がコウタさんに甘えてきます。コウタさんはしろ丸をひっくり返して、お腹をワシワシなでてる······いいな、私も触りたいです。
「じゃあさ、ちょっとお願いがあるのよ。武器屋で投擲用ナイフ買ってきてよ」
「·········なんで俺が?」
「い、いいでしょ別に! お駄賃あげるからさ!」
「お駄賃って、子供のお使いじゃあるまいし······まぁ、別にいいけど」
「うしっ、じゃあゆ〜っくり頼むわよ。エブリー使っていいからさ」
「はいはい。よーししろ丸、散歩がてら行くか?」
『なうなーう』
「よしよし。コハクはどうする?」
「············今日は、いい」
「そうか。じゃあ行ってくる」
しろ丸を抱いて、コウタさんは出ていきました。
よーし! ここからは私たちの時間です!
トラックのキッチンにみんなで集まり、私が夕飯の食材と一緒にこっそり買っておいたチョコの材料を冷蔵庫から出します。
「チョコってアレでしょ? 溶かして固めるだけでしょ?」
「ざっくり言うとそうですね。でも、それじゃつまらないので、ひと工夫しましょう」
「キリエ、なに作るの?」
私はキリエの提案を事前に聞いていたのでわかりますが、シャイニーとコハクは首をかしげてました。
「一人一つというのもいいですが、ここは私たち4人でチョコケーキを作りましょう。それなら、料理が苦手のシャイニーのフォローもできますし、力仕事まあるのでコハクも頼りにできます」
「なーるほどね。そりゃいいわ」
「力仕事、わたしがんばる」
「ふふ、頼りにしてますね、シャイニー、コハク」
さすがキリエ。頼れるお姉さんって感じですね!
ではでは、調理開始です!
スポンジケーキを焼き、チョコクリームを作り、試作品のケーキを完成させました。
さっそく味見をします。
「うん、おいしいです!」
「うーん、ちょっと甘すぎない?」
「確かに。社長はもう少しビターな方が好きかもしれません」
「うまうま」
美味しかったので、試作品は完食しちゃいました。
話し合いの結果、ビターチョコケーキを作ることにしました。
試行錯誤しながら作ったので……ちょっと食べ過ぎちゃったかも。お腹周りが心配です。しばらく夕食は少なめに……。
シャイニーやコハクはチョコをかき混ぜたりフルーツをカットしてもらったりしました。シャイニーは刃物の扱いなら私やキリエよりも上手でしたし、コハクはチョコを楽しそうにまぜまぜしてました……こうやってみんなでお料理するのって、とても楽しいです。
こうして、バレンタイン前日にチョコケーキは完成しました。
*****《コウタ視点》*****
仕事が終わり、いつも通り夕食となった……のだが。
ミレイナとキリエがいつも通り食事を作り、テーブルに配膳する。
腹も減ったので、今日のメニューはなにかなと期待して席について気が付いた。
「………あれ?」
「どうしました、コウタさん?」
「あ、いや……」
『うなー………』
足下のしろ丸も元気がない。何故かというと……。
「あ、あのさ、なんか少なくないか?」
「え? そ、そうでしょうか?」
なんか、おかずが少ない。
しろ丸のドッグフードも少ないし、しろ丸の尻尾と耳がしおれてしまってる。
シャイニーとコハクの皿を見ると、明らかに多い。キリエも同じだ。
ミレイナはなぜか冷や汗かいてるし……どういうことだ?
「さ、食べましょ! ほらコウタ、いただきまーす!」
「え、あの」
「いただきます、社長」
「ちょ」
「いただきます、ご主人さま」
「………」
え、なにこれ新手のイジメか?
俺はともかく、しろ丸のメシも少ないなんて……これは言うべきか。
でも、理由無くこんなことするとは思えない。
「……いただきまーす」
『なおーん』
とりあえず、話はメシを食べてからだ。
「……ごちそうさまでした」
『うなー……』
うーん、足りない。
しろ丸も自分の皿を咥えて不満そうに鳴いてる。
食後のお茶が出され、俺はミレイナに言おうと視線を向けた。
「なぁミレイナ」
「あの、コウタさん、しろ丸。私たちから贈り物があります」
「………へ?」
『なう?』
ミレイナたち4人が立ち上がり、キッチンへ向かう。
そして、冷蔵庫の中から大きな箱を2つ持って来た。
テーブルの上に箱を置く。
「その、みんなで作ったんです」
そっぽ向くシャイニー、ニコニコしてるキリエ、箱をジッと見つめるコハク。
ミレイナは、パカッと箱を開けた。
「……これ、チョコケーキか?」
「はい。その、今日はバレンタインですから、私たちからチョコをプレゼントします」
「え………ば、バレンタインって、なんで………あ、もしかして!」
「そ、タマから聞いたのよ。アンタには内緒で、みんなで作ったのよ」
「ふふ、シャイニーも頑張ったんですよ、社長」
「ば、バカ! 余計なこと言うなっ!」
「こっちはしろ丸にね」
コハクがもう1つの箱を開けると、しろ丸を模した生クリームたっぷりのケーキがあった。
なるほど、夕食が少なかったのはケーキのためか。
『なうなーう、なうなーう』
嬉しいのか、しろ丸がピョンピョン跳ねる。
俺は感動していた。
サプライズでこんな……しかも、バレンタインとは。
「コウタさんにはお世話になってますから。お正月やクリスマスにプレゼントももらいましたし」
「ええ。ですので、これは私たちの気持ちです」
「ふん、アンタ1人で全部食べなさいよ。残したら許さないからね」
「しろ丸、いっぱい食べてね」
しろ丸はテーブルの上に乗り、みんなの前でモグモグ食べ始めた。
俺のチョコケーキもワンホールより小さいので、カットせず直接口に運ぶ。
「………ああ、うまい」
ビターチョコケーキだ。
ほろ苦い、でも……甘く心に染みていく。
キリエが砂糖多めに紅茶を煎れてくれたが、これも合う。
「…………」
「こ、コウタさん……な、泣いてますけど」
「シッ、静かにミレイナ。邪魔しちゃダメな気がするわ」
「社長、そこまで感動してくれるとは……」
「しろ丸、全部食べちゃった。美味しかった?」
『なおーん、なおーん』
しろ丸を抱きしめるコハク。
俺はケーキを1人で完食した。ワンホールより小さいが、1人でこんなに食べたのは初めてだ。でも、不思議と辛いなんてことはない。ぜんぶ美味しく食べれた。
「みんな、ありがとうな。とても美味かった」
「いえ、よかったです」
「ふふん、とーぜんでしょ」
「満足されたようで何よりです」
「ご主人さま、また作るね」
『なうなうなーう』
タマにもお礼言わないとな。クリスマス、正月と来てバレンタインだしな。
となると、次はホワイトデーか。ちゃんとお返ししないとな。
バレンタイン……最高だぜ!




